▶︎Interview ティムラズ・レジャバ大使
天然温泉、古城ホテル、動物ウォッチング!
ジョージア地方旅のススメ

ジョージアを訪れるなら、若者たちの熱気溢れる首都トビリシを満喫するのもいいけれど、せっかくならば全土で自然や食や歴史にも触れたい。駐日ジョージア大使のティムラズ・レジャバ氏が、最新情報もふまえて国内各地のおすすめを教えてくれました。

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PROFILE
ティムラズ・レジャバ●ジョージア出身。1992年に来日し、その後ジョージア、日本、アメリカ、カナダで教育を受ける。2018年ジョージア外務省に入省。2019年より在日ジョージア大使館臨時代理大使に就任し、2021年より特命全権大使。

イチオシはクタイシからの縦のライン。


まず旅の拠点にしたいのは、イメレティ地方の中心都市クタイシ。バグラティ大聖堂や世界遺産にも登録されているゲラティ修道院が見所です。トビリシからは列車やバスでも行けますが、空港もあるので、アクセスもいいです。

車で30分ほど、天然温泉・スパを楽しめるのがツカルトゥボという地域。さらにこの辺りは鍾乳洞が3〜4つあって、そのうちの一つ「Tetra Cave」という洞窟は、最近では瞑想をするのに利用していると聞きました。鍾乳洞内で瞑想をしたあとにワインを飲むと、肺の調子がよくなる人がいるそうです。いわば洞窟セラピーでしょうか。ここには私もまだ行けていないので、次回はぜひ参加したいです。

そこからボルジョミへ。ジョージアの2大天然炭酸水のひとつ、〈ボルジョミ〉の産地なのですが、リカニというエリアに療養のためのホテルがあるんです。かつてはロシア帝国時代の王族の人が泊まりに訪れたほどで、立派な施設が残っています。空気も澄んでいて、川もあって、水の効能もあるから、体調を整えたい人たちがたくさんやって来ます。「ボルジョミ・ハラガウリ国立公園」の辺りはとくに美しい。1〜2週間、長いと1カ月もホテルに泊まって、ゆっくり過ごす方もいます。

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新鮮な空気に癒やされるボルジョミ・ハラガウリ国立公園。 ©Tiniko Dzadzamia

さらに山の方へ向かうと辿り着くのがバクリアニ。ここもすごく空気が綺麗な場所ですが、なんといってもスキーができるのが魅力ですね。

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国内外の観光客で賑わう、バクリアニのスキーリゾート。 ©David Talakhadze

ボルジョミからは車で約1時間。南部アハルツィヘでぜひ訪ねてほしいのが、ラバティ要塞。ここはもともとトルコ国境近くに造られた要塞で、地域一帯の歴史を物語る証人。この要塞の中にはモスクや教会があるだけではなく、〈Hotel Gino Wellness Rabati〉のような近代的な宿泊施設もあります。歴史的な景観が目の間に広がる立地には、ワクワクします。

ここまで来たら、「ヴァルジア遺跡」へも足を延ばしてほしいですね。しばらく訪れていないのですが、私がいわゆる観光地として一番好きな場所。南部のエルシェティ山の斜面に、12世紀頃に要塞として建設された石窟の都市遺跡で、この崖の洞窟には修道院や薬局などもあって、かつては5万人ほどが暮らしていたといわれています。行く価値はあると思います。

このようにイメレティ地方からは、ツカルトゥボ〜ボルジョミ〜バクリアニ〜ラバティ、ヴァルジアと南下して、縦のラインでいろんな楽しみ方ができます。


発祥の地でワインを堪能。


ワインの産地として知られる東部カヘティ地方では、いろんなタイプのワイナリーがあるので、それらを巡ってはいかがでしょうか。最新トピックとしては、クヴェヴリ(地下に埋めてワインを造るための土器)をモチーフにした、ホテル〈Hotel Qvevrebi〉がオープンしたこと。広大な敷地に、巨大なクヴェヴリが20ほど点在する様子は壮観です。ユニークな卵型の室内にはもちろんベッドがあって、仕切りの奥にはバスルーム、冷蔵庫やバーのコーナー、クローゼット等も設置されていて、内部もおもしろい。

同じカヘティ地方では、ツィナンダリにある古城ホテルもおすすめです。ここはもともとワイナリーのあった場所で、初めてボトリングをするなどワインの近代化に力を入れた王族、アレクサンダー・チャウチャウゼ王子という人が住んでいた敷地なのですが、その人の家も残っていて、ミュー ジアムになっています。同じ敷地内にお城の遺構を活用して造られた〈Tsinandali Estate, A Radisson Collection Hotel〉では、ツィナンダリ音楽祭という国際的なジャズフェスティバルが行われていたりもします。ワイナリーも併設していて、古いワインのコレクションや地下のワインセラーなども見学できるんです。

近年、新しいワイナリーができるなど、盛り上がってきているのがボルニシ。この周辺は8000年前にワインを造っていた器が出土した場所で、つまりワイン発祥の地。私は今年ボルニシ近郊にある天空の修道院を訪れて、修道士さんたちが造るワインをいただきました。この場所は事前に予約が必要ですが、その土地で造られたワインをその場で飲めるというのが、ジョージアの1番の魅力だと思います。そして、スプラ(宴会)をやって、みんなで歌う。これが基本なんです。

あと今年訪れてよかったのは、ワイナリー〈Chateau Mukhrani〉。ここも興味深い。昔の王族が経営していたワイナリーで、貴族が住んでいた建物もいいですし、とても立派な施設。収穫祭に参加してブドウを絞ったり、菓子作り体験なんかもできます。ジョージアのワイン文化を学びたい人にはとくにおすすめ。古都ムツヘタの少し先で、トビリシから近いというのも旅行者にとってはいいと思います。


ディープなジョージアへの誘い。


黒海エリアで近年注目を集めているのが「コル キスの雨林・湿地群」。2021年に世界自然遺産に認定された場所で、ツアーも組まれるようになって訪れやすくなりました。ここでしか生息していない固有種や19種もの絶滅危惧種が見られ、とくにオオチョウザメの生息地として知られています。夏のリゾート地としてのバトゥミが有名なので意外に思われるかもしれませんが、実は雨も多い土地で、珍しい生態系が育まれているんです。 世界各国の植物が栽培されている植物園もありますよ。

北西部スヴァネティ地方は、ジョージアのなかでもとくに奥まったまさに秘境。コーカサス山脈の山々に囲まれた高地にはスヴァン人が暮らして いて、言葉も料理も服装も、トビリシとは全然違 います。独自の伝統や暮らしが残っているのです。せっかくなら、標高2410mのウシュグリまで行ってほしいですね。中世の雰囲気がそのまま残る建造物や文化的遺産は世界文化遺産にも登録されています。

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スヴァン人の文化と暮らしが息づくスヴァネティ地方。 ©Guitar photographer/ shutterstock.com

さらにディープなジョージアを体験したい人には、北東部トゥシェティ地方はいかがでしょうか。こちらにも手つかずの大自然や山岳部独自の信仰や文化が根づいています。トビリシから約200km離れたトゥシェティ山岳地域にあり、村に辿り着くまでの未舗装道路は断崖絶壁でスリリング。村にはシュメールの太陽信仰が残っていて、食べ物も太陽にちなんで丸いものが多いことも特徴です。冬は雪深く道が閉ざされてしまうため、こちらを訪ねるなら夏ですね。

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山深いトゥシェティ地方へは辿り着くまでが大冒険。 ©YUSUKE HOKAZONO

このように、地方にはそれぞれのよさがあります。季節の問題もあるので、一つには選びがたいですが、ぜひトビリシから足を延ばして旅してみてください。