黒澤明やM.スコセッシも称賛
ベンガル映画の巨匠
サタジット・レイの世界

インド映画界で初めて国際的な評価を得て、その基盤をつくった先駆者、サタジット・レイ。
インド映画といえば歌って踊る賑やかなイメージが強いが、ベンガルの自然や伝統文化、人間社会が静かに、繊細に描かれているのがサタジット作品だ。

ここでは、そんなベンガルの巨匠を紐解く3つのキーワードを、おすすめ作品とともにご紹介。
インド映画が世界中で人気を博すいまだからこそ、彼の作品にぜひ触れてほしい。




サタジット・レイ/Satyajit Ray

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©Dinodia Photos / Alamy Stock Photo

1921年5月2日、インド・カルカッタ(現コルカタ)生まれ。インド映画・ベンガル映画を代表する監督で、長編映画のほか、ドキュメンタリーや短編も合わせて生涯36本の作品を生み出した。国際的な評価も高く、黒澤明やマーティン・スコセッシらも称賛のコメントを残している。
また、映画以外にも、作家として児童文学を執筆したり、ポスターなどのイラストやグラフィックデザインを手がけたりと、幅広い分野で才能を発揮した。


●サタジット・レイを知る3つのキーワード


1. ベンガルやインドの伝統をふんだんにちりばめる

彼の作品は、舞台、原作、音楽、とさまざまな点において、ベンガルやインドならではの要素を積極的に取り入れている。
たとえば、ほとんどの映画の舞台はベンガル地域(とくに故郷コルカタが多い)で、全31本のうち26本もの作品がベンガル語の小説を原作としている。また、初期作中の音楽は世界的にも有名なシタール奏者、ラヴィ・シャンカルなどインド古典音楽の巨匠たちが担当。細部にまでベンガルやインドへの誇りを感じることができるのだ。
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レコーディングにのぞむサタジット・レイ(左)とラヴィ・シャンカル(右)。

2. 脚本にカメラ、音楽も自分で。オールラウンダーな製作力

監督という立場でありながら、脚本、撮影、編集までほぼすべての工程で自ら手を動かしていたという。はじめのうちはインド古典音楽の名匠に依頼していた音楽も、スケジュール調整の難しさなども相まって7作目以降はすべて彼が手がけるように。
サタジットは音楽の専門教育は受けていないものの、音楽に対する造詣は深く、ときにインド古典音楽と西洋のクラシック音楽を融合させるなど実験的な取り組みにも挑戦していた。


3. アカデミー賞名誉賞を獲得。世界の映画人の憧れに

これほど多くの賞を獲得した監督はそういない。その名を轟かせるきっかけとなった『大地のうた』の、1956年カンヌ国際映画祭での受賞にはじまり、ベルリンやヴェネツィアといった国際映画祭で幾多の賞を受賞。その功績が認められ、1992年にはアカデミー賞名誉賞に選ばれた。
現在、アジア圏から選ばれているのはほかに黒澤明、宮崎駿、ジャッキー・チェンのみ。世界にどれほどの影響を与えたかがうかがい知れる。
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映画監督の他に、作家やデザイナーとしても活躍していたサタジット。彼が手がけた映画ポスターは、いまでもコレクターが多い。
© Rainer Krack / Alamy Stock Photo



●サタジット・レイの世界に触れる!おすすめ作品


1. 『大地のうた』『大河のうた』『大樹のうた』
世界に衝撃を与えた、通称・オプー三部作

デビュー作となった三部作。ベンガル地方の貧しい農村に生まれた少年・オプーが、貧しい生活や都会への引っ越 し、結婚や家族の死などを経験し、成長する姿を描く。『大河のうた』はヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞。
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発売元:アイ・ヴィー・シー 価格:各¥1,980(税込)


2. 『チャルロタ(チャルラータ)』
サタジット自身も最高傑作に選んだ繊細な心理描写

若く美しい妻チャルロタと裕福な夫、そして夫の従弟・アマルの三角関係を描く。19世紀コルカタの上流階級の女性の行き様と葛藤を細やかに描き、サタジット自身も「自分の作品で、しいて最高傑作を選ぶなら本作だ」というほど。
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© Photo 12 / Alamy Stock Photo


3. 『遠い雷鳴』
ベルリン映画祭金熊賞受賞!大飢饉のなかの生き様を映す

日本軍のビルマ攻略が影響して起こった大飢饉によって、村の生活が徐々に崩壊してい く姿を映した作品。豊かな自然と死にゆく人間たちを対比した映像美などが評価され、1973年度ベルリン国際映画祭での栄冠を手にした。
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© Photo 12 / Alamy Stock Photo



インド映画はもちろん、アジア全体の映画業界を牽引してきたサタジット・レイ。欧米の映画文化に学びつつ、文学や芸術を愛するベンガルの風土、インドの自然や社会性を組み合わせ独自の作風を生み出した彼は、映画を総合芸術まで押し上げました。サタジット・レイの作品の世界をさらに知りたい、そしてダイナミックかつ神秘的な自然や文化、混沌とした街や社会問題など、まだ見ぬベンガルを知りたい方はこちらから!

『TRANSIT59号 東インド・バングラデシュ 混沌と神秘のベンガルへ』

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