藤原ヒロシさんが世界を飛び回り、新たな文化や流行を生んできたのは周知の通り。旅の記録アプリ"been"には、59もの国に色がついた。そんな彼がたびたび足を運ぶ、ジョージアの熱量とは。
text=RUI KONNO
photography=HIROSHI FUJIWARA, TRANSIT
PROFILE
藤原ヒロシ●日本のクラブDJの草分けであり、"裏原宿"の名付け親。主宰する〈フラグメントデザイン〉では注目トピックを連発する無二の個性。最近では特別カリキュラム、
FRAGMENT UNIVERSITYも話題に。
IG:fujiwarahiroshi
TRANSIT(以下T):藤原さんのジョージア初渡航はいつ頃ですか?
藤原ヒロシ(以下F):2016年とかかな。知り合いから「ジョージアのファッションウィークがあるんですよ」って教えてもらって。そんなのがあるんだったら行きたいです、って。それからは毎年観に行ってます。
T:ジョージアの予備知識はあったんですか?
F:全然なかったです。ソ連から独立したグルジア、っていうくらいの印象しかなくて。だけど、やっぱり旧ソ連の国っておもしろいですよ。独立から結構経ちましたけど、まだ整いきってない部分が残ってるからモスクワよりもロシアっぽい気がします。僕は。
T:初めて訪れた際の印象は覚えていますか?
F:建物がおもしろいなということと、安全だなという感じがしました。トビリシはそんなに広くないんですけど、僕、どうしても車移動しなきゃいけない広い街よりも、歩ける街が好きで。そのほうが気軽に行けるじゃないですか。
知るほど不思議なトビリシの街。
T:ジョージアは以前の大統領の国策で、独創的な建築が奨励されていたみたいですね。
F:そう。それでつくってはみたけど、その大統領がダメになってからはそのまま何にも使ってないとか、そういう建物がいっぱいあるんです。何で?何のために?っていうようなちょっとしたものが。トビリシの街中にも、1度も使われたことがないというミュージックホールのような建物がありましたね。丸い宇宙船みたいな形の。
左/ホテル〈スタンバ〉。 右/〈シチュエーショニスト〉のアトリエにて。
T:歴史背景を知らなくても勢いで建てられたんだろうなと想像できますね(笑)。
F:ソ連時代のバンク・オブ・ジョージアはジェンガみたいな形だし、独特な建物が多い。あと、初めて行ったときには
〈スタンバ〉っていう、元々印刷所だったところを改装したホテルに泊まった んですけど、そこを出て右にそのまま歩いて行った道沿いにあったキオスクとかもおもしろくて。なぜか半地下で、見たら中がほとんど隠れてるん です。あんま意味なくない?みたいな(笑)。
散歩中に見かけた変なキオスク。半地下の低い店内から、ギリギリ覗く顔がシュール。
T:不思議ですね(笑)。それで、実際に観られたファッションウィークはどうでしたか ?
F:規模の大きなパリ、ミラノとはやっぱり違います。でもロケーションが素晴らしいし、会場も多いからそれがおもしろい。そういう意味で、ジョージアは宝庫だと思いますね。
T:そういえば、〈フラグメント〉で先頃コラボレー ションされていた
〈シチュエーショニスト〉のデザイナーもジョージア人の方でしたよね。
F:そうですね。"シチュエーショニスト"って、元々フランスの活動家たちのことですけど、その名前に惹かれてショーを観に行ったり、アトリエに遊びに行ったりするようになりました。出会ってから3、4年くらい経ったのかな。
T:ジョージア人デザイナーというとやっぱり〈バレンシアガ〉のデムナ・ヴァザリアのことを思い浮かべますけど、このファッションウィークの成り立ちも彼や彼が立ち上げた〈ヴェトモン〉の成功に導かれたところがあるんでしょうか?
F:そうだと思います。そのファッションウィークをやってるのがソフィア(・ツコニア)という人なんですけど、その人がすごくおもしろくて。今年も行く予定だったんですけど、アゼルバイジャンの紛争の件でファッションウィークそのものが中止になっちゃって。
解放、反動、急成長。
T:その藤原さんの口ぶりからも、渡航が楽しみなんだなと伝わってきますね。やっぱりトビリシは全体的に活気がある感じなんでしょうか ?
F:うん。なんかずっと抑圧されていたものが弾けたような感じがあります。僕はほとんど行ってないけど、ナイトクラブとかも盛んみたいですね。
T:実際にトビリシを歩いておもしろかった場所やモノがあったら教えてください。
F:トビリシの街全体です。フリーマーケットやさっきのキオスクみたいなものがいくつもあって、結構ずっと歩けちゃう。変わったレコードがいっぱい置いてあったり市場には医療用品とかもいっぱい売られたりしてて、それもトビリシ市内です。あと、物価がめちゃめちゃ安い。ホテルの近くのドーナツ屋は1個4円でした。
フリマの一角。マドンナのレコードはおそらくブルガリア版。
T:破格ですね(笑)。ほかの食はどうでした?
F:ヒンカリとハチャプリがおいしかったです。割とどこでも食べられて、たぶん国民食なんじゃないかな?名前がカワイイし、ちょうどそのときに撮ったハチャプリの写真があるんですけど、本当にバカみたいな見栄えで(笑)。あとはシュクメルリっていう唐揚げのニンニク炒めみたいなものがあって、それも「日本人は好きだと思う」って言われたんですけど、僕はニンニクがダメだから苦手でした。その3つが割と有名かな。
T:最近でこそ日本でもジョージア料理を少しずつ見かけるようになりましたけど、まだ「ハチャプリ食べようぜ」とはならないですよね(笑)。
F:おいしいですよ。別にランチパックから出てもおかしくないと思う(笑)。
左/ジョージア版小籠包のヒンカリ。頂点部分は持ち手で、残すのが普通。 右/見た目も響きも愛らしいハチャプリ。
歴史の過渡期のいまだから。
T:(笑)。
F:でも、独立した1990年代の初頭はやっぱり大変だったみたいですよ。電気やガスも止められたりしていて。トビリシの隣、車で1時間半くらいのところにゴリっていう街があるんですけど、そこはスターリンの生誕の地で、それをめちゃめちゃ観光にしてて、Tシャツとか売ってるんですよ。でも、たとえばヒトラーを観光にするエリアなんて聞かないじゃないですか?それがちょっと不思議でした。歴史のひとつとしてとらえてるんですかね。僕らとしてはそういう歴史的な部分も見られて嬉しいんですけど。
T:つくづく整いきってない感じがしますね。
F:だから共産主義が崩壊してからの、そういう一連の弾け方はやっぱりおもしろいなと思いま す。今の韓国だってそうだと思いますよ。日本が戦後から始まったとしたら、韓国の本格的民主代と30年くらいギャップがあるから日本の90年代がいまの韓国みたいなもの。だからジョージアがおもしろくなっているのも必然で、今はそのアンバランスな感じがすごくいい。
T:成長の過渡期ならではですよね。
F:いまってコスモポリタンになって都市はどこも似ていってるけど、そういう意味ではトビリシにはいい意味で取り残された感じが残ってる。独特な文化があって、それが楽しめるのは貴重ですよね。「どこかおもしろいとこないかな ?」っていう人に、勧められる場所だと思います。
TRANSIT62号では、藤原さんお気に入りのトビリシのスポットも紹介しています。完全版をぜひご覧ください。
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