海は一つなぎにつながっているけれど、国や地域によってその色や地形や植生は異なるもの。そしてその海を中心に多様なカルチャーが生まれ、そこにしかない風景や食、人びとの生活を象っています。
世界のさまざまな海を訪れ、体感してきた編集者・ライターの小山内隆さんに、「もう一度行きたい、忘れられない海」について綴ってもらいました。
第2回は、「南ポルトガルの海」です。
photography & text = TAKASHI OSANAI
奇岩が立ち並ぶ海岸線で有名な南ポルトガルのラゴス。オーシャンビューのホテルが数多く建つ雰囲気はオシャレなリゾート。澄んだ青空の下に広がる美しいビーチでバカンスを満喫する人たちの姿が多く見られた。
ポルトガルはこれまでに2回訪れた。最初は10年ほど前。それまで満足に大西洋岸を旅したことがなかったため、一度時間を作ってぐるりと回ってみようと考えたのだ。そこでクルマを借り、イギリスのコーンウォールを起点にコーストラインに沿って、フランス、スペイン、ポルトガルへ。けれど予定していた1カ月ほどでは時間がまったく足りず、ドライブしている時間のほうが長いとさえ思える旅となってしまった。
次はもっとゆっくり巡ろう。そう思っていると、
『TRANSIT40号 ポルトガル特集』での取材の機会がやってきた。提案した目的地は、足早に走り去った旅の中でも印象に残っていた南ポルトガルのビーチサイド。アルガルヴェ地方のアルジェズール、サグレス、ラゴスといった波のある海町である。
小さな海町、アルジェズールでの朝焼け。美しい景色の中で一日をはじめ、人数の少ない海でとことん遊ぶ。そんな贅沢な時間を求めてか、駐車場には数台のキャンピングカーが停まり、なかには国外のナンバーをつけたものもあった。
沢木耕太郎が1970年代の自身の旅を描いた『深夜特急』の中で、帰国を意識させた地がサグレス。今ではポルトガルのサーフタウンでもあって、波を追いかけるサーファーの姿が日常的に見られる。50年近く前にも同じような光景はあったのだろうか、なんていう気にもさせられた。
南ポルトガルには自然保護区があり、いずれの町も自然が豊か。なかでも驚いたのはビーチの広さであり、綺麗さだ。そして延々とつづくベージュ色の砂浜には、ビーチタオルを引き、パラソルを立て、日光浴や読書を楽しんだり、ほてった身体を冷ますために海の中で遊んだりする人たちがいた。もちろん沖では波乗りに興じるサーファーたちの姿があった。
海と砂浜以外は特段めぼしいものはないけれど、そのどちらもが美しいから、いつまでいても飽きることがない。さらに太陽の光の強さもあって、周囲の景観が色彩豊かに浮かび上がっている。とくに日が傾く頃になると、その色彩は濃度をグッと増して、周囲を徐々に暖色に染めていく。
海岸線は西向きだ。だから太陽は水平線に沈む。しかもここは"ユーラシア大陸の果ての果て"。対岸の北米大陸まで何もないという壮大なスケールの大海原にドーンと沈む様子はドラマティックで、気づくと増えていた夕日を見にきたギャラリーはおしゃべりをほとんどせず、ただただ海と空を眺めていた。
周囲の色彩を刻々と変化させながら太陽が海へと沈んでいく。1日を感動的な光景とともに終えるのが、ここでの日常なのだ。
感動的な夕暮れ劇場の鑑賞を終えたあとは、余韻に浸りながら近くのカフェやレストランへ。1杯目にワインをオーダーすると「赤? 白? それとも緑?」という質問がやってきた。緑とはポルトガル生まれの微発泡ワイン、ヴィーニョ・ヴェルデのこと。口当たりが爽やかで、バカリャウのコロッケなどシンプルな魚介料理にぴったりだというからそちらをオーダー。以降、毎日の締めくくりはそんなゴキゲンの時間を過ごしたのだった。
たくさん海で遊んで喉がカラカラ。そんなときは冷えた緑のワインを。喉越しがシュワっと爽やかなところが乾いた気候にフィットする。
ポルトガル土産におすすめの缶詰。カラフルで可愛いパッケージのものが多く、なかにはグッドウェーブを楽しむサーファーの姿も!
PROFILE
小山内 隆(おさない・たかし)●サーフィン専門誌とスノーボード専門誌で編集長を務めた後、フリーランスの編集ライターとなる。雑誌やウェブマガジンなどで、旅やサーフィン、ファッション、アートといったテーマを中心に編集・執筆を行う。男性ファッション誌『OCEANS』ではコラム「SEAWARD TRIP」を10年にわたり連載し、加筆・再編集した書籍『海と暮らす〜SEAWARD TRIP〜』を上梓。
■INFORMATION
『海と暮らす〜SEAWARD TRIP〜』(イカロス出版)
2023年6月15日(木)発売、1980円
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