#気になる人の気になる旅
堀井美香の家族でインド旅
「バラナシの夜に考えた」

気になるあの人の気になる旅について訊いていこうという連載企画。 今回、話を伺ったのはフリーアナウンサーの堀井美香さん。50歳を機にTBSを退社した後も、人気ポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』『WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)』などのMCを務め、ナレーションや朗読会、本の執筆など、ますます精力的に活動している。

「海外の旅はちょっと苦手で......」と公言してきた堀井さんが、突然のインド旅へ。いったいなぜ? なにをしていたの? ということで、初めてのインド旅のお話を伺ってきました!

photography=KAORU MIYACHI
text= MAKI TSUGA(TRANSIT)

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堀井美香(ほりい・みか)●秋田出身。元TBSアナウンサーで現在はフリーアナウンサーとして活躍。ポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』、『WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)』を配信中。著書に『聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術』(徳間出版)、『一旦、退社。〜50歳からの独立日記』(大和書房)など。




●気がついたらインドに行くことになっていた。


―――毎週楽しく堀井美香さんのポッドキャストを拝聴しております。ポッドキャストのMC、ナレーション、朗読に執筆と、ますます精力的に活躍の場を広げている堀井さんですが、2023年5月にSNSで「インドにいます。」と突然の投稿が。驚くと同時に、堀井美香さんとインドという組み合わせが新鮮で、ぜひお話を聞きたいと思ってご連絡しました。TRANSITも2023年3月に『東インド・バングラデシュ特集』を発売したばかりなんです。

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堀井美香さんがTwitterで突然のインド旅をつぶやく。

堀井美香(以下、堀井):正直なところ、海外の旅に慣れている人間ではないので、私の旅の話を旅雑誌のTRANSITさんにしてよいのか、読者の方を怒らせるんじゃないかと恐縮なのですが(苦笑)。

―――いろんな視点で旅の話をお聞きしたいので、ぜひ堀井さんが見たインドをお聞かせください。そもそもなぜインドに行くことになったのでしょう?

ポッドキャスト『OVER THE SUN Ep.138 帰ってまいりました。インドから、、、』では、堀井美香さんの笑撃のインド旅のエピソードを聞くことができます。

堀井:もともと夫と「旅行しようね」という話をしていたんです。2022年の春にTBSを退社してから1年経つのですが、その間、なかなか休むことができなかったので、この春はどこかに行こうと思っていました。

そんなときに夫と息子、男同士で急に「インドに行きたいね」と盛り上がっていて、気がついたら私もインドに行くことになっていました。夫、娘、息子、私の4人家族なんですが、今回娘は参加できず、家族3人でのインド旅でした。本当のことをいえば、私は東南アジアのビーチリゾートでのんびりしたかったんですけどね(遠い目)。

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©MIKA HORII

―――そんな経緯があったのですね。よく家族旅行をされるんですか?

堀井:子どもが小さい頃は家族で海外旅行することもありましたけど、娘も息子も大きくなってからは各自で出かけることが多くなって、さらにコロナもあったので、今回は久しぶりの家族旅行でした。

夫も、娘も、息子も、私以外の家族は旅慣れていて、家族の誰も私を旅に誘わないんです(笑)。娘はもう社会人ですが、高校生の頃から「ボランティアでカンボジアに行きたい」と一人で旅に出かけていくようなタイプでした。夫は仕事上、建築が好きなので、建物目当てに一人旅をしたり友人と出かけていったりじゃんじゃん旅をする人なんです。


●旅の前は、現地情報を遮断。


―――インド旅はどうやって計画されたんですか?

堀井:行きたいところや宿泊場所、移動手段は夫が決めていました。私自身はインドの現地情報にあまり触れないようにしていました。

―――......どういうことでしょう?

堀井:「インドってどんな国なのかな」と思ってアンテナを張っていると、騙されるとか、スリが多いとか、衛生面のことだとか、注意喚起の情報を見聞きすることが多くて......。「まずい、知れば知るほど、行きたくなくなってしまう」と思って、途中からインド情報をみないようにしていたんです。気軽に海外へ行ける人が、ほんとうに羨ましいです!

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●インドの衝撃―――。


―――実際にインドに行ってみて、どんな印象を受けましたか?

堀井:インドは本当にエネルギッシュな国でしたね。街を歩いている人が晴れやかにみえました。女性が色とりどりのサリーを纏っていて、お化粧をしていて、すごく煌びやかで。若い男の人たちもみなさん髪型に気を遣っていて、横は刈り上げて、髪を上にあげて、ソフトクリームみたいなヘアスタイルにしてお洒落していました。自分をよくみせたいというポジティブな空気に溢れているというか。

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©MIKA HORII

とくにその空気を感じたのが、タージ・マハルがあるアグラ。街にいるのはインドの方ばかりだったんですが、みなさん地方から国内旅行で来ているのか、全身着飾っていて、記念撮影していて、心から旅を楽しんでいるのが伝わってくる。

その様子を見ていて、自分が子どもの頃に秋田から東京観光に行ったときのことを思い出しました。あのときは親が私たち子どもにきれいな服を着せてくれて、親自身もスーツを着てお洒落してお出かけしたなと。旅ってハレの日なんだなと改めて感じました。

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©MIKA HORII

―――たしかにタージ・マハルは華やかさをもった観光地ですよね。亡くなったお妃さまのたった一人のために、当時の王様が真っ白な総大理石のお墓を建ててしまうなんて。それこそインドの富も栄光もエネルギーも感じられる場所ですよね。

堀井:ほんとうに。いまインドの人口が14億人いるといわれていますけれど、みなさんバイタリティに溢れていて、本気をだしたら叶わないなと思ってしまいますよね。

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インドで堀井さんが購入した大理石の象嵌のお皿。「家の玄関に飾っているのですが、夫と『なんかこういうの飾ると一気に実家感がでるね〜。老夫婦が旅先のものを飾るって、こういうことなんだね』と笑い合ってます」と堀井さん。


●バラナシの夜に考えた。


―――アグラ以外にはどこに行かれたんですか?

堀井:デリーから入って、アグラ、バラナシに行って、北インドを1週間かけて巡っていました。 デリーは車だらけ、人だらけで、建設中の建物が多くて、そこを牛が通っていって。車のクラクションが鳴りっぱなしで、工事現場の音もしていて、ものと音にあふれていましたね。

バラナシはデリーとは街の空気が違って、建物も道の様子も、時代が昔に戻ったような場所でした。街にいる人たちの雰囲気も違って、デリーとはまた違う熱気がありますね。

現地での移動は列車やオートリキシャで。予測不能な列車の時刻に戸惑う堀井さん。途中まで8時間(!)遅れていたけれど、どこでどう巻いたのか、目的地には1時間遅れで到着したという。 ©MIKA HORII

とくに記憶に残っているのがバラナシの夜。夜中にプージャという礼拝があって、ガンジス川沿いに何人もの僧侶が並んで、信仰心のある人たちが川に押し寄せて祈りを捧げていて、とにかくものすごい喧騒でした。

その光景も目に焼きついているんですよね。川がたゆたっているところにたくさんの火が煌々と燃えていて。水があって、火があって、ここで人が邪心を燃やして、水に流して、現世と来世はこんなふうにつながっていくのかなという感覚がありました。

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©MIKA HORII

―――バラナシは、生きているときは、ガンジス川で沐浴をすると罪を洗い流してくれると信じられているし、死ぬときは、川に遺灰や遺体を流してほしいと切望されるような聖地で、生も死も一度にある場所ですよね。沐浴はされましたか?

堀井:沐浴はしなかったですが、朝、ボートに乗りました。川にはいろんなものが流れていると聞いていたので、水面は見ないようにしていたんです(薄目になる)。

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それで、川岸に着くと夫が「ちょっと火葬場まで行ってくる」と言うんです。私は「嫌ですからね、火葬場には行かないです」と言っていたんですが、神聖な場所だからカメラは置いてくねと夫から言われて、いろんな荷物を持たされて岸で待っていたんです。そしたら高価なものを身につけているから、いろんな物乞いの人たちがぶわぁーっと集まってきて......。結局、夫の後について火葬場に行くことになったんです。

もう衝撃でしたね。近づいていくと、人や供物やお香やいろんな匂いがするんですけど、「これは人が焼かれた匂いだ」とわかるものがあるんですよね。独特な、これまでに嗅いだことのない匂い。日本の火葬場だと、火葬炉の扉をガチャンと締めて骨と灰になるまで高温で燃やすから匂いはしないじゃないですか。それがバラナシでは焼き場で一日中遺体が焼かれているんですよね。川のへりで大きい煙や小さい煙が立ち上っていて、その煙を呆然と眺めていたら、自分のすぐ脇をオレンジ色の布に巻かれたおじいさんが担架で運ばれていって、「寝てるのかな」と思ったら、川岸で身体に水をかけられて清められているのを見て、「あぁ、死んでるのか」と気がついて。よく考えたら、人が亡くなっているのを見たのは祖父のとき以来だな、と思ったり......。

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©MIKA HORII

―――いろんなものごとが同時多発的に起きているというか。

堀井:もう映画のような現実が目の前で繰り広げられていて、それをその場で処理しきれないんです。ホテルに帰ってからふと火葬場の匂いを思い出して、ちょっと肩が重くなりましたね。

―――ほかにも記憶に残っていることはありますか?

堀井:物乞いの方に囲まれたときに、どう対応してよいかわからないというのはありますね。

―――旅をしていると、どうしてもそういう場面に出くわしますよね。人対人として接したくても、トラブルの予感がしたら他者を拒絶しないといけない。

堀井:これまで、自分なりにそうした世界の問題にも向き合いたいと思って......私、アフリカの子どもを育ててきたんですよ。

―――えーー!

堀井:里親制度で、その子たちが18歳になるまで、毎月、送金をしていたんです。名前や顔もわかっていて、毎年、誕生日になると写真や手紙が送られてきました。 微々たることかもしれないけど、自分から遠い世界の問題も解決したい、少なくともそういう気持ちをもっている人間だと思ってきたんです。

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だからインドの街を歩いていて、最初に物乞いの子どもたちが近寄ってきたときに「いくらかお金を渡したら、1週間くらい食事に困らないんじゃないか」と思っていたんですが、一緒に旅をしていた人たちに「立ち止まっちゃだめ」「あげちゃだめ」と言われて。「それってどうなの?」と旅の最初の頃は思っていたんです。

でも物乞いの人に腕を掴まれたり、お金を渡さないとわかると叩かれたりすることもあって......。旅の最後のほうは、身を守るために、目を合わせないように必死で街を歩いていました。「あぁ、最後は人間、自己防衛してしまうんだな」と悲しくなりました。

―――堀井さんは仕事柄、ふだん人の声に耳を傾けていらっしゃるから、そんなふうに対応しようとすると、くらってしまいますよね。

堀井:そうですね。夜、ホテルに戻ってきてから「自分はこの社会に対してなにかできないのか」と考えこんでしまいました。自分の財産を投げうってやるまでの覚悟はないし。あぁ私って中途半端だなと。いまでも何が正解なんだろうと考えてしまいますね。

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©MIKA HORII


●東京の街を歩いても、旅のなかにいるよう。


―――ふだんの旅についてお話を聞かせてください。旅が苦手だと伺いましたが、どうしてなのでしょうか?

堀井:旅は好きですよ。ただ海外の旅に苦手意識があるんです。英語が話せなかったり、飛行機が怖いからなんですけどね。

国内旅行はこれまで仕事でもプライベートでもいろんなところに行ってきたし、これからも行きたいですね。といっても、これまでは出張でいろんなところへ行っても、すぐ東京にトンボ返りしていました。でも、いまは子どもも大きくなったので、地方に出張へ行くときは2、3日余裕をもって、途中下車の旅もしたいなと思えるようになってきました。

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―――今日は編集部がある中目黒まで堀井さんにお越しいただいたんですが、撮影をしながら、緑道を歩いていても、民家に咲いた紫陽花を見ても「中目黒ってこんな街なんですね、ふふふ」と楽しそうに笑っていたのが印象的でした。著書『一旦、退社。』のなかでも、東京に住んでいて東京で働いているのに、いつも東京を旅しているみたいな気分だと書かれていましたね。

堀井:そうなんですよね。地元の秋田から出てきて、もう東京暮らしのほうが長いのですが、いまでも東京をふわふわとずっと観光しているような気分です。地方から出てきた方だったら共感する部分もあるんじゃないでしょうか。

仕事の現場でも「東京でスタジオ見学しながら司会をする仕事がありますけど、やりますか?」とか「ジェーン・スーとトークする仕事があるけど、やりますか?」と旅行のオプションを体験しているような感覚があります(笑)。そうやって自分を俯瞰してみるクセがあるのかもしれないですね。

―――これからも、海外も、国内も、東京でも......堀井さんの旅のお話を聞かせてください。またインドにもぜひ。

堀井:そうですね、インド......。もう少し旅慣れた頃に、ぜひ再訪したいですね(笑)。

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■PROFILE
堀井美香(ほりい・みか)●秋田出身。元TBSアナウンサーで現在はフリーアナウンサーとして活躍。ポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』、『WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)』を配信中。著書に『聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術』(徳間出版)、『一旦、退社。〜50歳からの独立日記』(大和書房)など。

Instagram:@horiimika2022

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