【57号 タイ特集】
タイと日本と世界のジェンダー事情

Story - 2022.11.01
「性の多様性に寛容な国」として知られるタイ。
そんなタイのジェンダー事情をひもといてみると、それぞれの意思を尊重したいと願う人びとと、意外にも未整備な法律のはざまで揺れ動く、タイのいまの姿が垣間見えた。
TRANSIT57号タイ特集では、タイのジェンダー事情を、日本や世界と比較した。

supervision= THANAPON (Aim) THABJAN, KOTETSU NAKAZATO text= TRANSIT



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©︎Stock Catalog

Q1.婚姻の自由・ 同性婚は認められている?


●日本
同性婚を含む婚姻の自由は認められていない。だが、2015年に渋谷区・世田谷区が導入したことを皮切りに、200以上の自治体で「パートナーシップ制度」が採用されている。とはいえ、この制度下では相続ができないなど結婚とは認められる権利が異なっている。
●タイ
婚姻の自由は認められていないが、シビルパートナーシップ法は議会に可決されており、今後国王の承認などを経て法制化が期待される。この法案により、養子縁組などは可能になるが、相手の苗字を名乗れるかなど言及されていない点も多く、結婚ができるよう法改正を求める声も強い。
●その他の国
婚姻の自由を認めている国は、アメリカやヨーロッパ諸国、南アフリカ、ブラジルなど全部で31か国。もっとも早く法制化されたのは2001年のオランダ。アジアでは台湾が唯一法律で婚姻の自由を認めている。


Q2.就職の際、障壁や差別はある?


●日本
履歴書などで性別を選択する必要があるなど、自分のアイデンティティを守りながら働けるか不安に思う人も多い。一方で、任天堂など一部の企業では、国の制度が適用されない同性婚のカップルにも配偶者に認められる社内制度をすべて保障すると発表するなど、明るい動きも。
●タイ
7年前に多くの政治家や文化人を輩出する名門校・タマサート大学が、助手として働いていたケート・カンピブーンさんの講師採用を、トランスジェンダーであることを理由に拒否(のちに勝訴し採用に至る)。これを機に職場での差別を見直す動きが広がっている。
●その他の国
EUは2000年に「雇用と職場における平等」指令を制定し、職場における差別を禁止。またアルゼンチンでは、公務員の 1%以上に、労働市場から排除されていたトランスジェンダーらの採用を義務付けた。

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©︎sarah harrison

Q3.性別を変えられる?


●日本
戸籍上の性別変更自体は可能であるが、変更するには不妊要件(生殖機能を摘出していること)、子なし要件(20歳未 満の子どもがいない)など5つの要件を満たす必要がある。こうしたハードルの高い現状の変革を求めるデモが新宿駅前を中心に開催されている。
●タイ
意外かもしれないが、タイでは戸籍上の性を変更することは認められていない。21歳の男性が必ず通る関門・徴兵検査には、 性転換手術後であっても戸籍が男性である者は全員参加する義務がある。ただし、法改正を行う動きは活発で、すでに法律草案の作成を行う国会議員もいる。
●その他の国
1972年のスウェーデンを皮切りに、各国で性別変更制度を承認する動きが出始め、最近はXという第三の性別を選択できる国も。2014年にWHOは性別変更時の不妊要件は人権侵害であると声明を発表している。


Q4.どんなジェンダー教育が行われている?


●日本
教科書に性の多様性について触れられている箇所は年々増えているが、学習指導要領には含まれていないため、直接的なジェンダー教育を行っている学校は少ない。そのため、正しい知識をもった教師も少なく、NPO法人などが包括的なジェンダー教育を特別講義などで行うことも。
●タイ
健康教育の教科書に性の多様性に関する内容が追加されたのは、2019年のこと。きっかけは、政策を提言できるTV番組 。教科書に性の多様性について掲載すべきと訴え、署名活動を展開したのだ。その努力が身を結び、タイでは7歳頃からジェンダーについて学ぶことができるようになった。
●その他の国
「男性が好き」「どちらの性にもあてはまらない」など、誰もがもつ性的指向・性自認そのものを指す「SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)」を尊重する考え方が主流に。教育現場でも欧米圏を中心に取り入れられている。



タイは性の多様性に寛容なイメージが強いが、その内実は婚姻の自由が認められていなかったり、戸籍上の性別変更ができなかったりと、意外なことに制度的には未整備な部分が多い。

タイで活動するアクティビストのエイムさんは、「タイは多民族国家なので、さまざまな価値観を受け入れながら暮らすのが当たり前。また、仏教徒が多いので、命を慈しみ相手を敬う教えが広く浸透している。お互いを尊重する心が、誰もが生きやすい環境を作り出すのではないでしょうか」と話す。

タイ含め、世界各国の性的多様性に向けた動きに、今後も注目だ。



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TRANSIT57号「やっぱりやっぱりやっぱりタイが好き!」

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