#Travelog
【42号 韓国・北朝鮮】
大邱のぶらり旅2/道東書院~空間シーズ

Story - 2022.05.20
TRANSIT編集部の小さな旅の記録を、徒然なるままに写真と言葉で綴った「Travelog」。旅の途中でノートの隅に走り書きした電車の時刻、街角で耳にした音楽、コーヒースタンドで済ませた朝食、現地の人と交わしたいくつかの言葉......そんな他愛もない旅の断片たちを集めた。

ここでは、2018年に発売したTRANSIT42号 韓国・北朝鮮 近くて遠い国へより、取材時の合間に撮影した写真と取材ルートを掲載。

TRANSIT42号で文学や詩についてアドバイザーとなってくれた韓国専門出版社クオンがプロデュースする「文学で旅する韓国」ツアーのレポート第二弾。2日目は、さらに文学の歴史を掘り下げるディープな旅となったようで......。

【ROUTE】道東書院~キム・グァンソク通り~ギャラリーTOMA~空間シーズ

text=YOKO OKAZAKI




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ホテルのビュッフェで朝食を済ませ、8時半に集合してバスに乗り込み、郊外の達城郡にある大邱初のユネスコ世界遺産、道東書院(トドンソウォン)へ。ほかの8つの書院とともにユネスコの世界遺産としてリストに登録されている、朝鮮王朝時代の書院だ。

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韓国でいう「書院」とは、簡単にいえば、儒教を学ぶために、16世紀半ばから17世紀ごろに建てられた私学のこと。朝鮮王朝の理念である儒教と儒学の一学説である生理学を教えるための教育機関で、郷校(ヒャンギョ)という公立の教育機関もあるが、書院は地方で自主的に建てられた学問施設をさす。

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韓国や日本に根深く残る性差や格差には、儒教の教えが為政者(男性)に都合よく取り入れられたせいもあると個人的には思っているのだが、当時の意識(だけでなく身分も)高い系の人たちはこれを真剣に学んだ。もちろんよい社会を志してのことだが。この書院では定員25人で20歳以上の選ばれしエリートのみが、寝食をともにしながら科挙合格を目指して勉学に勤しんだという。

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敷地内には講堂や、学生が寝泊まりした東斎、西斎などがあり、朝鮮王朝時代にタイムスリップしたかのよう。先輩の部屋の東斎は柱の角が取れて丸くなっていたり、講堂の石積みにさまざまな石を使用したのは、それが多様性を意味しているから、など建築のそこここに思想が盛り込まれていて、興味深い。

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書院の門の前には、樹齢400年の見事なイチョウの木が堂々と枝を伸ばしていた。孔子が学問したところにイチョウの木があったという言い伝えから、儒教を学ぶ場には必ずイチョウを植えるようになったという。解説者のお話が実に面白く、ガイドさんが気を揉むほど時間いっぱい説明してくれた。せかされながら次へ移動。

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ここ数年、大邱観光で欠かせない場所となったのが「キム・グァンソク通り」だ。大邱に生まれ、数々の名曲を残しつつ若くして自ら命を絶ったフォーク・シンガーのキム・グァンソク(金光石)の壁画や銅像で飾られた路地なのだ。写真大好き民族・韓国人の心を掴み、廃れていた昔ながらの米市場の奥の通りを再開発、大成功した一例である。

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ガイドブックなどには、「キム・グァンソク タシクリギキル」(改めて偲ぶ通り)などと紹介されているものもある。趣向を凝らした壁画や野外公演場のほか、かわいい雑貨店やカフェ、レコード店などが並び、見物がてら歩くのにちょうどいい。子ども向けのゲームセンターなどもあり、ストリートライブが開催される週末はカップルや家族連れで大賑わいだ。

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キム・グァンソク通り至近の〈ギャラリーTOMA〉も訪問した。古い家をリノベーションした画廊は、多くの著名な作家が展示を行い、アート好きの人にとって、ちょっとした名所になっている。この日も植物写真を撮るフォトグラファー・Lee Wonhoの個展が開催されていた。

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ツアーでは昼間に訪れたが、キム・グァンソク通りは夜はちょっとしたライトアップもされている。メイン通りの土産屋がクローズすると、脇の通りにある小洒落たバーやレストランがオープン。地元の若者がデートや食事に訪れる。ビールのブルワリーの店もあった。こういう大邱の新旧入り乱れた感じがたまらない。

ホテルに戻る前、大邱のゲストハウス〈共感(コンガム)〉にも立ち寄った。運営している共感Seedsは、ゲストハウスと旅行代理店の経営を通じて、北朝鮮離脱民(脱北者)の若者たちや社会的弱者の地域定着と生活を支援している。その理念に共感してわざわざ宿泊しに来る外国人旅行客も多い。また2018年には神戸に共感Seedsの広報事務所と大邱・神戸市民交流センターをオープンさせ、日本からの旅行者誘致にも本格的に乗り出している。

今回、「文学で旅する韓国」ツアー一行が大邱で宿泊したのは〈東横INN大邱東城路(トンソンロ)〉。使い勝手のよさは日本の店舗と変わらない。東横INNは2008年4月に釜山に韓国第1号店をオープンさせて以来、地道に人気を博している。

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ホテルの建つ「東城路」は、大邱市内でもっともにぎやかな繁華街で、ソウルの「明洞」のような若者の町。主要なコスメ店や衣料品店、書店や映画館などが徒歩圏内にだいたい揃っており、薬令市場も隣接しているのでショッピングや町ブラにも大変便利。明日の行程ではいよいよ文学にフォーカスします。

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