日本人好み!?な魚とお米のカレー
高円寺〈トルカリ〉で出合った
初めてのバングラデシュ料理!

インド料理だったらカレーとナン、ドーサ、ネパール料理だったらダルバートにモモなど、思い浮かべる料理があるかもしれないけれど、バングラデシュ料理と聞いてピンとくる人はまだまだ日本には少ないかもしれない。東京・高円寺と神保町に店舗を構える〈トルカリ〉は、日本でも数少ないバングラデシュの現地の味が楽しめるお店だ。

聞けば、バングラデシュは「魚とお米の国」だという。これは次なる注目のスパイス料理が待っているのでは? ということで、バングラデシュのクミッラ出身の〈トルカリ〉のホック・エムダドさんに、料理のこと、故郷のことをおうかがいしました。

photography & text = TRANSIT



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高円寺駅から徒歩2分ほどの大一市場内にある〈トルカリ〉高円寺店。

ホックさんが日本にやってきたのは約20年前。高校生のときにイギリス留学を経験し、その後、日本の大学へ進学しました。現在は人材コンサルタント会社を経営しています。

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そんなホックさんが日本で店を出そうと思ったきっかけは、バングラデシュの料理が日本人の食文化にも合うと思ったから。

バングラデシュは世界一の米の消費量を誇る国。また、川が多い地形のため、おかずは川魚がメインです。「バングラデシュ人は魚を食べないと死んでしまう(笑)」と話すほど、人びとは魚を偏愛しているのだそう。

家庭ではそこにダール(豆のスープ)を合わせるのが基本。「ダールは毎日飲む、日本の味噌汁のようなもの」とホックさんが話すとおり、ごはん、汁物、魚の組み合わせは日本の食卓に通じるものがあります。

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〈トルカリ〉にて。ボルタ・バジセット1050円にルイフィッシュカレーをプラス。メインプレートにのっている左2種のおかずがボルタ、その右がバジ。右上のスープがダール。右手間にあるのがルイカレー。ルイはコックスバザールなど海沿いの地域で食される。

似通った食文化が下地にある日本にこそ、純粋なバングラデシュの味を伝えたいとホックさんは言います。

「僕はバングラデシュの食文化を知ってほしい。日本人好みにカスタマイズするのではなく、現地の味を忠実に再現しています」

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人気のおまかせモジャ。豆とごはんを炊いたキチュリ、ビリヤニ、ボルタ、バジ、カレー、ダールにデザートとドリンクがついて1550円。モジャとはベンガル語で「おいしい」の意味。

メニューにある「ボルタ」と「バジ」は、バングラデシュを代表する料理。ボルタはさまざまな食材をマッシュしてスパイスであえたもの、バジは食材をスパイスで炒めた料理です。

どちらもバングラデシュと東インドを指すベンガル地方で広く食べられるものですが、バングラデシュでは干し魚や発酵した魚を多く用いるのだそう。そこには国の歴史も関係しています。

1971年、内戦をへて独立したバングラデシュは、独立後もしばらく混乱がつづきました。1975年に勃発したクーデターでは軍政が敷かれ、民主化したのは1991年のこと。現在でも約1億7000万の人口のうち、10%は貧困層といわれています。

ホックさんが子どもの頃は、各家庭に電気すら通っていない時代。当然、冷蔵庫など食料を保存する機能もありません。

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バングラデシュと周辺の地図。緑の枠線で囲まれたエリアが、インドとバングラデシュにまたがるベンガル地方と呼ばれる地域。イギリス統治下では同じインド帝国だった。

そこで、人びとは小さな川魚を干物にしたり発酵させたりして保存食にしていました。ホックさんも、自ら川で捕まえた魚をそうやって加工していたのだそう。また、洪水が多く、つねに水分を多く含んでいる土壌は、海に近いエリアでは塩害に悩まされることがあるものの、場所によっては「種を蒔けばすぐに芽が出る」とホックさんがいうほど、さまざまな野菜を育てるのに適している一面もある。

ボルタやバジは、そんな歴史や風土から生まれたバングラデシュの大切な食文化の一つ。その食文化を伝えるとともに、日本と同じような食材でも、背景や調理法が異なるだけでいろんな食べ方ができることを知ってほしいとホックさんは話します。だからこそ、辛さや発酵の匂いを抑えたりせず、現地の味を忠実に再現しているのです。

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素材へのこだわりもホックさんが大切にしていることの一つ。スパイスはバングラデシュやインド、スリランカ産のものをホールで仕入れ、週に一度、お店で焙煎して挽いています。ストリートフードのシンガラなども生地から手づくりして、つくり置きや冷凍保存はしないのだそう。

どの料理もスパイスが効いているけれど、すっきりと透明感があって野菜や魚やお肉の素材の旨みを感じられるものばかり。バングラデシュの地方によっては、スパイスたっぷり、油多めなエリアもあるけれど、ホックさんの出身地クミッラはスパイス少なめ、さっぱり仕上げる味つけが多いのだそう。
「インドと隣り合わせなので、食材やスパイス使いは似ています。ただインドではお皿の上でいくつかのカレーや具材を混ぜて食べることが多いと思うのですが、バングラデシュではカレーを混ぜて食べたりしません。それぞれの料理を一つひとつ味わいながら食べますね」とホックさん。

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サモサと材料やかたちがよく似たシンガラ。現地では一度に6〜7個も食べるようなスナック感覚の食べ物。

〈トルカリ〉の料理は、現地の人からみれば、値段は決して安くはありません。しかしそこには、素材の味を存分に生かした料理を再現するために、質の高い食材を仕入れ、手間ひまかけて本物の味を届けたいという想いがあると言います。

ほかにも、魚のカレーやマトンのビリヤニなどの定番メニューが並びます。ホックさんが子どもの頃は、カレーに使用するような大ぶりの魚が食べられるのは週に1回程度。また、マトンや鶏、牛などの肉を食べることは、夢のまた夢だったそう。

とくにビリヤニは結婚式などハレの日の料理で、今でも現地ではご馳走の一つ。〈トルカリ〉では、大鍋で4〜5時間炊き込んだ本格的なダムビリヤニ(蒸したビリヤニ)が味わえます。

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料理や接客もバングラデシュ出身のシェフが手がける。

そんなバングラデシュの日常食からお祝い料理まで、さまざまな食文化が味わえる〈トルカリ〉。今後も現地らしいメニューを充実させていくそう。

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まだまだ、旅先としてはマイナーなバングラデシュ。その入門編として、まずは現地の食体験から初めてみるのはいかがでしょう。

■SHOP DATA
トルカリ高円寺
住所:東京都杉並区高円寺北3-22-8 大一市場内1F
営業時間:月〜金 11:00〜15:00、17:00〜21:30/土〜日 11:00〜16:30、17:00〜22:00
休み:水
*最新情報はお店のHPをご確認ください。
HP:www.torkari.jp/jp
Instagram: @torkarikouenjiten

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