日本で27年ぶりの大規模個展開催。
デイヴィッド・ホックニーの
進化する世界を体感しよう。

現代美術を代表するアーティストであり、半世紀以上にもわたり新たな表現を求めて活動をするデイヴィッド・ホックニー。

日本では27年ぶりとなる大規模個展「デイヴィッド・ホックニー展」@東京都現代美術館(開催中〜11月5日まで)を訪れた、イラストレーター・佐伯ゆう子さんによるレポート。

text=YUKO SAEKI
photography=TRANSIT


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《春の到来、イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート》(2011)。ポンピドゥー・センター 2023年 ©David Hockney

2023年の夏、ホックニーが日本にやってくる。 このニュースをネットで見つけたとき、嬉しくて思わず声が出た。 2018年にロンドン、パリ、NYで行われた展覧会を逃していた私は、今回の展覧会へ行く前日は興奮して眠れなかった。

ホックニーは現在86歳。長時間の移動にドクターストップがかかり来日はできなかったものの、 今この時を生きていて、現在進行形で描いているという事実に感謝したい。



東京都現代美術館で、11月5日(日)まで行われる「デイヴィッド・ホックニー展」は、60年以上にわたり一貫して身近なモチーフを描きながら、モノの見方を探究していることがわかる8章に分かれた展示方法で、代表的なプールのリトグラフもあれば、私はあまり見かけたことのなかった太い線のドローイングもあり、部屋を入るたびため息が出た。

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《イリュージョニズム風のティー・ペインティング》(1961)。テート 2023年 ©David Hockney

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《スプリンクラー》(1967)。東京都現代美術館 2023年 ©David Hockney

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《クラーク夫妻とパーシー》(1970-71)。テート 2023年 ©David Hockney

繰り返し何度も画集や液晶画面上で見て知っている原画を見た。知っていた絵が違った。絵は原画で見ると違う。毎日見ている小さな平面画像は目に見えるすべてではない。 光で透ける髪の毛、どんな人か想像がつく足元、描かない空間、水の表現。近くで見ると筆運びに大胆さを感じる。

絵を描く仕事をしている私は、そんな当たり前のことに改めて気づいた自分に驚き、同時に喜びが胸にあふれて自然と笑顔になった。私は、絵のもつ力はそういうものだといいなと思う。


「対象をひたすら見つめ考えることに興味がある。そういう問いが伝われば人は反応する。"見ること"は普通の行為だが、どれだけ真剣に見るかが問題だ」ーーーDavid Hockney (HOCKNEY A FILM BY RANDALL WRIGHTより)

幼い頃から、ノートの隅やバスの切符にまで絵を描いていたホックニーは、1959年にロンドンの美術学校へ入学。 トレードマークのブロンドヘアーになる前のホックニー青年は、教室の隅で熱心に描いていることを同級生にからかわれて悔しい思いもしたそうだ。ロンドンからNYへ移り住んだ頃の作品たちは、自己の内面に向き合ったモチーフを描きながらキャンバスの型を変えるなど、見ている者の視線を彷徨わせ絵の中に入る手がかり(モノの見方)を初期から問いかけている。

その後、LAやノルマンディーの光に導かれ、その土地で描いている。 楽しく描ける環境に自分を置くことが、絵を描く最初の一手のようだ。

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《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》(2007)。テート 2023年 ©David Hockney

ホックニーの著書を読むと、たいへんな研究家だということがわかる。古い技法を知ると正確に再現したりしている。 絵の歴史は、洞窟の壁画の絵からはじまり、投影するカメラ等が登場し、油絵の具が誕生。さらに乾きの早いアクリル絵の具が開発され屋外でも描けるようになる。そしてiPad。さまざまな手法で描いてきたホックニーも2010年からデジタルで描きはじめる。デジタルの進化は、現実と見間違う美しい夕陽や、葉先に雫がウルウルと光るのを描くこともできるのに、堂々とiPadやiPhoneだと判別できるタッチで描く自由な筆の運びに、初めて見た私は良いショックを受けて絵を描く友人と意見交換した記憶がある。

前情報なしに見てほしい展覧会ではあるけれど、私が一番印象に残っている絵はやはりコロナ禍にiPadで描かれた90mの新作。 今回の展覧会は2020年に開催を予定していたが延期となった。そのため新作が日本で見れた。ということでもある。 見れた。というよりも、体験した。のほうがしっくりくる。動いていない絵で、体験した。という感想をもった。こちらの心さえ自由であれば。 私は散歩しているかのようにすんなりと絵の中に入り、春が来た。と胸がはずんだ。


「新たな見方は新たな感じ方。絵は世界を変えると信じている」ーーーDavid Hockney (HOCKNEY A FILM BY RANDALL WRIGHTより)


この体験をした私は、通勤中に目に入る真夏の太陽を燦々と浴びる木々たちを、脳内でホックニーの色彩に変換して見ることが可能になった。独自の色彩をイメージする目をもったともいえる。

長い年月熱心に創作に向き合った人びとの作品を見ると、平和や喜びに溢れていて私は描く勇気がでる。 モチーフが何であっても、絵が発信している言葉にできない何かをキャッチできる自分でいれたらと思う。

あまり見かけることのないホックニーのグッズも素敵なものばかり。 この秋ロンドンで肖像画の個展も開催予定で、モデルは2022年にアトリエへ訪れたイギリス出身のスター、ハリー・スタイルズも! まだまだホックニーは、モノの見方への問いや喜びを描いている。

INFORMATION

「デイヴィッド・ホックニー展」


会期:2023年7月15日(土)〜11月5日(日)
会場:東京都現代美術館 企画展示室1F/3F
住所:東京都江東区三好4-1-1
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:00〜18:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜(7月17日、9月18日、10月9日は開館)、7月18日、9月19日、10月10日
料金:一般 2300円 / 大学生・65歳以上 1600円 / 中・高生 1000円 / 小学生以下無料
HP : https://www.mot-art-museum.jp/