EARTH DAY 2024 in HAWAII Vol.1
自然や伝統を守り継ぐハワイで過ごした
地球や環境を考える日のこと

毎年4月22日に世界各地で開催されるアースデイは、1970年からつづく地球環境について考えるイベント。近年、伝統文化や自然環境の保護と継承に注力するハワイでは多彩なプログラムが催され、多くの場所でサステナブルの意味を幼い子どもたちにも伝える光景が見られた。ハワイから地球を考える、2024年のアースデイを編集者の小山内隆さんがレポートします!

photography=TAKU MIYAZAWA
text=TAKASHI OSANAI
cooperation=ハワイ州観光局



サステナブルな社会を築く者たちへ


「ハワイのアースデイを体験してみませんか?」

ハワイ州観光局の関係者からそのような声をかけてもらったのは、以前に現地のNPO団体サステナブル・コーストラインズ・ハワイを取材した縁からだった。同団体の主要なミッションは、ハワイの海岸線のクリーンナップをはじめ、海洋環境における問題の解決。定期的にビーチクリーンを行い、地域の学校へ啓蒙のため赴くといった活動をしており、アースデイでもビーチクリーンを催すとあって、「実際に視察されてみてはどうでしょう?」と誘われたのだ。

聞けば2023年は3000人が参加したという。それは過去30年近くにわたって国内外のビーチエリアを取材してきた僕の経験を振り返っても最大級の規模。「日々の暮らしのなかで豊かな自然を感じられるハワイならではなのかな?」といった思いが浮かんだ一方、とくに都市圏での海離れ傾向が強まる日本の状況にも思いを馳せた。

夏の海水浴客が少なくなり、少子高齢化で海辺の街から若者の姿が減り、そこかしこで海岸侵食が起こり、磯焼けが進む......。

日本の海は、豊かでなくなりつつある。人びとの暮らしにおける存在感も小さくなっている。そのような印象を抱く状況を変えられるヒントが、もしかしたら洋上に浮かぶ自然豊かな島で見られるかもしれない。そこで僕は、ハワイで見られる"地球へのやさしい気持ちをもって過ごす1日"の光景を求めて、ハワイアン航空に搭乗した。

現地に着いてまず向かったのは、ハワイ州の自然文化史の研究と保存を目的とする博物館〈ビショップミュージアム〉。そこでは「サイエンス&サステナビリティ フェスティバル」と銘打って、博物館に属する科学者、教育者、文化関係者、そして 30 を超えるコミュニティパートナーによるイベントが行われていた。

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天然色が豊かな〈ビショップミュージアム〉のキャンパス。心地よいムードが漂うなかでアースデイのフェスが催されていた。

エントランスをくぐると、緑が心地良い天然芝のキャンパスが広がり、あちこちに椰子の木がそびえ、その向こうには青い空が広がる、という快適空間があった。しかも広さは15エーカー。およそサッカーグラウンド18面分もある広大な緑と青の空間に、40以上のブース、キッチンカー、ライブ演奏が行われるステージが組まれている。

海ゴミやエネルギー、絶滅の危機に晒されている固有種に関してなど、各ブースではハワイの自然を守り継ぐための情報やメッセージが共有されていた。

さっそくブースを見てまわると、テーマを異にする団体がひとところに集っているのがわかった。その多くは、ハワイパシフィック大学海洋ゴミ研究センター、ハワイ植物協会、ハワイ大学・ハワイ野生生物生態研究所といった研究機関。津波を研究する国際津波情報センターのブースもあり、スタッフによれば「20世紀以降、オアフ島のほとんどの海岸線に津波が到達しているんです」という。もちろんそこには、東日本大震災による津波も含まれている。

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オアフに到達した津波の数々。1946年のアリューシャン地震津波や1960年のチリ地震津波など、ハワイは壊滅的な被害に遭った。

2045年までに再エネ100%を目指す法案を可決したハワイだけあり、交通機関のEV化をミッションとする非営利団体ハワイEVアソシエーションのブースもあった。ハワイの植物を研究する組織のブースには、「ハワイには1万962種の陸上植物が生息し、うち1832種が在来種」だというパネルが飾られている。ハワイで目にするグリーンの多くが外来種ということだ。

展開されるブースのコンテンツはたぶんに教育的。けれど敷地内には子どもの姿が多いから驚く。運営側も塗り絵やゲームを用意して、やってきた子どもたちを楽しませ、コミュニケーションをはかろうとするホスピタリティがあった。さらにそこでは子を連れた親とスタッフの思いが交差しているようにも見えた。

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楽しく過ごしながら、子どもが学びや気づきを得られることに期待して来場したファミリーの姿も。

その思いとは、幼少期から自然環境にやさしい生活や取り組みに触れることで、それらが彼ら彼女らにとって当たり前なものになってほしい、というもの。いわば〈ビショップミュージアム〉でのフェスは、"次代を担う子どもたちにアップデートされた意識を宿す場"となっているように見えたのだ。

〈ビショップミュージアム〉はハワイ最大の博物館。ハワイと太平洋諸島ポリネシア全域の文化に関する美術工芸品、文献、写真など2500万超の貴重なコレクションが所蔵されている。

日々学習しながら上書きしていく昭和世代と、呼吸をするようにガジェットを扱う平成以降の世代の間には、きっと埋まらないであろうデジタルリテラシーの"溝"が存在する。同じように、〈ビショップミュージアム〉で見た子どもたちは"サステナブル・ネイティブ"な人として未来を生きる。「地球にやさしく」という意識をナチュラルにもち、やがてハワイにマインドセットを引き起こすのだ。

そんな未来を思い描けた光景はワイマナロビーチにもあった。そこでは、サステナブル・コーストラインズ・ハワイによるビーチクリーンが行われていて、参加している子どもたちの様子に触れて、きっと彼らは持続可能性が当たり前に備わる社会を築いていくのだろうと、そう思ったのだ。


本気で、きれいな海を取り戻す


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眺望が素晴らしいワイマナロビーチは、ひとけが少なく、リラックスムードが漂う。

オアフ島の南東部にあるワイマナロビーチは、ワイキキから車で45分ほどの場所にあった。島の中で最長といわれるビーチは約9kmもあり、エネラルドグリーンの海とホワイトサンドによる砂浜が色鮮やかなランドスケープを生み出している。さすが全米でもトップクラスに美しいとされるビーチ。その色彩にハワイならではの豊かさを感じつつ、しかし足元をよくよく見ると、色とりどりの小さな破片が目に入った。しかも、どこまでも点々と、その存在を見つけることができた。

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アースデイ以外にも定期的にビーチクリーンを実施しているサステナブル・コーストラインズ・ハワイ。事前にエントリーすれば誰でも参加ができる。

「ハワイとカリフォルニアの間には北太平洋ゴミベルトがあります。世界でもっとも多くのゴミが漂うエリアといわれていて、場所はハワイ諸島のすぐ近く。そのため風や海流の影響から、オアフであれば北東に面する海岸に多くのゴミが漂着することになるのです。ここワイマナロも東海岸にありますし、私たちの活動が生まれるきっかけとなったマカプウビーチも北東部にあります。創設メンバーのひとりが当時のひどい状況に衝撃を受け、『美しい海を取り戻すんだ』という気持ちを抱いたことが活動のルーツとなっています」

説明してくれたのは、サステナブル・コーストラインズ・ハワイのメンバーである来迎秀紀(きむかい・ひでき)さん。2010年創設の同団体に2013年から正式に参画し、これまで数多のビーチクリーンや学校訪問を行ってきた。

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サーファーで毎日のように海に身体を浸からせてきたから、海の汚れを自分ごとにできたという来迎さん。海をきれいにしたいという思いも、とても自然に抱けたという。

「これ見てください」と示されたのは、ブースに飾られた複数の絵。訪問した小学校で生徒が描いてくれたものだという。感性が素晴らしいと思ったのは、近くにコオラウ山脈のあるワイマナロ周辺の地域性がきちんと描かれていたことだ。澄んだ青色の海があり、背後には緑深い山々があり、その間を川が流れている。海は海だけで存在しているのではなく、川によって森と繋がっていることが示されていたのだ。

そのうえで、ビーチに色とりどりの小さなゴミが点々と貼り付けられている。はたしてその生徒は、いったいどのような気持ちで小片を作品に取り入れたのだろう。たとえ「綺麗なピースに思えたから」が答えだったとしても、素材のルーツが海ゴミであることは共有されていて、いつかその意味を知ることになる。サステナブル・コーストラインズ・ハワイによる活動は、"地球にやさしい人"となる種まきとなっているのだ。

ハワイの子どもたちの感性が表現された絵の数々。

さて、ビーチクリーンである。今年は「用意できる道具の数には限りがありますし、いたずらにイベントの規模を大きくするのではなく、僕らからのメッセージをしっかり共有できる状況にしたいと考えました(来迎さん)」といった理由から、参加者を500人までに限定して開催。チェックイン後にオリ(祈り)の奉納で開場すると、MCから「まずは近くにいる人と自己紹介をしましょう」と声が掛かった。すると「ハイ、初めまして。私はカイムキに住んでいる○○○○です。今日はよろしくね」という具合に挨拶がスタート。見事なアイスブレイクとなって、会場は一気にオープンな雰囲気へ。つづいて、ビーチクリーンをするエリアの説明などが行われ、参加者は思い思いの場所へ向かっていった。

ストイックにというより、あくまで楽しく。ファンな雰囲気づくりもサステナブル・コーストラインズ・ハワイが大切にしていること。

ゴミは、あちこちに落ちていた。漂着ゴミだけではない。海に注ぐ川を少し上流へいっただけで、キャンプ後に放置されたと思える"大物"たちが収集された。そのまま放置しておくと、いつかは海へ。「元栓から閉める必要があるんです」と来迎さんはいい、本気でハワイにきれいな海を取り戻そうという気概をもって、みずから汗をかきつづけていた。

海に注ぐ川の両岸から、ロケーションの美しさからはイメージできない大きなゴミを収集。

こうしてビーチクリーンはランチタイムをへて終了。参加者はワイマナロをあとにしていったが、ビーチにはまだ小さなゴミが点々と残っている。いちどの活動できれいになるわけもない。継続が大切なのである。

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幼い子どもの心に、大好きな父と海ゴミを拾った記憶が刻まれる瞬間。それが原風景となって、地球に対するやさしい気持ちは育まれる。

僕ら取材チームも移動して次の場所へ。かつてのハワイの姿に自然を復元するプロジェクトなども視察したが(vol.2以降で紹介予定 *後に差し替え)、滞在中に参加できたアースデイに関するイベントはわずかばかり。実際には、ワイキキでもビーチクリーンが行われ、ハワイ島やマウイ島といったアウターアイランドでもボランティア活動やシンポジウムなどが催されるなど、各地で実に多くのプログラムが企画されていた。そのどれもがハワイの自然を思い、後世へ継承したいと願う気持ちから生まれたもの。そしてプログラムの対象者には子どもの存在がしっかり組み込まれているところに、ハワイの自然や文化を守り継ごうとする明確な意思が表現されていた。

PROFILE
ハワイ州観光局
https://www.gohawaii.jp/ja

小山内 隆(おさない・たかし)●サーフィン専門誌とスノーボード専門誌で編集長を務めた後、フリーランスの編集ライターとなる。雑誌やウェブマガジンなどで、旅やサーフィン、ファッション、アートといったテーマを中心に編集・執筆を行う。男性ファッション誌『OCEANS』ではコラム「SEAWARD TRIP」を10年にわたり連載し、加筆・再編集した書籍『海と暮らす〜SEAWARD TRIP〜』を上梓。