波乗りの後はバル巡りへ
忘れられない海 by 小山内 隆
サン・セバスチャン in スペイン編
海は一つなぎにつながっているけれど、国や地域によってその色や地形や植生は異なるもの。そしてその海を中心に多様なカルチャーが生まれ、そこにしかない風景や食、人びとの生活を象っています。
世界のさまざまな海を訪れ、体感してきた編集者・ライターの小山内隆さんに、「もう一度行きたい、忘れられない海」について綴ってもらいました。
第1回は、「スペイン、サン・セバスチャンの海」です。
僕の海旅の目的は波なので、スペイン・バスクにあるサン・セバスチャンでも朝から遊ぶ。起きたらまずは市内のメインビーチ、ズリオラビーチに行って波チェック。良ければその日最初の波乗りを楽しみ、そうでもなければ部屋に戻ってくつろぐか、もしくはボーダー越えを考える。というのも、スペイン北東部の大西洋岸にあるこの海町から、わずか30分ほどのドライブで着くフレンチ・バスクにもビーチは点在しているからだ。
もしサン・セバスチャンの町に留まろうと決めたなら、その日は波と食とそのほかの楽しみに明け暮れる。食はご存じのとおり、旧市街でのバル巡りが楽しく、店ごとのおすすめピンチョスを味わいながらのはしご酒。あるとき、ローカルの友達に連れていかれた店で勧められたのは、ハモンセラーノの生ハムでもバスク豚の炭火焼きでもなく、ほどよく火を入れた牛の熟成肉のステーキだった。味付けはシンプルに塩のみで、それは結晶が大きめの天然塩だ。溢れる肉の旨みにジャリッと存在感ある塩が絡み、噛むほどに味わいが深みを増していく......。
もちろんペロっと完食。それどころか、思わずおかわりもオーダーしてしまった。さらには微発泡ワイン、チャコリとの相性も抜群なのである。
テラス席で潮風を感じながら美食と会話を楽しむ時間はあっという間に過ぎていくが、ご心配なく。夏に訪れたなら、この地は22時頃まで明るい。ゆっくりランチを楽しんだ後でも、海遊びや海水浴の時間は十分にある。ジャズフェスティバルやクラシックの音楽週間が催されることもあり、そうしたイベントに立ち寄るのも楽しみの一つだ。
ちなみに波は晩夏から秋がいい。そして秋には70年以上の歴史を誇るサン・セバスチャン国際映画祭があり、サッカー好きならスペイン1部リーグに属するチーム、レアル・ソシエダのホームゲームを観戦できる。同チームに所属する日本代表・久保建英選手が躍動する姿も、すでにサン・セバスチャンの楽しみだといえよう。
そして先述したように、少しクルマを走らせれば景色も食事情も変わるフランスへも。そんな日は終日を向こうで過ごすことが多く、同国きってのビーチリゾート、ビアリッツを中心に波を探す。海から上がれば港近くのレストランで新鮮なオイスターやムール貝に舌鼓。食後は昼寝をするなどビーチサイドでくつろいで、波の様子を見ながらもう１ラウンド。もしくは街の中を散策して、老舗のチョコレート屋さんでおやつを買ったり、ローカルのセレクトショップでエスパドリーユなどお土産探しにはげむ。
といった具合にフランスへのデイトリップも可能なサン・セバスチャンは人口約18万人の小さな町。日本なら鎌倉ほどの規模なのだが、むしろそのコンパクトさがグローバルレベルの文化的コンテンツと波を同時に堪能できる理由となって、ほかでは経験できない滞在を約束してくれる。
世界のさまざまな海を訪れ、体感してきた編集者・ライターの小山内隆さんに、「もう一度行きたい、忘れられない海」について綴ってもらいました。
第1回は、「スペイン、サン・セバスチャンの海」です。
photography & text = TAKASHI OSANAI
サン・セバスチャンのサーフビーチが、ズリオラビーチ。夏のバケーションシーズンには欧州各地からサーフィン体験を求める人がやってくる。
僕の海旅の目的は波なので、スペイン・バスクにあるサン・セバスチャンでも朝から遊ぶ。起きたらまずは市内のメインビーチ、ズリオラビーチに行って波チェック。良ければその日最初の波乗りを楽しみ、そうでもなければ部屋に戻ってくつろぐか、もしくはボーダー越えを考える。というのも、スペイン北東部の大西洋岸にあるこの海町から、わずか30分ほどのドライブで着くフレンチ・バスクにもビーチは点在しているからだ。
もしサン・セバスチャンの町に留まろうと決めたなら、その日は波と食とそのほかの楽しみに明け暮れる。食はご存じのとおり、旧市街でのバル巡りが楽しく、店ごとのおすすめピンチョスを味わいながらのはしご酒。あるとき、ローカルの友達に連れていかれた店で勧められたのは、ハモンセラーノの生ハムでもバスク豚の炭火焼きでもなく、ほどよく火を入れた牛の熟成肉のステーキだった。味付けはシンプルに塩のみで、それは結晶が大きめの天然塩だ。溢れる肉の旨みにジャリッと存在感ある塩が絡み、噛むほどに味わいが深みを増していく......。
もちろんペロっと完食。それどころか、思わずおかわりもオーダーしてしまった。さらには微発泡ワイン、チャコリとの相性も抜群なのである。
「やるべきリスト」の最上位に来るのがバル巡り。カウンターには多彩なピンチョスがずらり。調理を要する煮込み料理などもあるのでメニューをチェックしよう。
テラス席で潮風を感じながら美食と会話を楽しむ時間はあっという間に過ぎていくが、ご心配なく。夏に訪れたなら、この地は22時頃まで明るい。ゆっくりランチを楽しんだ後でも、海遊びや海水浴の時間は十分にある。ジャズフェスティバルやクラシックの音楽週間が催されることもあり、そうしたイベントに立ち寄るのも楽しみの一つだ。
ちなみに波は晩夏から秋がいい。そして秋には70年以上の歴史を誇るサン・セバスチャン国際映画祭があり、サッカー好きならスペイン1部リーグに属するチーム、レアル・ソシエダのホームゲームを観戦できる。同チームに所属する日本代表・久保建英選手が躍動する姿も、すでにサン・セバスチャンの楽しみだといえよう。
サン・セバスチャンは徒歩での散策が楽しい。愛すべき地元レアル・ソシエダのチームカラー、白とブルーが随所に。
高級リゾート地ながら庶民の暮らしが近いところも特徴。公園で子供たちを遊ばせる光景にほっこり。
そして先述したように、少しクルマを走らせれば景色も食事情も変わるフランスへも。そんな日は終日を向こうで過ごすことが多く、同国きってのビーチリゾート、ビアリッツを中心に波を探す。海から上がれば港近くのレストランで新鮮なオイスターやムール貝に舌鼓。食後は昼寝をするなどビーチサイドでくつろいで、波の様子を見ながらもう１ラウンド。もしくは街の中を散策して、老舗のチョコレート屋さんでおやつを買ったり、ローカルのセレクトショップでエスパドリーユなどお土産探しにはげむ。
といった具合にフランスへのデイトリップも可能なサン・セバスチャンは人口約18万人の小さな町。日本なら鎌倉ほどの規模なのだが、むしろそのコンパクトさがグローバルレベルの文化的コンテンツと波を同時に堪能できる理由となって、ほかでは経験できない滞在を約束してくれる。
隣国フランスのリゾート、ビアリッツまでもわずかな距離。終日を海で過ごし、クライマックスは太陽が海に沈むサンセットタイム。
PROFILE
小山内 隆（おさない・たかし）●サーフィン専門誌とスノーボード専門誌で編集長を務めた後、フリーランスの編集ライターとなる。雑誌やウェブマガジンなどで、旅やサーフィン、ファッション、アートといったテーマを中心に編集・執筆を行う。男性ファッション誌『OCEANS』ではコラム「SEAWARD TRIP」を10年にわたり連載し、加筆・再編集した書籍『海と暮らす〜SEAWARD TRIP〜』を上梓。
■INFORMATION
『海と暮らす〜SEAWARD TRIP〜』（イカロス出版）
2023年6月15日（木）発売、1980円
Amazonページはこちら
■INFORMATION
『海と暮らす〜SEAWARD TRIP〜』（イカロス出版）
2023年6月15日（木）発売、1980円
Amazonページはこちら
