▶佐内正史Interview
写真、近未来からの応答
『静岡詩』9/22〜@amanaTIGP

静岡市美術館で8月まで開催されていた佐内正史の写真展『静岡詩』が、9月22日から10月28日まで東京のamanaTIGPで行われる。

静岡市生まれの写真家・佐内さんにとって、「静岡は一番撮りにくい場所」だったという。地元を撮ることで浮かび上がってきた「写真と言葉」について、過去でも現在でもない「写真の近未来」について、話を訊いた。

photography=MASAFUMI SANAI
text=MAKI TSUGA(TRANSIT)




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●撮りにくい、地元静岡。


―――写真展『静岡詩』では、過去に撮った静岡の写真と今回の展示のために撮り下ろした写真で、展示と写真集を構成していらっしゃいますね。これまでテーマ性のある作品づくりから距離を置いてきたように感じますが、『静岡詩』はどのように生まれていったのでしょうか?

佐内正史(以下、佐内):写真ってどこでも撮れると思ってきたし、どこでも撮ってきたけど、地元の静岡だけはずっと一番撮りにくい場所だなって思ってた。だから静岡市美術館で展示をすることになって、静岡を撮ると決めてから、なんで地元で写真が撮りにくいのかその理由を探していたし、写真を撮るってどういうことなのかをずっと考えてた。

撮りにくい理由は、どうしたって地元が写りこんでくるから。これまで「わからないもの」とか「曖昧なもの」を撮ってきていて、ただ写真を撮るだけでよかったんだけど、静岡を撮るということは「地元を撮る」っていう言葉がどうしても入ってくる。写真は言葉で説明のつかないことをやるものだって思っているんだけど、言葉に追いつかれそうになるんだよね。それで静岡を撮っている間、ずっと写真と言葉のことを考えてた。

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たとえば自分が3、4歳まで住んでいた場所に行ったら、あのときの階段がない、フェンスがない、給水塔がないってなる。でも給水塔がなくなった後の街を撮るって、写真とは違う。懐かしさとか、失くなったものとか、変わっていくものを撮ろうとは思ってないから。

「あ、この辺で撮ろうかな」って立ち止まってカメラ構えたときに、その場所に運命感じちゃったり懐かしさを感じると、もう言葉に追いつかれてるから撮れないんだよね。

だから物理的に距離をとるようにして写真を撮ってた。友だちと静岡に行ったり、脚立に上って地上から離れて撮ってみたり。そうすると、だんだん撮れるようになってくる。言葉って部屋で一人になって書くものだから。だから一人になると言葉が追いついてくるんだよね。誰かといると言葉を潰していってくれる。「次こっち行きたい」「しらす丼食べませんか」ってどんどん邪魔が入ってくる。

海なんかもさ、実家が海の近くで子どもの頃は毎日行ってたから。一人で海なんか行っちゃったら、ざばーんって波が来て、言葉にどんどん追いつかれてきちゃう。写真を撮るんじゃなくて、言葉を書くことになる。でも友だちと海に行くと「佐内浸ってんなよー」ってなるから。そうやって言葉を潰してくれる。写真展のタイトルは『静岡詩』にしたんだけど、最初の仮タイトルは『友だちを連れて静岡にいく』だったんだ。

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●浮かび上がる、もう1つの写真。


―――『静岡詩』の展示や写真集を見ていて感じたのは、写真の応答性ということでした。写真が言葉を発するわけではないけれど、写真を見ていると、呼応するように幼い頃の記憶や地元の帰省したときのことを思い出したりする。「詩」のように句読点ではなく余白のようなもので点が打たれているような写真で、見ている人の思考や感傷を引き起こす装置のようにも感じました。

佐内:『静岡詩』の展示をして思ったのは、自分の写真には「2つの写真」があるんじゃないかということ。まずプリントされた写真がある。そして写真と見る人の間に、もう1つ別の写真が生まれてくる。『静岡詩』の写真が装置のように感じたのは、そういう部分かもしれない。

たとえば駐輪場の写真を見たときに、人によって浮かび上がってくる像が変わってくる。余地がある写真ともいえる。自分が撮った写真について語られるとき、自分の写真自体には言葉が向かわなくて、もう1つの写真について話されているんだと思う。

そんな話を自分のHPにも書いたんだよね。写真と言葉は平行線で、静岡で写真を撮っていると言葉がついてきたりするんだけど、言葉があるときにはあまり写真が撮れなくて、疲れて言葉が消えてきたときに写真が撮れたりする。撮影が終わってプリントした写真を見ていると、また言葉が生まれそうになる。『静岡詩』は写真と言葉が一緒に活動していた気がする。

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佐内正史HPより


●並走する、写真と言葉。


―――『静岡詩』というタイトルにしても、写真と言葉について考えさせるものですね。写真と言葉ということでいうと、佐内さんの写真を見ていて感じるのが、写真がもつ預言性について。たとえば目の前のなにかに反応してカメラのシャッターを押して、プリントをして、言葉になる前に写真として存在させることができる。写真は言葉よりも先にあるものだなと。

佐内:写真に任す。写真を見ていると、わからなかったことがわかりそうになるときがある。でもやっぱり言葉にすることはできない。いいなと思った写真があっても、それがなぜいいのか、20年経っても言葉にできないかもしれない。近未来にいっているような感じもある。今じゃなくて、過去じゃなくて、ちょっと先のまだはっきりしないことを撮っているんだよね。

大きいことってふだん生活してるなかでは、あんまりはっきりしなくて、考えることもしなくて。人と人との関係で生まれるものではなくて、人と風景だけで生まれるものでもなくて、人とカメラと被写体(人、風景、物)で生まれるものなんじゃないかな。

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●地元と次元。


―――カメラによって、自分と世界だけじゃない、広いつながり方ができると。

佐内:『静岡詩』で静岡を撮っていて、地元を撮ること、写真のなかの近未来に会うことが、自分のなかではつながっているんだなと思った。だって地元に帰るって、めちゃくちゃSFじゃない。自分の記憶の中の風景とものすごく似ているけどそれとも違う場所で、映画のセットの中に放り込まれたみたいな気分で街を歩くことになる。小さい頃の自分とか、自分が通っていた小学校から、40年前の応答がきたりするわけじゃない。

映画の『未知との遭遇』は、人と異星人が音で交信する話だけど、この写真集 (『静岡詩』)も応答があるというか。それがこの本のもってるものだと思う。静岡を撮るというより、地元を撮った本になっているから、静岡の人でも、仙台の人でも、福井の人でも、同じように見れると思う。

―――写真集『静岡詩』にはエッセイが書かれていますね。現在と過去といろんな時代の場面が次々と波のように押し寄せてきて、ひとつの映画を観ているようでした。

佐内:エッセイを書くのは初めてだったから、ものすごく時間がかかった。これまで詩は書いてきていたし、自分のなかで詩と写真は近いから1日何十個も書けるけど、このエッセイは1カ月で16ページしか書けなかった。どうしても文と文をつなげて構成しようと思うと、説明になっていって冷めちゃうことがある。

頭の中に浮かんでいった映像や写真を、言葉にして並べていった。後で読み返したら、漫画だったり絵コンテみたいに、シーンでつながっていくようになってた。

ハイハイして暗いところから明るいところに向かっていく自分、側溝の泥に落ちた自分、ひなたごろりんしてヨーヨーチャンピオンになった自分、原稿を書いている自分がいて。小さい頃から写真の風景を見ていたんだなって。『静岡詩』ができて、今、そう思った。

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関連記事はこちら→▶︎Interview 佐内正史 「カメラでしか行けない場所がある」 #旅と写真

INFORMATION

佐内正史 写真展「静岡詩」


■EXHIBITION
日時:2023年9月22日(金)~10月28日(土)
会場:amanaTIGP  www.takaishiigallery.com/jp
住所:東京都港区六本木5-17-1 AXISビル 2階
入場料:無料
休:日・月
*写真の展示販売あり
*オープニングレセプション9月22日(金)18:00〜20:00

■BOOK
写真集『静岡詩』(対照レーベル)
¥2500/208ページ/2023年7月発売
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■PROFILE
佐内正史(さない・まさふみ)●写真家。1968年静岡市生まれ。1997年、写真集『生きている』でデビュー。2003年、写真集『MAP』で第28回木村伊兵衛写真賞を受賞。2008年に出版レーベル「対照」を立ち上げる。近著に写真集『写真の体毛』(2022)、『銀河』(2018)等。曽我部恵一とのユニット「擬態屋」では、佐内の詩と曽我部の音合わせをした『DORAYAKI』(2022)を発表。マヒトゥ・ザ・ピーポー初監督映画『i ai(アイアイ)』では撮影監督を務める。
Instagram:@sanaimasafumi
HP:www.sanaimasafumi.jp

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