国や宗教にかかわらず、世界中で聖地は山につくられてきた。俗世の煩悩から離れるため、一年の豊作や健康を願い、供物を捧げてもてなしたり、歌や踊りで和ませたり。山の神に感謝の意を示すため、人びとは常に祭りを開いてきた。そこには神々を少しでも喜ばせようと奮闘する、人間の創意工夫がみてとれる。
ここでは神を称える世界の山の祭りを5つ紹介しよう。
●ルロ祭り (中国)
場所:青海省(チベット・アムド地域)
時期:毎年7月〜8月頃の8日間(チベット暦6月)
©Qiaodan Jiabu
全力で山の神へ感謝を伝える。
中国・青海省同仁県で開催される祭祀儀礼。仏教以前の自然崇拝のかたちをよく残し、中心となるワォッコル村では、主神であるダルジャ山神に感謝の意を示すため、ハワと呼ばれるシャーマンのもとで伝統的な舞が演じられる。
神事のなかには頬や背中に針を刺し、その血を神へ捧げたり、トランス状態に入ったハワがナイフで頭を切りつけて踊ったり、自らを犠牲として神に捧げるこの地特有の祈りがみられる。
●御柱祭 (日本)
場所:長野県
時期:7年に一度の寅と申の年
一丸となって山の神をお出迎え。
7年に一度の寅と申の年に執り行われる諏訪大社の祭礼。上社、下社それぞれで行われ、大木を山から伐り出す「山出し」、里へ曳き出す「里曳き」、神社の境内の四隅に大木を建てる「建御柱」に分けられ、一連の神事を通じて山の神が里へ迎え入れられる。
木遣歌にも「奥山の大木、里に下りて神となる」と歌われ、この地に根づく自然信仰を思わせる。山出しの一部である「木落し」は圧巻のスケール。
●ラーソイシー(インド)
場所:アルナーチャル・プラデーシュ州
時期:3年に一度のチベット暦11月17日から3日間(次回は2022年)
©Naoyuki Kobayashi
山の神と過ごす特別な時間。
ブータンと国境を接し、多くのチベット仏教徒が暮らすアルナーチャル・プラデーシュ州西部の標高2300m付近、ナ ムシュ村に残る3年に一度の祭礼。
村を囲む14の山の神々に降臨してもらい、村の食材を使った伝統食や果物、川魚などをふんだんに捧げてもてなす。人びとは神木の下で神とともに食事をし、家々を清めてもらい、護衛をつけて山へ帰す。すべての恵みの源流である山へ感謝の意を示す、根源的な信仰のかたちをよく残している。
●カサダの祭り(インドネシア)
場所:東ジャワ州
時期:毎年7月頃
©アフロ
信仰と物欲が山上にうずまく。
活火山であるジャワ島のブロモ山で、15世紀頃からつづくジャワ・ヒンドゥー教徒の祭り。地元の民族であるテンガルの人びとが、煙の立ち上る標高2300mほどの火口に果物、野菜、花やヤギ、ニワトリなどの家畜を供物として投げ入れ、山の神の怒りを鎮めるとともに豊作を祈る。
テンガル以外の地元民は、もったいない精神で火口の中から供物を待ち受け、網でキャッチ。もはや祭りの一部のようになっている。
●ヴァルプルギスの夜 (ドイツ)
場所:ザクセン=アンハルト州
時期:毎年4月30日
©Michael Panse
春の訪れを告げる魔女の集会。
ハルツ山地のブロッケン山で開かれる魔女の宴。ヴァルプルギスとは春の女神の名に由来し、春を祝う土着の祭りが起源とされる。
キリスト教の伝来後に女神は魔女へと貶められて、毎年春になると山で魔女が集会を開くと信じられた。現在はキリスト教の復活祭とキリスト教以前の信仰が融合し、人びとが魔女の仮装をして春の訪れを祝す祭りとなっている。魔女たちがかがり火を囲んで踊るクライマックスは非現実的。
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