サーフカルチャーが根づく街の息吹
忘れられない海 by 小山内 隆
カリフォルニア・サンタクルーズ編

海は一つなぎにつながっているけれど、国や地域によってその色や地形や植生は異なるもの。そしてその海を中心に多様なカルチャーが生まれ、そこにしかない風景や食、人びとの生活を象っています。

世界のさまざまな海を訪れ、体感してきた編集者・ライターの小山内隆さんに、「もう一度行きたい、忘れられない海」について綴ってもらいました。

第3回は、「カリフォルニア・サンタクルーズの海」です。

photography & text = TAKASHI OSANAI



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サンタクルーズへは、サンフランシスコ空港に入り、ドライブで南下するのがいい。目的地までのドライブでは真っ青な大海原が視界に入ることも多く、一気に旅モードに。格好のプロローグとなるのだ。

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サンタクルーズの西側にあるサーフスポット、スティーマーレーンには、世界にその名を知られるほどの上質さをもつ波が打ち寄せる。地元サーファーのプライドでもあり、またこの波があって、1952年にオニールウェットスーツという世界初のウェットスーツブランドがサンタクルーズで誕生した。

振り返れば、初の海外経験となった大学の卒業旅行先がカリフォルニアだった。サーフィンやスケートボードが流行っていた当時、ファッションやカルチャーの最新事情を発信していた現地を体感したかったのだ。

それから30年近く、多いときは年に3〜4度のペースで現地を訪れてきた。サーフィン雑誌の編集部にいたときは、大半の目的地がハンティントンやサンクレメンテというサーフタウンを中心としたオレンジカウンティ。2000年前後にロングボードが脚光を浴びるようになると、エンシニータスやパフィシックビーチなどのサンディエゴ周辺にも足を向けるようになった。

南カリフォルニアは生活に潮風が漂っている様子が心地良い。海が近くにある環境や、温暖な気候から人も街もとてもリラックしている。それでいて都市機能がしっかり備わっているからレイドバックし過ぎることがない。田舎過ぎず、都会過ぎず、といったバランスが抜群なのだ。

ただ、それだけ素敵な場所だから腰を据えたい人は多くいる。海の中は混み、陸でも毎日のようにひどい渋滞がある。それを嫌って北へ行く人がいる。アーティストのトーマス・キャンベルもその一人で、彼はサンタクルーズ近郊の小さな街に住まいを求めた。庭に木々が自生する森の中にあるような自邸に暮らし、「静かで創作に集中できるしサーフスポットまでクルマで数分。海もサーファーの数は少なく、ストレスは何もないよ」と言っていた。

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牧歌的な雰囲気が漂うサンタクルーズのサーフスポット・プレジャーポイント。ファンな波がブレイクし、ロングボーダーたちがその波をシェアしながらサーフタイムを楽しんでいた。

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プレジャーポイントを見下ろしながら歩ける歩道はローカルたちの散歩道。愛犬と一緒にウォーキングを楽しむ人がいたり、外の空気を味わいに散策に出かけるファミリーの姿があったりと、非常にピースフルなムードが漂う。

さて、そのサンタクルーズである。サンフランシスコからドライブで1時間ほど南下したところにある海がきれいなビーチタウンは、町の端から端までおよそ30分のドライブで行ける小さな町。

南側に太平洋に面するコーストラインがあって、その東側にはプレジャーポイントというピースフルなサーフスポットがあり、西側にはスティーマーレーンというエキスパートも納得の上級サーフスポットがある。

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ファミリーに交じって若い人の姿を多く見かけたダウンタウン。UCSC(カリフォルニア州立サンタクルーズ校)がある学徒の町らしくリベラルな空気感が流れる。スケートボードショップや美術館なども、このストリート沿いにあった。

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海沿いにあったKEN WORMHOUDT SKATE PARK。子どもから大人までスケートボードを楽しみ、またボードをプッシュしながらスケートボードに慣れようとする初級者の姿もあり、懐の深いパークという印象を抱いた。

町中を巡るとそこかしこにフラットハウスがあり、地元の人の生活感ある雰囲気を肌で感じることができる。ストリートでは、サーファーやスケーターに加えて、ヒッピー風の人やパンクロッカー、セクシャルマイノリティ、カリフォルニア州立サンタクルーズ校に通う学生など多様な人が行き交う。

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海を見ながら談笑していたビッグボーイズ。サーフマインドは少年時代のまま。休日のグッドウェーブを目にする様子は楽しげだった。

そんなサンタクルーズでの宿は、これまで同じモーテルをチョイスしている。近くには"ザ・アメリカン"なダイナーがあり、アメリカの名作TVドラマ『ツインピークス』でクーパー捜査官が好んだようなチェリーパイとブラックコーヒーを、仕事帰りに夕食をとるローカルの人たちに混じってオーダーできる。

このようにカリフォルニアのビーチサイドながら決してハイソではなく、むしろ実直さを覚えるのがサンタクルーズ。背伸びをしない感じで、地に足をつけた暮らしを営んでいるように思えるところも、居心地の良い理由になっている。

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地元の人に愛されるザ・アメリカンな〈サンタクルーズダイナー〉。よく食べたのはコンビーフたっぷりのルーベンサンドイッチ。それ以外にもパンケーキからステーキまでメニューは豊富。メインに添えられるカリカリのベーコンやマッシュポテトも美味。

PROFILE
小山内 隆(おさない・たかし)●サーフィン専門誌とスノーボード専門誌で編集長を務めた後、フリーランスの編集ライターとなる。雑誌やウェブマガジンなどで、旅やサーフィン、ファッション、アートといったテーマを中心に編集・執筆を行う。男性ファッション誌『OCEANS』ではコラム「SEAWARD TRIP」を10年にわたり連載し、加筆・再編集した書籍『海と暮らす〜SEAWARD TRIP〜』を上梓。

■INFORMATION
『海と暮らす〜SEAWARD TRIP〜』(イカロス出版)
2023年6月15日(木)発売、1980円
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