フランス人は残業なし?
バカンスは14日連続がマスト?
労働者としての8つの権利

労働に関するルールをはじめ、労働者のための法律が整っているフランス。
パリの街中には、いろんな権利を享受している人びとの姿が。
ここでは健やかな生活を送るために労働者に与えられる8つの権利を紹介します。

illustration=IKANI
text=MISAKO TATEOKA
supervision=YOJIRO SHIBATA




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下のA〜Hの解説とイラストを照らし合わせて見てくださいね


A. 2023年に大幅改革した「年金制度」


老後もしっかり人生を謳歌するフランス人。それには年金制度の充実度が大きく関係している。日本の国民年金の月額*は6万8000円なのに対し、フランスは月額の最低保証額1200ユーロとかなり高く(その分物価も高いのは事実だが)、高齢者の貧困率は世界でもかなり低い約4%を記録している。だが、2023年に大規模な年金改革があり、受給開始の年齢が引き上げられるなど物議を醸している。
*20歳から59歳までの40年間保険料を納めた場合、65歳から受け取れる額 (2024年度)


B. 離職者に寛容?「失業保険」


被雇用者は直近24カ月の間に6カ月の勤務経験があれば失業手当を受給でき、最大2年間支給されることもある。給付額は、直前の勤務時の賃金の57~75%のため生活を確保しやすく、パートタイムや短期契約でも適用されるのが特徴だ。数年前までフランスは失業保険制度にもっとも寛大な国の一つともいわれ、失業手当を目当てに働かない人が多かったため、徐々に条件が引き締められてきた。


C. 「ストライキの権利」で労働環境向上!


フランス革命をはじめ、労働者が自らの権利や社会のために闘ってきた歴史があるフランス。現在でも、ストライキやデモを行うことは労働者の権利として認められ、参加者たちは不当な扱いを受けないようになっている。社会に大きな影響が出る公共交通機関によるストライキは、48時間前までの予告が義務。ストライキに遭遇しても人びとは怒らず、認めて受け入れるのがフランス流。


D. 夏に2週間以上の「バカンス制度」


フランスでは1年間に5週間の年次休暇取得が義務づけられている。そのうちの2週間を5月1日~10月31日の間に連続して取得するという決まりは、有給取得率の低い日本人にとっては羨ましい限り。子どもの学校が休みになる7~8月頃に取得する人が多く、「7月派(ジュイエティスト)」「8月派(アウシアン)」という言葉もあるほど。「夏の旅先」は社会人の間でもっとも盛り上がるトピックの一つ。


E. 「週35時間労働制」で残業なし


1997年総選挙で勝利した社会党政権(労働者側)の公約の一つで、2000年に法制化された法律。欧米は能力に応じて人を雇う「ジョブ型雇用」という雇用形態で、労働者は契約の範囲内の仕事を、決められた時間内に行うという意識が強い。残業= "仕事ができない" というイメージもあり、企業のペナルティにもつながるので、できるだけ避けるのが一般的。ちなみに日本は週40時間労働制とフランスより長い。


F. 時間外の連絡はNO!「つながらない権利」


「つながらない権利」は、労働者が勤務時間外に職場からの連絡から解放される権利のことで、電話に出たり、メールのチェック・返信をしたりしなくていい。コロナ禍でテレワークが定着し、公私の線引きが曖昧になり注目されたが、フランスでは世界に先駆けて2016年に法で、労働者の「つながらない権利」が明記され、この権利を実現する取り組みを毎年労使で交渉することとされている。


G. 「家族手当」で国が子育てを支援


子育てに対してのサポートが充実しているフランス。2人以上の子がいるすべての家庭へ、20歳になるまで毎月1人あたり100ユーロ以上の手当が支払われ、第3子以上になるとさらに支給額が上がるという太っ腹ぶり。おかげで出生率は1.83(2021年)をキープしている。また、通常の育児休暇とは別に父親だけが取得できる育児休暇は28日間あり、はじめの1週間は取得が義務化されている。


H. キャリア選択の自由を保証する「CPF」 


16歳以上のほぼ全社会人が開設する「CPF(compte personnelde formation:職業訓練個人口座)」は、労働時間に応じて給与とは別に現金やポイントが貯まる専用の口座。パソコンやスマホでいつでもログインでき、それらの現金やポイントはキャリアアップや転職のための資格取得費やセミナー受講費などに充てられる。労働者の権利を拡大するとともに、雇用の柔軟性を高めることが目的。

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©︎YUDAI EMMEI



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