画家、美術家、小説家、グラフィックデザイナーなど多くの顔を持ち、
世界的に活躍するアーティスト。横尾忠則。
TRANSITでは、超多忙の中、毎号コラムを連載していただいており、
12月5日発売予定の最新号でも執筆してもらっている。
*左:TRANSIT05号より/右:TRANSIT06号より
横尾氏がこの度、写真展を開くこととなった。
国内外で多くの展示、回顧展を行ってきた画家である横尾氏の
「初」写真展と聞いてすっ飛んで見に行ってきた。
テーマは、2000年ぐらいから絵画として発表された名作「Y字路」
が写真で表現されている。本人と話していたとき「とくかく歩きまわって
Y字路を探して、写真にもたくさん収める。それから絵を描く」と聞いた。
そして、Y字路を描き始めたきっかけは、横尾さんが少年の頃通っていた
模型店がちょうどY字路にたっており、なんとなくその風景を
写真に収めたことがきっかけだという。
*『Y字路』(東方出版)より
今回の展示は絵画Y字路ではなく、写真Y字路。
ある意味で「原点回帰」ともいえるのではないか、と考える。
独自のぶっ飛んだ視点で(頭の中をみてみたいもんだ)表現される絵は
たしかに情熱的な表現方法に違いない。しかし目の前にある「写真」
はロケハン用に撮ったものを集めた代物ではない。写真Y字路は間違いなく、
情熱的な表現で迫ってくる。単に絵筆を写真機に置き換えたに過ぎない。
オープニングパーティーにお邪魔すると、予想通りギャラリーは大勢の人で溢れていた。
中には、有名雑誌の編集長や、人気写真家など、そうそうたる面々が顔を並べる。
その中に、独特のユラリとした空気を纏い、横尾氏が立っていた。
一見、特に展示初日だからといっての感情の高まりは見て取れないが、
時折、来客者との話の中で見せる笑みが、やはり初日なんだということを感じさせた。
会場に入りまず目を引いたのは入り口正面の壁いっぱいに貼られた巨大な作品だ。
キャプションには「"Setagaya Ward"2009 」とあるので、世田谷区のどこかになるだろう。
雨に濡れた路面に街頭の光が映りこみ、道の先へ誘っているようにも見える。
この大きさのせいもあるのだろうか?目の前に立つと吸い込まれそうになる錯覚を覚える。
この巨大な作品も含め、今回の作品は横尾さんが、東京をくまなく歩き
2年間撮りためたものの中から約50点が展示されている。
同時に展示と同じ写真集も出版される。
こちらには、今回展示されていない写真も入っているので、
Y路道の世界をより楽しみたい方にはうってつけだろう。
作品に写っているのは、どこにでもあるようなY字路。
しかし同時に、どこにも存在しないような非現実の匂いも漂う。
右か左か、その先は天国か地獄か、ドローイングとはまた一味違った
新たな横尾忠則の世界がここに広がっている。
横尾忠則写真展「東京Y字路」
10月20日(火)~11月21日(土)
10:30~18:30(日曜、月曜、祝日休廊)
会場:西村画廊
東京都中央区日本橋2-10-8
日本橋日光ビル3F
写真集『横尾忠則 東京Y字路』
発行:国書刊行会
定価:¥3990(税込)