EARTH DAY 2024 in HAWAII vol.2
ハワイの自然や伝統を
未来に受け継ぐ人たち

コロナ禍を経て、いっそう伝統文化や自然環境の継承に注力するハワイ。
世界各地で毎年4月22日に開催される「アースデイ(EARTH DAY)」のタイミングでハワイを訪れてみると、サステナブルの意味を広く共有するイベントが多く見られたのと同時に、"ハワイらしさ"を伝える企業、個人の日々の営みにも触れることができた。ハワイで出合った、未来をつくる人たちの話。

photography=TAKU MIYAZAWA
text=TAKASHI OSANAI



20代の地元出身マネージャーがつくる
ハワイの文化承継プログラム「キスカ」

〈ザ・カハラ・ホテル&リゾート〉 テイラー・レジャーウッド


ビーチフロントの部屋からは、青く美しい海と風にそよぐパームツリーがのぞめ、オープンエアのレストラン、プルメリアビーチハウスでの夕暮れどきには、しだいに温かみを増すランドスケープに心が穏やかになっていく。

時がとまっている。おそらく古のハワイにあったものと、それほど変わらない風景なのだろう。そう思えるクラシカルな滞在を約束するのが、2024年に60周年を迎えた〈ザ・カハラ・ホテル&リゾート(THE KAHALA HOETL & RESORT)〉だ。

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カハラでは、時空を超えた"ハワイらしい"光景に触れられる。

カハラは、1964年のオープン以来、歴代の米国大統領が訪問し、多くのハリウッドスターが定宿とするなど、華麗なる伝統を築き上げてきた世界屈指のラグジュアリーリゾート。しかし今回強い興味を覚えたのは、多くの人を魅了する上質さをもつ一方、ハワイの文化や伝統、風土を伝える社会貢献プログラムを展開していること。さらに、そのプログラムをリードする人物が20代だったことだ。

その人はテイラー・レジャーウッドさん。ハワイで生まれ育った彼女がマネージャーを務めるプログラムは「キスカ(KISCA)」という。

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自然にやさしく。ハワイで生まれ育ったテイラーさんは、ナチュラルにその気持ちを抱いている。

「キスカとは、カハラ(Kahala)、イニシアチブ(Initiative)、サステナビリティ(Sustainability)、アート(Art)の頭文字をとった造語です。ハワイの土地、海などの自然、文化を次世代へ継承することを責務だと感じて展開するプログラムで、地域のコミュニティ、非営利団体などとも共創しています。たとえば、ハワイの花を使ったレイ作りやフラのようなハワイ文化を体験できるプログラムに、"ハワイの自然環境と文化をどう守るか"をテーマとした専門家によるセミナー、ハワイの海洋生物と珊瑚礁を学べるハワイ海洋生物研究所によるアクティビティといった教育プログラムがあります」

ハワイに咲く花でのレイ作りや、地元の女性たちによるハワイ文化を伝えるストーリーテリングなど、こうしたキスカのプログラムはいずれも無料。

ほかにも、パートナーの非営利団体が行うボランティア活動を滞在ゲストに案内したり、またリゾート自体が環境保全に対する取り組みを行ったりもしている。リゾート内の冷却システムに井戸水を使うことで、電力使用量を年間38万キロワットも節電していることなどは一例だ。

「リゾートがあるカハラという場所は、ワイキキとは違い、住宅街です。そして2017年にスタートしたキスカは、この立地を生かしてもっと地域の人たちと連携しようというコンセプトから生まれました。マウナルア湾から届く水を活用していることからも、その地域のコミュニティへの還元を考えるなど、地域に根差したリゾートとしての思いもプログラム誕生の背景にはありました」

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リゾート内にある滝を流れるのは海水。汲み上げた際に酸素を注入し、滝からイルカのいるラグーンへ。

テイラーさんは2023年に2代目のマネージャーとして着任。地元出身であることが要職の責務を担ううえでアドバンテージになっている。カハラとしても、「プログラムを担当する多くは年配の専門家。その方々からの信頼を得られやすいのは、彼女ならではのバックグラウンドがあるから」と評価しているという。

「私はリゾートから15分ほど離れた地域で育ちました。地元の学校に行き、非営利団体のボランティアに参加し、進学したハワイ大学マノア校では、ホテルマネジメント、ツーリズム、ハワイの文化と言語、サステナビリティについて学んできました。地域に親近感をもっていますし、よりコミュニティをよくしていきたいと思っています。それがマネージャーとしてのパッション。これまで培ってきた学びや経験を最大限に活かしていきたいです」

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6頭いるバンドウイルカとの触れ合いは滞在の魅力。

ハワイの人たちは普段から、すぐそばにあるビーチや山を訪れる。鳥のさえずりを聞いたりと、野生の生き物とも毎日のように触れ合っている。自然がとても身近にあるからこそ、自然がよくない変化をしているときに気がつきやすく、心を痛める。環境を想う意識は高いのだ。

「時代の流れがそうだから、環境を守る。ではなくて、歴史的にも文化的にもハワイは自然とともに生きてきたことを子どもたちは学校で学びます。それに私たちは"プラスチックポリューション世代"なんです。物心ついたときからマイクロプラスチックが環境を汚していて、その世界を生きてきました。もっとサステナブルに。もっと環境に優しく。そういった意識をもつ同世代は多いですし、しかも増えていますから、今後もっとほかの企業とも連携していきたいですね」

テイラーさんがもつ生来の感性にも、カハラは期待を寄せている。

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キスカのプログラムは宿泊者でなくても参加可能。

INFORMATION

ザ・カハラ・ホテル&リゾート(THE KAHALA HOETL & RESORT)

HP|www.kahalaresort.com
住所|5000 Kahala Ave, Honolulu, HI 96816



日本人サーファーがリードして
復元させたダイヤモンドヘッドの景観美

クイレイクリフス代表 久保田亮


ハワイを象徴するランドスケープであるダイヤモンドヘッドから眺める光景に変化が見られる。かつて雑木林だったエリアがきれいに整備され、視界が開け、美しい大海原を眼下にのぞめるようになったのだ。足元はきれいに整備された眩いグリーンの天然芝が敷かれ、ピクニック気分で過ごすローカルの姿もあった。

場所はクイレイクリフスビーチパーク。ワイキキからも近いダイヤモンドヘッドにある公園で、整備はひとりの日本人サーファーを中心に行われた。非営利団体「クイレイクリフス(KUILEI CLIFFS)」の代表をつとめる久保田亮さんだ。

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かつては雑木林で、しかも人の手によって整備された。そのような背景など想像しがたい快適さが、クイレイクリフスビーチパークにはある。

「はじめは大切なホームスポットだからきれいにしようと思って、海あがりにゴミを拾ったり、仲間たちとビーチクリーンをしていたんです。日本に住んでいたときは千葉の鴨川へよく行っていて、そのときもビーチクリーンに参加していましたし。だから、それほど特別な意識をもって始めたわけではないんです」

しかしシンプルなゴミ拾いは、やがて環境活動へとシフトしていく。それは、久保田さんが他団体主催の環境活動に参加したことがきっかけだった。

「15年ほど前でしょうか、ノースショアを拠点とするNPO団体『ノースショア・コミュニティ・ランド・トラスト』の活動に参加したんです。活動内容は美しい景観の保護と復元で、昔の海岸線に見られた光景を取り戻そうとしていました。植物であれば外来種から固有種に植え替えるということを地道に行っていたんですが、当時の本音は、"こんなことをして意味があるのかな"でした。でも半年に1回くらいのペースで参加していたら明からに景色が変わっていったんです。今ではアルバトロスが飛来して卵を産むようになりましたから。やればできるんだと思ったんです」

ダイヤモンドヘッド灯台の姿すら視認しづらかった状況が一変。クリアな視界が得られる快適な場所となった。

昔のハワイの光景を蘇らせる。地道ながらもロマン溢れる活動を自身が暮らすエリアで行おう。そう思い、久保田さんの活動は進化していった。

「すでに整備されているので想像しづらいと思いますが、以前は雑木林のようで、ヒッピーの住み処にもなっていたんです。治安が問題視されるほどの状況を生み出していた要因は、キアベなどの外来種。もともとは1800年代に中南米から牧畜用に持ち込まれたものですが、現在では用途が減り、固有種を弱らせることにもなってしまった。景観が昔のそれとはだいぶ変わってしまったんですよね」

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活動中、自ら率先して汗をかく久保田さん。

人の手を加えて自然を維持していかないと山火事の要因にもなるという。不安に感じた住民が自治体に働きかけるものの、キアベなどを伐採するコストは高く、予算が割けないことから改善は見られずにいた。一方、久保田さんと仲間たちはコツコツと外来種を除去し、ハワイ原産種のコウやミロの木などを植える整備活動を展開。住みやすい地域づくりにも貢献しつつ、かつての光景の復元を目指している。

「壊れた自然や生態系を健全な状況とする環境活動を、レストレーションといいます。近年のアメリカではひとつのムーブメントになっていて、とくにコロナ禍を経験し活動に拍車がかかりました。ハワイでも人の活動がとまったら自然はより美しく輝きだし、海も明らかに高い透明度を取り戻しました。これまで人は自然に優しくない活動をつづけてきましたが、姿勢を変えれば自然はもっと豊かになる。その治癒力はすごいのだなと、多くの人が実感したんです」

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治安を危ぶまれた公園がローカルたちの憩いの場所へ。

パンデミック中も野外活動が認められていたことから、久保田さんたちの活動を手伝う人は増えていった。ホノルル市からのアプローチも届き、歩みをともにしながら整備をすることに。そして2023年には活動に継続性をもたせるため非営利団体「クイレイクリフス」を発足。ボランティアを募りながら毎週土曜の午前中にレストレーションを行っている。参加は旅行者でもOK。ぜひカジュアルなスタンスで参加してほしいという。

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これまで日本人旅行者のボランティア参加もあったという。詳細はサイトから。

INFORMATION

クイレイクリフス(KUILEI CLIFFS)

HP|kuileicliffs.org



地元ハワイのみならず
就航先の地域社会にも貢献

ハワイアン航空


機内に乗った瞬間から南国ムード。離陸前からハワイにトリップできるハワイアン航空は、ハワイのフラッグシップキャリアで、日本からは羽田・成田・関西・福岡からホノルルへの直行使が就航している、拠点はホノルルであり、またスタッフの90%がハワイ出身もしくは在住。彼らの多くは自らが暮らす土地を大切に敬い、そのマインドが、今年で設立30年を迎える同社のボランティアグループ、チームコクア(Team Kokua)を支えている。

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日本の4都市5空港からハワイへ運航中。ハワイ州の島間は 1日 約150便を運航している。

「コクアは "協力"や"助け合い"を意味するハワイ語で、私たちは地元の土地への敬意や愛情を表現しながら、近隣住民の生活向上を目的とした社会貢献活動を行っています。その方法は、実働としてのボランティア、ハワイアン航空のマイレージプログラムによるマイルや現金の寄付など、さまざまです」というのは同社の広報スタッフ。つづけて、「フォーカスする分野は、文化、教育、環境、健康・福祉サービスなど。2023年には合計1500人以上の社員が8548時間のボランティア活動を行い、180万ドルの現金および物品の寄付を行ってきました」と教えてくれた。

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「ハワイアンフードバンク」が支援する多くは低所得世帯。彼らもまたハワイに暮らすオハナ。チームコクアは温かな手を差し伸べている。

具体的なプログラムは、非営利団体「ハワイアンフードバンク」での食料品の仕分け作業、障害をもつ人びとや高齢者を助けるプログラムを供給する施設「ラナキラ・パシフィック」と協力して、地域のクプナ(お年寄り)に食事を届ける配送作業、物資が不足している離島の地域へ食料品を輸送するサービスなど、多岐にわたる。

タロイモの球茎を調理したポイ。ハワイの伝統料理の一つで、チームコクアではタロイモ畑の復興を手掛ける非営利団体「カコオ・オイヴィ」でボランティアを行なっている。

また就航先の国々でもさまざまな活動をしている。

「ホノルル市と日本の茅ヶ崎市は姉妹都市として今年で10周年を迎えるパートナー。そのつながりから、2019年にはチームコクアによる活動の一環として、茅ヶ崎市のビーチで地元住民と協力しビーチクリーン活動を展開しました。今夏にも実施予定です。前回はハワイアン航空本社・日本支社の社員とその家族、また茅ヶ崎市在住の親子など計約80人が参加。若い世代に環境保護の方法を教育したいという思いもあり、また今年も同じ規模で実現できたらと考えています」

同様の活動は日本以外の就航都市でも行っており、今年5月にはオーストラリア就航20周年の記念イベントをシドニーで催した。近郊にあるフレッシュウォータービーチに対しては、ビーチの保護活動を支援するため、地元の団体に2500ドルを寄付。というのも、そこはハワイ出身のオリンピアンで伝説的なサーファー、デューク・カハナモクがローカルの人びとにサーフィンを初めて紹介した場所。オーストラリアがサーフィン大国となる礎となったビーチであり、両国の深いつながりを象徴しているのだという。

フレッシュウォータービーチにあるデューク像。イベント時には真っ赤なカーネーションのレイが飾られていた。

ハワイアン航空は、地元ハワイや就航する先のコミュニティの役に立ちたいという思いから、さまざまな活動を展開してきた。心からのアロハの気持ちをもって、安全で快適な暮らしづくりに寄与してきたのだ。

INFORMATION

ハワイアン航空(Hawaiian Airlines)

HP|www.hawaiianairlines.co.jp




海の落とし物で創作する
レジェンドウォーターマン

マーク・カニングハム


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美しい海。しかし「ビーチには毎日のようにごみが漂着している」とマーク・カニングハムさん。

海中や海上がりのビーチで拾った、サーフボードのフィンで創ったアート作品。それを最初に目にしたのは、2023年2月にワイキキにオープンした〈ロンハーマン〉の店内だった。大きな1枚のウッドボードをキャンバスに見立て、そこに飾られた20枚近い色とりどりのフィン。数日前に拾ったものや、十数年前に拾ったものなど、アートの"素材"となるフィンの背景はさまざまで、「製造年やブランドによってカタチが変わるから、ディテールを見ると使用されていた時代が思い起こされてくる。そんなことも楽しいんだよ」と創作者が優しく笑っていたことを覚えている。

手掛けたのはマーク・カニングハムさん。長らくライフガードとして活躍し、世界的なサーフスポットであるパイプラインを仕事場としていた人物だ。超一流のプロサーファーさえ命を落としかねないビッグウェーブがヒットする冬のミッドシーズン。そんなハイリスクな状況下でも人命救助の職務をまっとうしてきたマークさんは、ボディサーフィン界の第一人者という顔も。人生の大半を海で過ごし、だから海中やビーチに落ちているゴミを拾うのは、自宅のリビングを掃除するのと同様のこと。無意識のアクションなのだ。

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ペットボトルのフタやライター。これら海で拾った落とし物も、アートの素材となる。

「ライフガードをしていたときも、休憩中に海に潜って、落ちている物を拾っていたんだ。それは宝探しのような感じでもあって、サーフボードのフィンだけでなく、ジュエリー、腕時計、ときにはお金もあったね(笑)。海からあがり、ビーチに何か落ちていればそれも拾う。それは僕にとってはごく自然なこと。もう何十年もつづけていることだから」

海の落とし物を使って創作を始めたのは、およそ10年前。ライフガードをリタイアしてからだった。アートの勉強をしたことはないものの、最初の奥さんがカメラマンで、構図などを教えてもらったという。そうして試行錯誤をしながら生まれていくクリエイションに、知人たちが「アートとして発表するのがいいんじゃない?」とアドバイス。SNSなどで発信していった。

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自宅に置かれた創作素材の数々。

「知ってる? アメリカにおける使用済みプラスチック廃棄物のリサイクル率は、わずか5%程度なんだって。一方で、一人当たりの発生量は増えているし、ビーチに漂着していないため人の目に入らない海洋プラごみも大量にある。そういった事実に気づき、関心を抱いてもらえるきっかけになるといいなと思ってるんだ」

モチーフに歯ブラシを使ったアートワークを見れば、「なんでビーチに歯ブラシが?」という疑問が自然と浮かぶ。持ち手部分に刻まれた言語は英語だけではなく、アジアのものもあった。ハワイで捨てられたものか、異国で捨てられ漂ってきたものかはわからない。ただ、漂着ごみがハワイだけの問題ではない、ということは明らかだ。

海と歯ブラシ。両者の関係性は不自然で違和感しか覚えない。

北東からの貿易風、トレードウインドが吹くとハワイの海岸には多くの海ごみが漂着する。しかし、そのコンディションを狙って海へ向かうことはないという。なぜなら、海はライフスタイルだから。ビーチを散歩するのはいつものことで、目に入ったらゴミを拾う。拾ったら持ち帰り、真水で洗って乾かす。乾いたら、インスピレーションを大切に創作へ。

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「サステナブル・コーストラインズ・ハワイ」によるビーチクリーンで、同団体のメンバーである来迎秀紀(きむかい・ひでき)さんと。ともに現状を憂いながら、未来の明るい海環境を希求するオーシャンラバー。

御年68歳。海とともに生きてきたグランパは、泳ぎ手から表現者となった。しかし今も昔も変わらずに、その身をもって海の素晴らしさを伝えてくれている。

PROFILE
ハワイ州観光局
https://www.gohawaii.jp/ja

小山内 隆(おさない・たかし)●サーフィン専門誌とスノーボード専門誌で編集長を務めた後、フリーランスの編集ライターとなる。雑誌やウェブマガジンなどで、旅やサーフィン、ファッション、アートといったテーマを中心に編集・執筆を行う。男性ファッション誌『OCEANS』ではコラム「SEAWARD TRIP」を10年にわたり連載し、加筆・再編集した書籍『海と暮らす〜SEAWARD TRIP〜』を上梓。