日々、旅をしているあの人は、鞄に何を詰めて、どこへ向かうのだろう?
テレビやYouTubeで創意工夫に溢れるサバイバル能力を発揮している芸人・あばれる君。さらには山好きが高じて山も購入。そんなあばれる君に山へ行くときの7つ道具と山の話を訊いた。
photography=MOMOKA OMOTE / text=MAKI TSUGA(TRANSIT)
──山へ行くときに欠かせない7つ道具を教えてください。
あばれる君:料理が好きだから、アウトドア用の調理道具はいろいろ持っているんですが、なかでもこの7つがお気に入りです。
〈Patagonia〉のボストンバッグ/「大容量で荷物を入れやすくて、汚れを気にせずに使えるのがいいですね」
湯たんぽ/「この間も1月に冬山でキャンプしていたんですが、夜は氷点下になるので寝袋に入っても寒くて。湯たんぽがあると全然違いますね」
調味料入れ/「僕は『キッチンタワー』と呼んでいます。油とか醤油とかコンソメとかスパイスとか、調味料を入れる容器です」
アルコールバーナー/「ガスバーナーより小さいけど、結構な火力でご飯を炊けてカレーも作れる。蓋を開けて真ん中にアルコールを入れて使います」
ファイアースターター(火打ち石)と麻紐/「この石は濡れても火がつきやすい。麻紐をほぐして、火花を散らして火を熾します」
ククリナイフ/「殺傷能力が高いネパールのククリナイフ。これは山仲間からのプレゼントですね。日本刀くらいの威力があって、木の枝とか竹もスパーンと切り落とせます。ブッシュクラフトにも使うし、僕はこれで野菜も切ります!」
ケトル/「ずっと愛用している〈LOGOS〉のケトル。折り畳んでちっちゃくなるので持ち運びしやすい」
コーヒーセット/「ガラスの持ち手のところからコーヒーの生豆を入れて煎ります。煎りたての豆をコーヒーミルで削って、ドリップして飲む。僕の好みは極深煎り。人には「焦げてる」って言われます」
──よく使い込まれているように見えますが、どれもきれいですね。
あばれる君:もちろん! 山から帰ってくるたびに、道具の手入れをしてます。後回しにすると面倒臭くなるのでね。それは高校時代の山岳部でも教わりました。あと大事なのは、ゴミをきちんと持ち帰ること。これも部活で徹底して叩き込まれました。
登山するときは荷物を極力少なくして体力温存したほうがいいし、ゴミも少なくしたいから、パッキングや事前準備には気を使います。野菜を事前に刻み、米を洗っておいたり、トイレットペーパーの芯を抜いたり。そういう山に入る前の仕込みも結構好きなんです。
──山での一日の過ごし方は?
あばれる君:朝6時くらいに起きて、7時頃に東京の家を出て、車で1時間半ちょっとドライブして山に着く。やっぱり朝の空気を感じたいじゃないですか。朝の森の中を歩いていると、マイナスイオンっていうのかな、霧吹きかけられているみたいに自然と肌がしっとりしてくる感じ。え、いま、僕のお肌じゃなくて、頭見てましたよね。
まぁ、それで9時ぐらいに山に着いて、ぱっぱっぱって道具を出して、火を熾して、好きな料理を何品か作って。
家で家族と一緒に夕ご飯を食べたいので、15時ぐらいには山を出ますね。まだ下の子どもが小さいので、最近は一人で山に行くことが多いんです。山に泊まれるときは16時ぐらいからお酒を飲んで。夜は夜で焚き火して。星を見ながら、やっぱりまたお酒を飲んで。
翌朝は6時ぐらいに目が覚めて、テントの朝露を払って、まずはコーヒーです。生豆からコーヒーを煎ってゆっくり、一杯。その後、卵とベーコンを焼いて、朝ご飯。そんな感じです。
──用意周到ですね。そもそも山好きになったきっかけはなんでしょう?
あばれる君:もともと山育ちですからね。福島県と茨城県の県境の矢祭町という人口5000人の町に生まれて、虫と動物と山に囲まれて育ちました。もともと野球をやっていたんですが、「野球より簡単に全国にいける部活があるぞ」って高校の先生に誘われて、扉を叩いたらそれが山岳部だったんです。楽ではなかったですけどね。25 kg のリュック背負って歩いたり走ったり、天気図を書いたり、読図したりとか。
大会では献立のバランスも審査されるんですよ。審判が各チームの夕ご飯をみて回るんですね。僕たちはカレーだったんですけど、「君たちのチームに足りないものは何かわかるか?」「なんですか?」「サラダだ」って言われて、ものすごい減点されて。全国47都道府県中36位でした(笑)。
でも山は肌に合ってましたね。落ち葉を踏む音とか、風の音とか、山から下界に降りた瞬間に電波が通って、溜まっていたメールを見るときの快感とか。それに僕の家は厳しかったので、なかなか外泊できなかったけど、部活だったら山で4泊5日することもできて。そういうのも楽しかったです。
ただ高校を卒業する頃には、「田舎を出たい!東京に行きたい!コンクリート見たい!」って思ってました。それが30歳過ぎたあたりから、「山行きたいなぁ」って自然と思うようになってきたんですよね。
──あばれる君が所有している山について教えてください!
あばれる君:僕の山はほんの一角。サッカーコート一面くらい。テレビ番組の企画だったので、スタッフと一緒になって売りに出されている山をいろいろと調べてたんですが、今の場所にしたのは「川」が決め手。川の近くで焚き火して、『となりのトトロ』みたいに川の水でキュウリとトマト冷やしてムシャムシャ食べる。あれが夢だったんですよ。もうプライベートリバーみたいな。川は国のものなので自分のものにはできないんですけど、川の両側の土地を抑えることで夢が実現できました。僕の敷地は標高が高いので、水はめちゃくちゃきれいです。
──山があってよかったと思う瞬間は?
あばれる君:無音になる瞬間がいい。風も止んで、葉っぱも動かない、その瞬間、「別世界に来たな」って思います。そのときには一秒も逃さないように味わいます。はい、ここメモしてください! やっぱり常に手を動かしてると、自然と目の前のことに集中できるので、仕事や日常を忘れられていいですね。
自分の山があっていいことは、人目を気にしなくていいところ。秘密基地のような感覚というか。バンドマンがプレハブのライブハウスを自分で作るように、僕にとってはそれが山だった。
キャンプ場みたいに、シャワーやトイレや炊事場があるわけじゃないけど、限られたものをうまく応用して、カチッとはまったときも最高ですね。鍋を吊り下げるところがなければ、そのあたりの枝を組み合わせてトライポッドを即席で作ってぶら下げたりとか。外でトイレするのも気持ちいですね。え、大はしないですよ。そういえば、シャワーがわりに息子と僕と川で水浴びしてたら、偶然近くを通りかかったハイカーさんに「河童の親子がいる!」って言われたことがあります。
──印象深い山の思い出はありますか?
あばれる君:高校時代の登山部の大会ですね。大会中に山を登っているときにどうしても大きいほうをしたくなってしまって、山道の草むらでトイレしたんです。あとでその道を通った学校の先生が、「近くに熊がいます」といってルート変更になったことがありました。
──それは忘れられない思い出ですね......。山で叶えたい夢を教えてください!
あばれる君:渓流釣りや狩猟にも興味があります。料理が好きだから、魚も肉も無駄なく捌けるようになりたい。ゆくゆくは子どもたち集めて合同キャンプとかしたいんですよ。ブッシュクラフト会とか、焚き火会、あと料理会をやりたい。みんなで輪になってカレー作ったり豚汁作ったり。地元の福島の山でもできたらいいですね。え、僕の目がキラキラしてる? 山好きはそういう人が多いかもしれないし、やっぱり自分の好きなことの話をしているときはみんな自然と輝きますよね!
あばれる君●福島県矢祭町出身。ピン芸人。高校時代には山岳部でインターハイに出場。特技は登山、アウトドア料理、テレビゲーム、フリースタイルラップ。TV番組『有吉ゼミ』『ポケモンの家あつまる?』『ヒルナンデス!』などに出演。YouTubeチャンネル「あばれる君」も人気。
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