北極圏間近!
スウェーデン・ハラッズへ
ホカンス・トリップ

北欧の、スウェーデンの、ラップランドの、ハラッズ。飛行機を2回乗り継いでやっと辿り着いた、ほぼ北極圏に位置する村で、"何もしない"という充足を手に入れた話。

photography&text=MICK NOMURA(photopicnic)



ストックホルムから、飛行機で約1時間。ルレオは、スウェーデン北部の歴史ある港町だ。北緯65度に位置し、あと一歩(あと1度)で北極圏というだけあって、冬場は最高気温でさえ、やっと0℃に届くかというくらい。

20240403_Sweden trip_1.jpg

日本からスウェーデンへの直行便はないため、東京から約13時間かけて、まずフィンランドのヘルシンキへ向かう。そこから乗り継ぎ、1時間ほどでスウェーデンの玄関口、ストックホルムへ。さらに国内線に1時間半乗って、やっとルレオ空港に到着した。 ここからは陸路で、北西へ1時間ちょっとのドライブ。そしてついに今回の旅の目的地、ラップランド地方のハラッズに着いた。

20240403_Sweden trip_2.jpg

陸路の相棒は、スウェーデンの自動車メーカー・ボルボの新しい電気自動車「EX30」。ボディカラーのクラウドブルーが、北欧の冬の風景によく溶け込んでいる。

20240403_Sweden trip_3.jpg

Google標準搭載で、音楽を聴いたり、電話したり、室温を変えたり、センターディスプレイでYouTubeを見たり。さまざまなことがボイスコントロールで楽にできるから、運転しながらにして自室でくつろいでいるような感覚に陥る。車内での滞在を目的にしてもいいくらい快適だった。

人口500人ほどの"片田舎"のこの村は、じつは世界中から注目を浴びている。オーロラが観賞できる、トナカイや野生のムース(ヘラジカ)に出会えるなど、大自然に触れられることがその理由のベースにあるが、ここ数年で観光客が飛躍的に増えたのには、ユニークなホテルの存在がある。

〈Arctic Bath〉、そして〈Treehotel〉。コンセプトも立地も違うが、どちらもこの土地の気候風土とスウェーデンというお国柄をよく表している、究極のホカンス(ホテルの滞在そのものを目的とするバカンス)を堪能できるホテルだ。

20240403_Sweden trip_4.jpg

ドライブ中、道路を横切るトナカイの群れに出会った。野生と思いきや、スウェーデンにいるすべてのトナカイは先住民族サーミ人の管理下で放牧されているものらしい。

初日に訪れたのは、ルーレ川に建つ水上ホテル〈Arctic Bath〉。印象的な円形建物は、この川が木材の重要な輸送路だった伝統をリスペクトしたデザイン。急流に巻き込まれた木材が折り重なる様子が表現されているという。

20240403_Sweden trip_5.jpg

このアイコニックなメイン棟を中心に宿泊棟が点在、すべての客室が独立したキャビンになっている。泊まったのは小屋風のフローティングキャビン。メイン棟と同じく、凍結したルーレ川の上に建つ。氷が解ける夏場には川面にゆらゆらと浮遊する。ドアを開けるなり、西陽の射すその部屋をすっかり気に入ってしまった。窓からはどこまでも凍る広い川面と針葉樹の森が一望できる。天井が高いため閉塞感はないが、親密なサイズとムードに、気楽にくつろげる安心感があったから。


〈Arctic Bath〉とは"北極の風呂"の意味。そして同ホテルのメインアクティビティが、コールドバスセラピー・セッションだ。高温のサウナと冷水風呂に交互に入る北欧的健康法で、熱さと冷たさの激しい刺激を体に受けているのに、慣れてくると心内がなんとも安らぐという不思議かつクセになるメディテーション的体験ができる。

陽が沈むと、本当の闇と静寂が訪れる。部屋にいると時折、川面の氷がひび割れるピシッ!という音がするが、それ以外に聞こえるのは、しいて言うなら「シーン」という音くらい。白夜の時期にはそこに光が満ちて、きっと荘厳な光景だろう。雄大な大自然の大きな時間のなかに、ぽつんと自分だけがいる感覚。それは、世界から取り残されたようで心細くもあるし、同時に、地球の胎内にいるような安緒感でもあった。

20240403_Sweden trip_9.jpg


2日目に宿泊したのは、森のなかにある〈Treehotel〉。トリップアドバイザーの「死ぬまでに泊まりたい世界のツリートップホテル12」の第1位にも選ばれており、ハラッズが有名になったきっかけともなったホテルだ。森に点在する8つの客室はそれぞれ異なるつくりの独立棟で、木上にある。森に溶け込みながらも、非常に洗練されたデザイン。すべてが異なる北欧建築家によるものだ。

20240403_Sweden trip_10.jpg

こちらでは、〈Treehotel〉のもっともアイコニックな客室といえる「Bird's nest(鳥の巣)」に泊まった。木上の部屋にはハシゴで上っていくしかない。円形の室内にはダブルベッドと2段シングルベッドがあり、秘密基地感たっぷり。出入り口をパタンと閉じれば自分だけのプライベート空間になる、しかも木の上の!否が応でも気分が上がる。

20240403_Sweden trip_11.jpg

大きな森のなかでのこの巣ごもり感は、前日の開けた水景での滞在とはシチュエーションは違えど、雄大な自然のなかに親密感を併せもっている点は共通している。そしてその環境に身を置くと、自然と平穏なメンタリティになるということも。


森に点在する、その他の客室。広さもしつらえもそれぞれ違うので、同じホテルでありながらまったく異なる宿泊体験になる。

20240403_Sweden trip_18.jpg

森のなかで気配を感じて目を向けると、リスが枝にちょこんと座っていた。

〈Arctic Bath〉〈Treehotel〉にいた2日間は、パソコンもスマホも、(そもそも部屋にはなかったけれど)テレビも見る気は起こらなかった。川、森、雪、オーロラ、そして自分。大自然のなか(それでいて、しかも徹底したホスピタリティがさりげなく行き渡っているホテル!)では、何もしないひとときこそが、極上の贅沢になる。その環境が、自分の内への直観を促し、なんとも静穏な気分を味わえるというおまけつき。それがスウェーデン・ハラッズで過ごした、この冬のホカンスだった。

20240403_Sweden trip_19.jpg

〈Treehotel〉の森で、幸運にも現れたオーロラ。宇宙の壮大さを感じさせる幻想的な光景は、たゆたいながらその姿を消すまで目が離せなかった。

INFORMATION
取材協力 : ボルボ・カー・ジャパン

See Also

20230214_Aurora_10©︎Keith Williams.jpg

一生に一度は見たい!オーロラ観測地 BEST10北欧、北米、南半球...

20230116_kouhukuronn_1.jpg

【58号 フィンランド特集】幸福の国フィンランドの秘密!#歴史編 ...

TRANSIT19号美しき北欧光射す方へ