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INTERVIEW:佐藤健寿 × 古平正義

Info | 2010.07.19

TRANSITが今注目の写真家やアートディレクターにインタビューし、作品の内蔵部分を探っていく新企画。1回目のゲストは、『奇界遺産』を発表し、現在代々木のギャラリー・アット・ラムフロムで『新・奇界遺産展』を開催する写真家・佐藤健寿氏と、アートディレクター・古平正義氏にTRANSIT編集長加藤が、『奇界遺産』の誕生と、その後のストーリーを伺った。

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---------- TRANSIT加藤(以下T):古平さんをアートディレクターにしたワケは?

佐藤健寿氏(以下S):本を作るにあたって「ブックデザインは誰がいい?」って出版社の人に聞かれたんです。何人かの作品をずらりと並べて、選んでいいよって。そこで目にとまった『イサム・ノグチ生誕100年』の作品集を指して、「この方に是非!」ってお願いしました。そうしたら「この人編集に口だしてくるよ?」って(笑)。それで「望むところです」と。結果として、それが良い方向につながりました。


---------- T:そもそもこの本って、ジャンル的には写真集ですかね...?

古平正義氏(以下K):僕は写真集だとは最初から思っていません。ジャンル分けはなんでもいいんですけど、読者に写真集と思われたら最初から目に付かない、と思っていて。写真集って普通の人がちょっと身構えてしまうものだと思うんです。いわゆる写真作家の時は、思いきり写真集然としたものにしますが、この本は違うかな、と。初めて佐藤さんに会ったときに「そっち側でいこう」と決めました。

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---------- T:写真を最初に見た時の印象はどうでした? 奇妙な果実ばかりで(笑)

K:写真というよりも、佐藤さんの活動(?)に魅力を感じました。仕事上、多くの写真家の作品を見る機会があるけれど、表面上の違いはあれどどこか似通ったような印象を受けていて。映っているものにインパクトをないというか、「表面の一番上の薄皮の違い」で勝負しているというか。プリントとかがなくなりつつある今では、写真というのは「映ってるもの勝負」なんじゃないかと思う時があります。佐藤さんの写真は微妙な差異ではなく、彼自身が写っていた。写真って「こういうことだよ!そうそう」と思いました。

---------- T:微妙な差でしかないというのは、僕も感じています。骨太なテーマがない。テーマはあっても似通っている。好きな写真家と同じように撮っても、その人にはなれないし、いつまでもコピーでしかない。

K:それでちょっと佐藤さんには失礼かもしれないけれど、これっていわゆる「作品的な写真」ではないじゃないですか。でも僕は、それこそが素晴らしいと思ってる。「作品」かどうかって、みんななんとなく勝手に思って決めてる節がある。でも、実は作品的な写真の方が、そのフォーマットにすっぽりはまっているだけかもしれない。

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---------- T:写真についてですが、ご自身ではどう思っていますか?

S:僕も作品という意識はほとんどありません。被写体がこれだけ個性的で強烈だと、もう撮影に下手な小細工を弄するのは逆に恥ずかしい気もするし、被写体の強烈さと自分の作家性、みたいな二兎を追って一兎も得ずみたいなことになるのだけは避けたいなと。
今回は写真展とかやらせて頂いてますが、正直にいえば奇界遺産に関しては、写真そのものは素直な撮り方で、それを本として集めた時にぼんやり僕の作家性みたいなものが見えてくれれば御の字、くらいに思ってます。少し違う言い方をすれば、「撮りたい写真」じゃなくて「撮られるべき写真」を撮る事を心がけたというか。
本自体の作りについても、そもそも見られなければ意味がないと思っているので、だいぶ「分かりやすい」作りにしました。ただ「分かりやすい」といっても、あくまでそれは入口の話で、見ようと思えば幾らでもマニアックにも楽しめるような工夫も随所に入れたつもりです。今回は編集も自分でやりましたが、抽象性と具体性のバランスというか、そういう全体のニュアンスをかなり細かいところまで古平さんと意識を共有できたことが、本当に良かったと思います。

K:僕は最初、全然売れないと思っていたんですけどね...。というか、みんなそう(笑)でもOLさんとかが普通に買ってるという話を聞いて。最初は疑問だったけれど、なんとなく解る気がします。作り手が写真集だとは思わないにしても、一般の方たちにしてみれば、いわゆる「写真感」に溢れた写真集だって認識して、手にとってもらえているのかな、と思います。

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---------- T:僕のまわりの女性も結構買ってますよ。分厚いし文章もあって図鑑みたいだし、物としての存在感がすごい出ていますよね。そんなトータルで、所有欲を誘う本です。

S:いろんな意味で、ニュートラルな地点に落とし込むことができたなぁと。それこそ、老若男女、オタクでもオシャレな人でも誰が持っていてもおかしくない本にしたいと思っていて。挿絵をお願いした漫画太郎センセイも一見マニアックに見えるけれど、実はジャンプ黄金期に800万部も売った方だし、古平さんも奈良美智さんの作品集のようなアートの仕事から、ラフォーレの広告とかポップな仕事も手掛けている。マニアックなものは多くの人が共感しないと決めつけるのは良くないな、と。画太郎さん、古平さんと仕事をしてみたかった理由は、どちらも両方往き来できるエッセンスを感じたからです。
この本も、フォーマットを変えれば多分、旅行本にもできたし、オカルト本にもできた。それを少し工夫してアートの文脈に載せたらどうなるか。それに非常に興味がありました。写っているものの多くもそうなんですが、どれもアートともジャンクとも、つまり天賦とも無駄とも言えるわけで、要は作り手ではなく、見る側の問題で、本来紙一重なものだとも思います。

---------- T:でもやはり佐藤さんのキャラクターが全面に出ています。興味のわくままに、誰でも撮れるかもしれないけど、誰もやらないことを淡々と続けている。デザインもシンプルで、写真を見たり文章を読むという基本的な行為にストレスがない。

K:映っているものがすでに「変」なので、デザインはなるべく余計な物はそぎ落として、スタンダードを追求しました。20年前にあってもおかしくないし、20年後にあっても良い。

---------- T:たしかに。小学校の図書館にあっても違和感がない。というか是非あって欲しいものです(笑)世界中の珍妙なモノだけ図鑑は、小学生が見ても、おじいちゃんおばあちゃんが見ても単純に「スゲー」と思う。「未知なる物を見たい」という欲求は誰にでもあることです。

S:僕のHPへの投稿で、5歳の男の子が書店に入るなりこの本をずっと離さなかったって。その子のお父さんが書いていて(涙)。そのくらいポテンシャルのある本にしたかったし、すごい嬉しかったですね。

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---------- T:最後に。写真家がアートディレクターに求めるものとはなんですか?また古平さん自身、本を手掛ける行為について聞かせてください。

S:本という事で言えば、自分はむしろ壊される方が好きです。よくなんで画太郎センセイの絵を?と聞かれるんですが、古平さんのアートワークと僕の写真だけで本を作ったら、それはそれで収まりが良かったとは思うんですが、最後にスパイスというか、もうひとつ刺激が欲しかった。写ってるものが狂っているから、最後は本自体も狂ってないと面白くないというか。だからそのスパイスも写真に埋没するようなものでなくて、本全体を台無しにしかねないような強烈なものにしたかったんです。何でも、マイナスとマイナスをかけたらプラスになるみたいなものが好きで。自分ははじめから編集的な視点で考えているかもしれません。撮影自体も編集行為の一環な気もするし、挿絵やデザイナーの引き合わせ含めて創作活動だと思います。

K:デザインを加えるのが良い時もあるけれど、要らない時もある。デザインという概念は、今では自動的に「デザインするもの」になってきてるから、実はあまり考えられていないまま、雰囲気でそれっぽいデザインが施されていることが多い。必要なデザインかどうか、きちんと考え抜くことが大事だと思います。みんな決まったものだけ好んでいるわけじゃない。もう少し頭を白紙に戻して、「見る人は何を求めているのか」を、深く考えて本のデザインに関してはやっていこうと思っています。

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インタビューを終えて...単純にメジャーでPOPなものとマニアックなものとの境界線なんて、デザインや見せ方で飛び越えることができると再認識した。写真家とデザイナーの幸福な出会いとともに『奇界遺産』に賛辞を贈りたい。


佐藤健寿・・・人間と想像力、奇習や奇人、タブーとオカルト、自然と珍奇といった博物学的視点、グロテスクな美学的視点をテーマに世界中を撮影。著書に『X51.ORG THE ODYSSEY』(講談社)など。

古平正義・・・第一線で活躍するアートディレクター&デザイナー。(有)フレイム主宰。手がけたものに横浜美術館「奈良良智」「イサム・ノグチ生誕100年」など。



佐藤健寿『新・奇界遺産』展


期間:7/9(金)〜8/29(日)
場所:GALLERY at lammfromm(ラムフロム・ザ・コンセプトストア)
時間:12:00〜20:00(月〜金)/11:00〜20:00(土)/11:00〜19:00(日・祝)

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*展示写真は購入可能です

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*古平正義デザインの部数限定ZINE「奇界遺産エクストラ」も販売中(オンラインでも購入可)。

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*奇界遺産Tshirtも各種揃う

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*強烈なタンブラーも