自然と暮らしが身近な距離にあることを一つの背景として、ネイチャーフレンドリーな人、施設、体験プログラムがいっそう増えているハワイ。ここでは現地を訪れた際に立ち寄ってみたいサステナブルなスポットを5つ紹介しよう。
photography=TAKU MIYAZAWA
text=TAKASHI OSANAI
1. レストレーション体験ができる
〈ノースショア・ステーブルズ〉
全地形対応車(ATV)が駆け抜けるのは、海、土、緑が織りなすオーシャンフロントの広大なフィールド。オアフ島北西部の町ワイアルアにある67エーカーもの私有地で、爽快なATV体験を提供するのは〈ノースショア・ステーブルズ(North Shore Stables)〉だ。ほかにも乗馬体験など各種プログラムを用意していて、なかでも近年人気を得ているのは植栽体験である。
広大な敷地やダートロードを快走できるサービスが人気の〈ノースショア・ステーブルズ〉。
植栽体験ではまず、ハワイ固有種の植物が栽培されるグリーンハウスで好みの苗を選ぶ。そして1マイルにも及ぶ海岸線が見渡せる植栽場所へ。海と砂浜によるランドスケープは美しく思えるが、よくよく見ると、どことなく荒れているようにも感じる。
グリーンハウスでハワイの固有種を自社栽培。植栽活動に活かしている。
「ハワイには国外に暮らす人を魅了し、旅意欲もかきたてる美しいビーチがあります。ですが最近は、そうしたビーチの海岸侵食が激しくなっているんです。侵食の一因はホテルや家屋などを海の近くに建造する開発。海岸線には植物が少なくなり、波はダイレクトに打ち寄せて岸壁を削り、ビーチから砂を取り除いていってしまうんです。そこでどうすれば改善できるのかを学んだところ、ネイティブの植物を植えていくことが唯一ともいえる方法なのだと知りました。このことはランドスケープに関する仕事に就く同業の人たちも同じような意見でした。そこで自社の事業として海岸再生プログラムを展開しているのです」
緑化が進む海岸線だが、3年ほど前には植物はなかったという。
説明してくれたのはオーナーのアダム・リーさん。2021年に開業して以来、みずから地道に、コツコツと、所有地の海岸線に植物を植えてきた。聞けば、植物の種類によって好ましい植え場所があるのだという。
オーナーのアダムさん。日本語を巧みに操る心優しいハワイアンだ。
「砂地にはアキアキを植えます。砂のなかに根を張るため、砂が海へ流れてしまわないような働きをしてくれるのです。またミロの木は塩害に強く、根が海水に浸かるような海岸でも育ちます」とアダムさん。植えたい場所に植えたいものを適当に、というわけにはいかないようだ。
カラリと心地良い陽気のなかで植樹体験ができて、フィールドで採れた南国フルーツも食べられる。そんな島の時間を〈ノースショア・ステーブルズ〉では味わえる。
参加者は、植物の適性などもレクチャーされながらビーチの緑化をサポートしていく。海岸線の復元(レストレーション)という、ハワイの海をプラスの方向へ導く体験をすることができるのだ。
INFORMATION
ノースショア・ステーブルズ(North Shore Stables)
HP|
northshorestables.com/ja_jp
住所|67-221 Waialua Beach Rd, Waialua, HI 96791
2. ゴミのないライフスタイルをつくる
〈プロテア・ゼロ・ウェイスト・ストア〉
ワイキキからおよそ30分のドライブで着く東海岸のカイルア。閑静な住宅街であるこのエリアに、ハワイで初めて生まれたゼロウェイストのショップが〈プロテア・ゼロ・ウェイスト・ストア(Protea Zero Waste Store)〉だ。同ショップはハワイ・パシフィック大学で環境学を学んだオーナーのローリー・マリーニさんが2020年にオープンさせたもの。以来、ローカルの人たちをはじめ「ゴミを出さない」ショッピングを支持する人たちに愛されてきた。
採光豊かな〈プロテア・ゼロ・ウェイスト・ストア〉の店内。スタッフがフレンドリーで買い物もしやすい。
店内にはシャンプーやコンディショナー、オーガニック洗剤などの日用品、キッチン用品、化粧水やクレンジングといったコスメアイテム、セカンドハンドの洋服などが置かれている。洗剤などはリフィル式で、自分のボトルや容器を持って来店し、量り売りで購入することができる。もしマイボトルを持っていなくても大丈夫。再利用可能な容器を揃えてもいるから、手ぶらでふらりと入店しても必要なものを必要な分だけ買えるのだ。
毎日使うものだからこそ、サステナブルなものを。その哲学が厳選アイテムに示される。
取り扱うアイテムは、できるだけ地元の企業やブランドで、サステナブル志向なものから優先的にチョイス。ハワイメイドのオールナチュラルなソープバーなどは、色彩豊かで香りも良く、お土産にもおすすめだ。
リフィルの導入により、オープンから2万7000を超えるボトルの削減を実現。
INFORMATION
プロテア・ゼロ・ウェイスト・ストア(Protea Zero Waste Store)
HP|
proteazerowaste.com
住所|35 Kainehe St #102, Kailua, HI 96734 アメリカ合衆国
3. アップサイクルした服が魅力の
〈フォー・シンプル・サステナビリティ〉
洋服にセカンドライフを。ヴィンテージのアロハシャツの生地や古着のデニムを使って、新たな息吹が吹き込まれた洋服に作り変える。2023年春にワードビレッジにオープンした〈フォー・シンプル・サステナビリティ(For Simple Sustainability)〉には、オーナーのキーリー・ナカマさん自らがミシンを使い、オリジナルクローズを創造する姿があった。
ショップはアラモアナビーチから至近のワードビレッジ1Fに。
洋服を仕立てるテーラーであり、スピアフィッシャーという顔ももつキーリーさん。父親が水夫であったことからも幼少期から海への思いが強く、また家族のルーツがプランテーションでの労働者であったため郷土愛も強い。「いつも海や山がそばにあった。だからショップで扱うアイテムを通して、ハワイの豊かさを広く伝えていきたい」とキーリーさんは言う。
ハワイメイドのヴィンテージ生地でリメイクしたコルセットとショートパンツ。いずれもキーリーさんのハンドメイド。
扱うアイテムの80%以上がローカルのもの。店内には、サトウキビ職人が着ていた作業着「パラカ」の生地を使ってモダンにアップサイクルした服や、地元の写真家による美しいハワイの海の写真、オーガニック製でリフィルによる量り売りが可能なシャンプーやコンディショナーといった日用品などが並ぶ。ハワイを思い、サステナブルな未来を思う、キーリーさんの愛が詰まったショップなのだ。
ウクレレ、写真集、ハワイメイドのオーガニック洗剤など、ショップには豊かなハワイが詰まっている。
INFORMATION
フォー・シンプル・サステナビリティ(For Simple Sustainability)
HP|
www.for-simplesustainability.com
住所|1200 Ala Moana Blvd #480, Honolulu, HI 96814
4. 100%太陽光発電のウォーターパーク
「ウェット・アンド・ワイルド・ハワイ」
敷地内に設置したソーラーパネルを活用し、100%太陽光発電でアトラクションを稼働させているのが「ウェット・アンド・ワイルド・ハワイ(Wet'n'Wild Hawaii)」。オアフ島第二の都市、カポレイにあるウォーターパークだ。
絶叫系などアトラクションが楽しいオアフを代表するアミューズメントパーク。
東京ドームおよそ3個分と広大な敷地に、大人も子どもも楽しめる25のアトラクションがある。流れるプールといったリラックス系や、水しぶきをたてながら約200mのコースをゴムボートで下っていくエキサイト系、約15mの高さから巨大な円錐の中を右左に振られながら落ちていく絶叫系など、さまざまなアトラクションが楽しめる。
青い空と緑のパームツリー。開放感に溢れる中でプールタイムを堪能できる。
ゆるっとスライダーを楽しんだり、巨大な竜巻の中を滑降する「トルネード」で絶叫したり。多彩なアトラクションを楽しめる。
きれいな海に囲まれたオアフ島にあって、ローカルのグループやファミリーが楽しく過ごす姿を多く目にするこの施設。ハワイの人に愛されている場所であり、またグリーンエネルギーを導入しているところには、2045年までにカーボンニュートラルと自然エネルギー電力 100%を達成する目標を掲げるハワイらしさがある。
プールサイドでのチルタイムも心地いい。
導入しているのは1.3メガワットのソーラーシステムで、2958枚の高効率440ワットソーラーパネルで構成。年間215万キロワット超の電力を生み出し、それは200を超える住宅への供給量に匹敵するという。加えて、約73万kgの石炭の燃焼で生まれる二酸化炭素や、約580万kmのドライブで発生する温室効果ガスと同等の量を削減することにもつながっている。
刺激的な時間は駐車場のソーラーパネルによるグリーンエネルギーが提供する。
2023年には2億ドル以上をかけて蓄電システムを導入。曇りや雨など、太陽の出ていない日にも電力を使えることになり、またひとつ環境にやさしいウォーターパークへと進化を見せた。
INFORMATION
ウェット・アンド・ワイルド・ハワイ(Wet'n'Wild Hawaii)
HP|
www.wetnwildhawaii.jp
住所|400 Farrington Highway, Kapolei HI 96707
5. 環境と観光の両立を目指す
海洋環境保護区の「ハナウマ湾自然保護区」
ハワイのアースデイを紹介している記事のvol.1で紹介した、地元のNPO「サステナブル・コーストラインズ・ハワイ」によるビーチクリーン。その開催地であるオアフ島の南東部にあるワイマナロビーチへは、ワイキキから車で一路東へ。カハラを抜けて、ハワイ・カイ地区に入り、しばらくすると青々とした大海原が広がった。
そこは海洋環境保護区の「ハナウマ湾自然保護区(Hanauma Bay Nature Preserve)」。ハワイ語で「湾曲した」という意味をもつ「ハナウマ」という名の通りに、火山の噴火でできた地形が波の侵食によって湾曲し、美しい入り江となったところ。かつてハワイの王族以外の立ち入りが禁止されていた神聖な場所でもある。
入場制限されたのちも人気の美しきハナウマベイ。©ハワイ州観光局
海水の透明度がとても高く、シュノーケリングスポットとして人気で、これまで年間100万人の観光客が訪れることもあった。しかしその人気ぶりはオーバーツーリズムと呼ばれる状況を生み出してしまい、海洋生物に触れたり、珊瑚礁の上を歩いたりといった環境への配慮に欠く行動も指摘されるように。そこで、"自然の保護を最優先に、そのうえでツーリズムを楽しんでほしい"という姿勢をより明確に、ハワイ州は入場者数の上限を決定。2021年7月1日からは、1日あたり1400人(10分ごとに40人まで)としている。入場の予約は訪問日の48時間前からオンラインで行うことができる。
コロナ禍前は1日の入場者数が約3000人という年もあっただけに、とても思い切った施策といえる。ただ、パンデミック中は閉鎖され人の往来ができずにいたこともあり、湾の海水の透明度はコロナ禍前に比べ42%も高まったという。そうしたデータも念頭に決められた施策は、海や自然と人が共存するためのもの。持続可能なツーリズムを目指してのものなのだ。
INFORMATION
ハナウマ湾自然保護区(Hanauma Bay Nature Preserve)
HP|
hanaumabaystatepark.com
住所|7455 Kalanianaʻole Hwy, Honolulu, HI 96825 アメリカ合衆国
営業日時|水曜から日曜までの6:45〜16:00
休園日|毎週月曜・火曜、クリスマス(12月25日)、元旦(1月1日)
入場料金|25ドル(12歳以下の子供、州民は無料)
PROFILE
ハワイ州観光局
https://www.gohawaii.jp/ja
小山内 隆(おさない・たかし)●サーフィン専門誌とスノーボード専門誌で編集長を務めた後、フリーランスの編集ライターとなる。雑誌やウェブマガジンなどで、旅やサーフィン、ファッション、アートといったテーマを中心に編集・執筆を行う。男性ファッション誌『OCEANS』ではコラム「SEAWARD TRIP」を10年にわたり連載し、加筆・再編集した書籍『海と暮らす〜SEAWARD TRIP〜』を上梓。