Travelog by TRANSIT編集部
フランスの工芸をたずねて
穏やかなリモージュの時間

TRANSIT編集部の小さな旅の記録を、徒然なるままに写真と言葉で綴った「Travelog」。
旅の途中でノートの隅に走り書きした電車の時刻、街角で耳にした音楽、コーヒースタンドで済ませた朝食、現地の人と交わしたいくつかの言葉......
そんな他愛もない旅の断片たちを集めた。

今回はフランス・リモージュ編をお届け。

Cooporation= Office de tourisme de Limoges Métropole , BERNARDAUD
text=YUE MOROZUMI(TRANSIT)
photography=YUDAI EMMEI



「ここで人生の夏休みを過ごしたい」「おばあちゃんになったら住みたい町No.1すぎる」。町を歩きながら何度もそうはしゃいでしまったのが、今回の旅で訪れたリモージュだった。フランス南西部にあるアキテーヌ地方、パリから電車で3時間ほどにある町。まだあまり観光地としてはメジャーではないけれど、ぜひいろんな人に行ってほしい。そんな思いを込めて、リモージュで訪れてほしい場所をいくつかリストアップして紹介してみたい。

20240703_travelog_62.jpg
20240703_travelog_64.jpg


1.陶芸の老舗〈BERNARDAUD〉


1863年に創業した〈BERNARDAUD(ベルナルド)〉は、リモージュ名産の陶磁器「リモージュ焼き」の老舗。現在も家族経営で、常に卓越した品質と正確さを追求しているブランドだ。予約すればその制作風景や歴史を丁寧に説明してくれるツアーもある。

20240703_travelog_056.jpg

そもそも、このリモージュ焼きのはじまりは18世紀。もとは産業もない貧しい農村だったがある日、この地で陶磁器の原料であるカオリンが採れることが突然わかったのだ。それからは多くの農民たちが陶磁器づくりに励んだといわれている。

20240703_travelog_83.jpg

リモージュ焼きはカオリン、長石、石英、水を混ぜ合わせてつくられる。型を使って成形したら焼き、その後光沢を出すために釉薬がかけられ、再び焼成される。その一番の特徴は、とにかく真っ白なこと。リモージュでとれるカオリンの白さは、他の国や地域ではなかなか見られないほどだったという。(ただし、現在はリモージュではカオリンはほとんど採れなくなってしまったそう)

20240703_travelog_05.jpg

リモージュ焼きはナポレオンやマリー・アントワネットも使用したといわれていて、この〈BERNARDAUD〉の陶器もジョエル・ロブションなど名だたるレストランや著名人御用達の逸品。歴史と伝統を受け継いだ職人技は、いま尚受け継がれている。長く愛用したい、美しく誇り高い工芸品だ。

20240703_travelog_062.jpg


2.中性の趣残る、小さな旧市街


古代都市が築かれたり、サンティアゴ巡礼路の宿場として古くから栄えてきたリモージュ。石畳の旧市街を歩いていると、立派な教会やかわいらしいショップが立ち並ぶ。

20240703_travelog_273 (1).jpg

なかでもぜひ立ち寄ってほしいのが中央市場 (Halles centrales)。リモージュ名物の料理を購入したりその場で食べたりできる。

20240703_travelog_43.jpg

市場内のお店のひとつ〈Les Saveurs Limousines〉で料理をいくつか購入して、軽いランチに。そば粉のクレープで豚肉のリエットを巻いたロール的なもの、Galetou limousin(ガレット・リムーザン)。チェリーが入ったプリンタルト的なお菓子・Clafoutisクラフティ。いずれもリモージュ名物。Galetou limousinは見た目がなかなか質素だが、お酒がすすむ味。チェリーの酸味とやわらかなカスタードフィリングのクラフティも、意外と重くなくてやさしい。(ちなみに、市場の前にある〈Francis Flognardes et Clafoutis〉というカフェにも、さまざまな種類のクラフティがあるのでおすすめ)

仮1.jpg
左/お店のお兄さん。 右/手前のお皿がガレット・リムーザン、奥がクラフティ。


でも、正直本当にいちばんおすすめしたいのは、Beignet(ベニエ)という大きなドーナッツ。これはリモージュ名物というわけではないのですが、外はさっくさくかりかり、中はもっちりじゅわじゅわで、あまりにおいしかった。ものすごい大きさなのに気づいたら爆速で胃におさまります。 ちなみに、市場の建物の中外に陶器でできたタイルや照明の傘などがあるのもかわいいポイント。ぜひ探してみて。


3.リモージュ焼きの新しい風、〈Non sons Raison〉


最近リモージュで生まれた気鋭の陶器ブランドも訪ねてみよう。リモージュ焼きの伝統を守り続けるために、2008年に2人の学生によって設立された〈Non sans Raison〉は、クラシックなリモージュ焼きとは一線を画したデザインで知られている。

仮2.jpg

たとえばこんなグラデーションだとか、どこか北欧らしいポップな色合いまで。実際に絵付けをするところを見せてもらうと、熟練の職人たちが手際よく繊細にその柄を表現しています。

20240703_travelog_20.jpg

伝統を守るために革新をつづける、そんな心意気を感じる陶器たち。いまもフランス、そしてリモージュは新しいカルチャーが生み出されている場所なのです。


4.リモージュ大聖堂(the Cathedral of Saint-Etienne)と川沿いの橋


もし今あなたがとても疲れているなら、できればいますぐリモージュの川沿いに行ってほしい。流れのゆるやかなビエンヌ川、豊かな緑と花々、仕事を終えて談笑しながら走る老若男女......。心が穏やかになる要素はすべてここにあります。

20240703_travelog_472.jpg

川沿いは旧市街から少し離れており、サン ミシェル デ リオン教会や市立博物館、植物園などがぎゅっと詰まっている。教会のすぐそばは広場になっていて、小さな子どもたちが遊んだり、恋人たちが退勤後のデートを楽しんだり。
そして近くのお店では人びとが集ってエスプレッソやワイン、ビールを飲んでいるのも日常の風景。リモージュは時の流れが東京の0.6倍くらいの速度で進んでいる気がします。

00720240703_travelog_007.jpg

パリから1泊2日の小旅行にもぴったりなリモージュ。ぜひ旅の候補に加えてみてください。

20240703_travelog_07.jpg
今回リモージュの町を案内してくれた方。
INFORMATION


・BERNARDAUD
https://www.bernardaud.com/jp/jp

・Halles centrales
https://leshallescentraleslimoges.fr/

・Les Saveurs Limousines
https://leshallescentraleslimoges.fr/franck-les-saveurs-limousines/

・Francis Flognardes et Clafoutis
https://flognardesetclafoutis.fr/

・Non Sans Raison
https://nonsansraison.com/

・Cathedral Saint-Etienne de Limoges
https://www.cathedrale-limoges.fr/the-gothic-period.html

・Brit Hotel Limoges Centre Gare
リモージュ駅のすぐそばにあるホテル。部屋は清潔感があり、窓からはリモージュ駅の美しい建物も見える。市内散策にも便利な立地なのがうれしい。

20240703_travelog_515.jpg




TRANSIT最新号「新しい風吹くフランスへ」では、今も昔も人々に愛されるフランスの魅力をたっぷり掲載しています。 また、今回のフランスの「ものづくり」についてもここに載っていない情報も満載です。ぜひお手に取ってみてください!

Recommend

See Also

wadaayakasan_podcast.jpg

▶旅と世界のはなし#15 「和田彩花が語るフランス暮らし(前編)」...

ovs_20240628_1.jpg

海の向こうのローカル風土記 vol.12 フランスのシャンパン ...

20240701_handkerchief00003.JPG

チーズがいっぱい。スパイスもいっぱい。TRANSITのポスターから...

hida_20240628_2.jpg

山は天然の薬箱! 飛騨の人に訊いた 日々を整える薬草の話#Trav...