世界最高峰のエベレストを擁し、古代サンスクリット語で「雪の住処」を表すヒマラヤ。
中央アジアを横断し、地球上に存在する8000m峰14座すべてを含むヒマラヤ山脈を知る小さなこと。
illustration=TAKASHI TAIMA
text=TRANSIT
【基本情報】
エリア:インド、ネパール、パキスタン、中国、ブータン
長さ:東西2400km、幅200~300km
構造:4500万年前、インド亜大陸が北上し、ユーラシア大陸に衝突。二つの大陸の間にあった海底堆積物が圧縮、押し上げられて誕生した。
【歴史】
人びとは古くからヒマラヤに魅了され、ヒンドゥー教の苦行者は高地で悟りを求めた。また、チベットやモンゴルの人びとは、険しい山腹に段々畑を作り、石造の家を建てて暮らしてきた。
いくつもの帝国が誕生・進出するなか、19世紀には中央アジアをめぐって英国がロシアとの領土拡張競争 "グレート・ゲーム" を繰り広げる。そして19世紀後半には近代アルピニズムを生んだ英国により「登山」という名のヒマラヤ探求が始まった。
1953年、エベレスト初登頂を果たしたエドモンド・ヒラリー(左)と、テンジン・ノルゲイ
【山】
●エベレスト(チョモランマ)
クーンブ山群に位置し、チベット語で「世界の母神」を意味する世界最高峰。ネパールではサガルマータ(世界の頂上)と呼ばれる。
©Gunther Hagleitner
●K2
カラコルム山脈にある、世界第2位のK2(標高8611m)。19世紀の測量の際に地元での呼称を確認できず、この名がついた。
©waqas anees
●カンチェンジュンガ
インド・シッキム地域とネパールの国境に聳える世界第3位の霊峰(標高8586m)。5つの峰をもち、山名は「雪の五宝」に由来。
©My Discovery
【街】
●ポカラ
ネパール中部、アンナプルナ山群の麓にある。聖山として未踏峰のマチャプチャレのほか、3つの8000m峰を望む風光明媚な町。
©Jean-Marie Hullot
●ナガルコット
カトマンズ近郊にある景勝地。展望台からは、東はエベレストから西はアンナプルナ山群まで、ヒマラヤのパノラマを堪能できる。
©Neil Young
●ダージリン
紅茶の産地として有名なインドのダージリン。標高2590mのタイガーヒルからは、名峰カンチェンジュンガの勇姿を拝める。
©Martin Malmsten
【信仰】
人びとの多くはチベット仏教の影響を受けて発展した山岳仏教を信奉する。ゴンパと呼ばれるチベット仏教の僧院は、山の上や崖に張りつくように建てられることが多く、その光景は神秘的。
また、もともとチベットに仏教が伝わる以前にはボン教という土着の自然信仰が存在したため、5色の旗タルチョにはボン教の呪文が書かれている。
©Basharat Alam Shan
【登山】
1950年、フランス隊が8000m峰に初登頂すると(アンナプルナ1峰)、1953年には英国隊のエドモンド・ヒラリーと、シェルパのテンジン・ノルゲイがエベレスト登頂に成功。
以降も、各国の遠征隊や登山家はヒマラヤを舞台に、無酸素、単独、新ルートといった高難易度の初登頂に挑戦。1990年代になると商業登山ツアーも始まった。
【交通】
ヒマラヤ上空を飛ぶ遊覧飛行や特定の地点を結ぶヘリツアーはあるものの、山岳部にはバスや電車などの交通手段はない。そのため、奥地へ移動したり物資を運ぶには自らの足で歩くことになる。
トレッキングの拠点となる町からは、ポーターやガイドを雇ったり、長期滞在の場合はゾッキョやヤクに荷物を運んでもらおう。
【観光業】
エベレスト地域の本格登山やトレッキングを楽しむ人びとが行き交うエベレスト街道沿いは、観光を生業とする者も多い。その中心がシェルパの里でもあるナムチェ・バザールで、 ロッジや食堂、登山用品店や土産物店がある。
またシャンボチェにはホテル・エベレスト・ビューがあり、カトマンズからへリコプターで訪れることができる。
©Robert Brands
【民族】
言語や文化も異なるさまざまな民族が暮らす。とくに山岳地帯に暮らしているのはチベット系の人びと。
登山ガイドやポーターとして有名なクーンブ地方のシェルパをはじめ、アンナプルナ山塊の南麓で主に酪農を営むグルンや、カトマンズ盆地の高地で木工や竹細工などの手工芸に優れた技術をもつタマンが代表。
©Eldbjorg Nyborg
©Jonny
【動植物】
意外にも豊かな生態系が広がるヒマラヤ山岳部。ヤクや馬、ロバといったよく見かける家畜のほかに、ユキヒョウやヒマラヤタールオオカミといった稀少な哺乳類も生息。
また6~9月の雨季には、標高4000mを超える高地で、メコノプシスやセイタカダイオウなどの高山植物が一斉に花を咲かせる。
©Tambako The Jaguar
©WordRidden
©Dash Dot
©Ugen Tashi bhutia
【地形】
多くの河川がヒマラヤ山奥の北部に源を発し、氷河が解けてできた水を集めて大河となる。インダス川やガンジス川、プラフマプトラ川などは各国の流域に暮らす人びとが利用する農業用水や水上の輸送路となっている。
また、ヒンドゥー教にとってガンジスは、川そのものが女神として神格化され崇められる存在。
©McKay Savage
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