最涯の芸術祭、美術の最先端。
「奥能登国際芸術祭2023」
11/12まで開催!@石川・珠洲

奥能登・珠洲(すず)にて、3年に1度の「奥能登国際芸術祭2023」が11月12日まで開催されている。

2017年からはじまり、今年で第3回目の開催となる本芸術祭。能登半島の「岬めぐり」をテーマに、国内外のアーティストたちが地域の潜在力を活かした作品を展開している。

舞台は能登半島の最先端、三方の海に囲まれた"最涯の地"である、石川県珠洲市。人口減少が進むなか、「珠洲ならではの美しい里山・里海、豊かな食や祭文化をアートの力で活かしたい」「本当の豊かさをここから発信したい」そんな思いではじまったのが「奥能登国際芸術祭」だ。

会場は珠洲市内の10 エリアに分かれており、それぞれ独自の祭りや文化、歴史を楽しみながら、アートに触れることができる。本記事では各エリアの特徴とともに、注目のアーティスト・作品を一部紹介したい。




●大谷(おおたに)


耕作面積が少なく、日本海の荒波に侵食された岩礁が多く存在する外浦に位置するエリア。強い海風が吹く冬の日には、波が白い泡になって、雪のように舞う「波の花」や、滝が重力に逆らい空に向かって上る「垂水の滝」を見ることができる。また日本で唯一の揚げ浜式製塩が 500 年の間、途切れることなく続き、角花家をはじめ複数の製塩業者が点在しており、製塩が大谷の特徴の一つとなっている。

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photo by Keizo Kioku

「待ち合わせの森」

珠洲の祭りにふれた作家は、祭りとは人びとが会いたい人に会える約束の場所であると考えた。役目を終えたキリコと古着を裂いて結びなおした紐を用いて、数多の記憶で埋め尽くされた約束の場所をつくる。

大川友希(おおかわ・ゆうき)●愛知県立芸術大学彫刻専攻卒業。物に残る記憶や時間、思い出の断片を掘り下げ、繋げて、新たな時間のかたちとして再構成した立体作品やインスタレーション作品を制作。


●三崎(みさき)


日本海の守護神とされる須須(すず)大明神を祀った「須須神社」が鎮座するエリア。漁師や船乗りの信仰を集める三崎エリアでは、現在でも貴重な舟小屋群が残されている。須須神社の祭礼である寺家の秋祭りでは、高さ 16.5mにもなる大型のキリコが夜を徹して町内を巡行。また、海岸では、かつてこの地域で栄えた瓦産業の名残として、波に削られて角が丸くなった瓦の破片が多く見つかる。

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photo by Kichiro Okamura

「記憶への回廊」

時をさかのぼるようなトンネルに、これまでモチーフにしてきた「迷宮」が描かれ、その奥には「塩の塔」が築かれた部屋が広がる。保育所らしさの空間とドローイングエリアが共存し、かつての活気と静謐さが交わり合う。

山本基(やまもと・もとい)●1966 年、広島県尾道市生まれ。金沢美術工芸大学卒業。若くしてこの世を去った妻や妹との思い出を忘れないために、長年「塩」を用いたインスタレーションを制作。


●蛸島(たこじま)


石川県屈指の漁港を持つ漁師町のエリア。風情を残す白壁と下見板張りの町並みは、1996 年に「いしかわ景観賞」を受賞している。高倉彦神社の祭礼である蛸島の秋祭りでは、県指定無形民俗文化財指定の「早船狂言」を上演。珠洲焼に関する施設も多く集まっており、県内有数の透明度を誇る遠浅の海がつづく鉢ヶ崎海水浴場は、「日本の渚・百選」に選定されている。

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エレン・エスコベード《Cóatl》、(1980年、メキシコ自治大学文化センターに恒久設置)を参照  photo by Kichiro Okamura

「Something Else is Possible/なにか他にできる」

道路で断ち切られた線路跡に設置され、色を変えながらうねるような空間。鑑賞者がなかを進み、行きついたところから双眼鏡を覗くと、のと鉄道の終点だった旧蛸島駅の先に作家からのメッセージが見える。鉄道軌道跡から、かつての終着点とその風景の先にある未来を望む。

トビアス・レーベルガー●1966 年、ドイツのエスリンゲン・アム・ネッカー生まれ 。デザインの領域における戦略を使いながら、アートの意味やアート制作のこれからの可能性について考察する。


●正院(しょういん)


古代珠洲の中心地であったエリア。冬になると白鳥が飛来し、かつて海の底にいたことがよくわかる「平床貝層」や、上杉謙信が家臣を在城させた「正院川尻城跡」を訪れることができる。「須受(すず)八幡宮」には、能舞台と 28 の能面が残る。正院の秋祭りでは、花模様のドテラ姿に鈴をつけ、化粧前掛けをした若者たちが、威勢のいい掛け声でシャンガと呼ばれる毛やりを振り回しながら町中を練り歩く「奴振り(やっこふり)」が行われる。

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photo by Kichiro Okamura

「あかるい家 Bright house」

日中は穴から太陽光を取りこんで室内の偽の電灯を光らせ、夜間は室内の照明の光が穴からもれだす。幾多の盛衰を重ねてきたさいはての地・珠洲で、生活の「豊かさ」とは何かを静かに考える場所。

中島伽耶子(なかしま・かやこ)●1990年、京都生まれ。2013 年、京都精華大学洋画コース修了。2015 年、東京藝術大学美術研究科修士課程修了。水や光などを主な素材とし、場所との関わりを出発点に作品を制作。


●飯田


海と山を結ぶ道の分岐点となっているエリア。かつて飯田港には、多くの物資が運搬され、商売の町として賑わいを見せた。その名残として、今でも飯田の夜の町には多くの飲み屋が残っている。江戸時代からつづく、7 月の春日神社の祭礼「飯田町燈籠山祭り」は、祭りの盛んな珠洲のなかでも、とりわけユニーク。「燈籠山(とろやま)」といわれる巨大な山車を曳く。

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photo by Kichiro Okamura

「小さい忘れもの美術館」

忘れられた鉄道、駅、プラットホーム。作家は忘れられることの意味を問い、のと鉄道旧飯田駅を、どこの駅でも見られるような「忘れもの」で満たした。ホームに停車している貨物車の内部は黒板になっていて、鑑賞者はそこに未来への言葉を書き遺す。

河口龍夫(かわぐち・たつお)●1940年、神戸生まれ。多摩美術大学卒業。1960 年代から国内外で作品を展開する日本を代表する現代美術作家の一人。「見えること」と「見えないこと」の「関係」を作品化。


●上戸(うえど)


かつて塩田が並んだエリア。困窮した能登の製塩業者を救うべく対策を練った医師・藻寄行蔵(もよりこうぞう)を顕彰し、製塩業者らが中心となって能登塩田再興碑がこの地に建てられた。真言宗の古刹・高照寺には、石川県の天然記念物に指定されている樹齢 900 年の老杉が佇む。杉の枝が地面を這うようにして、逆さに垂れていることから「倒さスギ」や「能登の一本杉」と呼ばれている。

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photo by Kichiro Okamura

「うつしみ」

のと鉄道旧上戸駅の駅舎のシルエットをなぞった骨組みだけの構造物を、駅舎の上部に角度を変えて重ねた。昼間は周囲の風景になじむその構造物は、夜になると重力から解き放たれたかのように青白く光りだす。それは駅舎の亡霊なのか、それとも未来の映像なのか。場所や物がもつ記憶、非物質的なものの存在を問いかける作品。

ラックス・メディア・コレクティブ●インド・ニューデリーを拠点に活動するアート集団。Jeebesh Bagchi、Monica Narula、ShuddhabrataSengupta により設立。


●広域


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photo by Kichiro Okamura

「珠洲海道五十三次」

珠洲の風景の特徴のひとつである屋根つきのバス停。数学者でもある作家は、4 カ所のバス停を垂直平行を基本構造とするアルミニウムのパイプで包みこみ、作品化した。立地に応じて異なるテーマでデザインされた造形は、周囲の風景と呼応してさまざまな表情を見せる。

アレクサンドル・コンスタンチーノフ●1953年、ロシア・モスクワ生まれ。作家、建築家、数学博士。古い家屋を様々な素材で「包みこみ」、その場所に新しい意味を与え、再生することをテーマとする連作がある。





地元サポーターの方々との交流も、本芸術祭の楽しみの一つだ。自然や文化を大事に受け継いできた珠洲に暮らす人びとは、懐が深くて温かい。芸術祭巡りの道中や作品受付で地元の方に出会えたときには、きっと珠洲のいろんなことを教えてくれるはず。

最涯の地で、最先端の美術に出会うことができる奥能登国際芸術祭。各エリア独自の祭りや文化、歴史に触れながら、珠洲にインスピレーションを受けた作品たちを楽しんでみては?

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photo by Kichiro Okamura


INFORMATION

奥能登国際芸術祭2023

会期|2023年9月23日-11月12日
休み|木曜
鑑賞時間|9:30 - 17:00
会場|石川県珠洲市全域(247.20㎢)
作品鑑賞パスポート|一般3,300円/大学生1,650円/小中高校生500円 *未就学児は無料

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