8000年以上前から
造られてきたロマン溢れる
コーカサス・ワインの世界

8000年以上前からワイン造りが行われ、ワイン発祥の地ともいわれているコーカサス地方。その伝統的な製造法や、各国のワイン造りの歴史と魅力を探ってみよう。

text=KANAMI OKIMURA



20240111_T62_P93_©︎MHM55.jpg
ジュネーブの国連事務所に展示された伝統的なクヴェヴリ。 ©︎MHM55

ジョージア


ジョージアワインの魅力は、その多様なブドウの土着品種。今なお約525品種が残されており、近年はクヴェヴリによる醸造法の復興とともに、品種の保護などが行われるようになった。古来、ジョージアでは白ブドウを赤ワインのように果皮や種ごと果汁に浸漬させて造った、「golden」(黄金色の)と呼ばれるワインがある。1990年代後半、イタリアの自然派ワインの先駆者がこの醸造法に着目したことで、その後、世界各国で「オレンジワイン」を造る動きが活発に。このワインはタンニンを豊富に含むことから酸化防止剤の使用量が抑えられ、自然派ワインブームにマッチしたことで、人気に拍車がかかることとなった。

ブドウ畑の約7割を占める最大の生産地は、コーカサス山麓の東側に広がるカヘティ地方。また、赤ワイン用品種のサペラヴィはジョージアワインの偉大さを物語る、重要な品種である。そして、この国のワイン文化は「スプラ」(宴会)抜きでは語れない。昔から「客人は神様の贈り物」という言い伝えがあり、タマダと呼ばれる仕切り役が音頭をとり、何度もワインを酌み交わす風習が残る。ジョージアにおいて、ワインは人びととの絆を深めるために欠かせない存在なのだ。

●おすすめ銘柄


イアゴ・ビタリシュヴィリ チヌリ

カルトリ地方の自然派の名手によるチヌリ100%の白。クヴェヴリで6カ月スキンコンタクト。酸のあるすっきりとした味わい。 20240111_T62_P93_1.jpg

ズラブ・トプリゼ サペラヴィ

カヘティ地方の土着品種、サペラヴィを使った、繊細な果実感とシルキーな質感の品がいい赤ワイン。 20240111_T62_P93_2.jpg


アルメニア


世界最古(約6100年前)のワイン醸造所の遺跡が発見されたことで知られるアルメニア。しかしその歴史を辿ると、ワイン造りの道のりは決して平坦ではなかった。旧ソ連時代は、ジョージアがワインの供給国となった一方で、アルメニアはブランデーの供給国となり、ブドウ畑の大半はブランデー用に使われることに。その後、ソ連からの独立を果たすも、戦争などの混乱期に入り、ブドウ畑は荒廃しワイン産業は衰退の一途を辿ったという。アルメニアのワインに光明が差したのは今世紀に入ってからのこと。2007年にワイン復興を掲げてブドウ栽培が進められたことを機に新興ワイナリーが増え、テロワールや土着品種の特性を生かしたワインが国際市場で脚光を浴びることになった。

アルメニアワインを代表する赤ワイン用品種は、ヴァヨッツゾール地方を原産地とするアレニ。夏は40°Cを超える日もあるほど日照量が多い気候風土に反し、上品で奥深い味わいが印象的だ。一方、白ワインは大衆的なワインに多用されるカングンと高級志向のワインを生むヴォスケハットが二大品種となる。また、ラベルにもこだわりが強く、アララト山やアルメニア文字など、アルメニアならではの意匠がよくみられる。

●おすすめ銘柄


ハイランド・セラーズ クール・ホワイト

洋梨のような風味とミネラル感の、ヴォスケハット100%の白ワイン。ラベルには川を下ってワインを売る古代アルメニア人の姿が描かれる。 20240111_T62_P93_3.jpg

アルマス・アレニ

ワイン産業の再興を目指し土着品種に特化する造り手のアレニ100%赤ワイン。野性味のあるベリー系の風味と長い余韻が印象的。 20240111_T62_P93_4.jpg


アゼルバイジャン


3国中唯一のイスラーム教国だがお酒に親しむ文化があり、ワインのほかにウォッカやビールが親しまれる。ほかの2国と同じくワインの歴史は古い。ソ連時代にワイン産業が衰退するも独立をへて復興し、今も17カ所以上のワイナリーがある。

アゼルバイジャンは国土のなかに9つの気候区分があるほど多様な気候風土に恵まれ、野菜や果物が豊富に穫れる農業国。ワイン産地は大コーカサス山脈の南側に広がり、シャマフやギャンジャ、トブズへと東から西へ広がっている。ブドウは土着品種ではマドラサ(赤)、バヤンシラ(白)が主流で、カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなど国際品種も多く栽培されているのが特徴だ。醸造法はクヴェヴリではなくヨーロピアンスタイルが大半で、洗練されたモダンなワインの造り手が目立つ。19世紀にドイツ人の入植者がアゼ ルバイジャンのワイン産業の基礎を築き、ワイン産業の復興後には欧州へ醸造技術を学びにいく人も増え、この傾向が生まれたのだろう。

アゼルバイジャン人は、甘めの味わいのワインを好む傾向。ぜひ試してほしいのがザクロのフルーツワインだ。アゼルバイジャンのザクロワインは他国と比較しても品質がよく、おいしいものが多い。

●おすすめ銘柄


アズグラナタ マドラサ レッド ドライ

土着品種のマドラサを12カ月樽熟成した赤ワイン。チェリーとブラックベリーのような香り、凝縮した果実味が楽しめる。 20240111_T62_P93_5.jpg

アズグラナタ ザクロワイン プレミアム

グロイシャ種のザクロを100%使用。ポリフェノールが豊富で栄養価が高く、甘酸っぱい上品な味わいはデザートとの相性がいい。 20240111_T62_P93_6.jpg



TRANSIT62号ではここで紹介したコーカサス・ワインだけでなく、ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャンの美食、そして冷泉大国としても知られるジョージアのミネラルウォーターについてフォーカスした企画も。ぜひ本誌をチェックしてみてください。

Recommend

See Also

20240112_T62_P68_00.jpg

トビリシツウRecommend!ナチュラルワインバー、セラミックシ...

T62_P90_Azerbaijan_0.jpg

キャビアだけじゃない!東洋と西洋が融合したアゼルバイジャンのスパイ...

T62_P90_Armenia_0.jpg

ハーブやフルーツ、ナッツがたっぷり素材の味わいを活かしたアルメニア...

T62_P90_Georgia_0.jpg

シュクメルリのほかにも!宴会大好きジョージアのお酒が進むグルメ