個性的なパンの数々!
〈TOLO PAN TOKYO〉と巡る
中南米パンホッピング

東京・池尻大橋の人気ベーカリー〈TOLO PAN TOKYO〉で、ユニークなパンを生み出す田中シェフ。日夜パンと向き合い、研究している彼が半年間の旅先に選んだのは中南米! ゲバラに憧れる田中真司さん&妻・ルミさんの、 自由な中南米パン旅の記録。

photography=SHINJI TANAKA & RUMI TANAKA
text=TRANSIT

*本記事は、『TRANSIT 65号 世界をパンをめぐる冒険 創世編』の記事の一部を抜粋しています。



「憧れの人はチェ・ゲバラとホセ・ムヒカ」という田中さんが久しぶりの旅先に選んだのは、中南米。中南米は植民地時代に入ってきたパン文化が根強く、街中に「パナデリア(地域・言語により「パダリア」などとも)」と呼ばれるベーカリーが並ぶ。シンプルな食事パン数種類だけが置かれている場合から、甘いパンがラインナップする店まで、南米のパナデリアは個性豊かだ。「どの国でも売られていたのはかさかさのバゲット的なもの。国によって名前は違いますが、パン・フランセースやマラケタと呼ぶ地域が多いようです。食感は軽くてしゅわしゅわしていて、味もあまり主張がない。正直おいしくないものも多かったです」。だが、主張のないパンのメリットにも気づいたそう。「軽いパンってサンドウィッチにはぴったりだと思って。この旅でもっともおいしかったのがペルーで出合った『アレキーパサンド』。炭火で焼かれた豚肉を挟んだサンドウィッチで、これもパンが軽いからこそ、肉のおいしさが引き立っていました」

そして中南米といえばトウモロコシのイメージがあるが、実際はどうなのだろうか。「たしかにトウモロコシのパンはどの国でもありましたが、ホールで大きく焼いて切り分ける、おやつ感覚のものが主流でした。衝撃だったのは、このコーンブレッドをつくるときに、プラタノという青バナナを卵がわりに入れる地域があったんです。そうすれば、動物性の食材を使わずともしっとりした食感が出せるのだと知りました」。ちなみに、トルティーヤのようなトウモロコシの薄焼きパンはメキシコ以外ではあまり見なかったそうだ。

中南米旅を終えた田中シェフの脳内は、新しい構想でいっぱいだ。「旅のなかで、ペルーのパンチュータなど塩をほぼ入れない製造工程に出合いました。製パン理論的には、塩を入れないと味も締まらないし、雑菌が繁殖しやすく酵素の抑制が効かないために発酵しすぎて、軽いパンになってしまう。でも、中南米の食にはポテンシャルがあるから、製パンの技術をきちんと伝えれば、さらに効率よくおいしいパンができるのではと思ったんです。なので、現地の文化を大切にしながらおいしいパンのつくり方を伝えていきたいと考えていて、パンの交換留学みたいなことも画策しています」。もちろん〈TOLO PAN TOKYO〉でも、この旅で得たものを活かして、さらに独創的なパンが生み出されるに違いない。


◆アルゼンチン 🇦🇷


サンドウィッチがうますぎる!


パンはかさかさ系のバゲットのほか、メディアルナという甘い三日月状のクロワッサンのようなものや、エンパナーダというパイ包みのようなパンもよく見かけました。メディアルナはコーヒーと相性抜群で、朝食や軽食に好んで食べられているそう。あとアルゼンチンで印象的だったのがチョリパンというサンドウィッチ。バゲットにソーセージと、チミチュリソースというパセリやニンニクなどが入ったソースをはさんだ、アルゼンチン人のソウルフードなんです。

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街中のベーカリー。

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アルゼンチンに限らず南米は肉がうまい!サンドウィッチの具としてもハイレベル。

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屋台の定番・チョリパン。

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メディアルナ。クロワッサンに近い味だが食感はふかふか系。


◆チリ 🇨🇱


パン消費量世界2位の国は、おつまみもパン。


チリで主流のパンは、スコーンのような食感の平たいアジュージャと、かさかさのフランスパン・マラケタ。両方とも薄力粉でできていて、ふわふわ感はなく、ジャムなどをつけて食べているようです。サンティアゴの新市街には欧州の流れを汲んだレベルの高いブーランジェリーも多くありました。あとはガーリック&ハーブのトーストがおつまみとしてよく出てきて、これをピスコサワーで流すのが最高でした。

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街中のパナデリア。甘いパンやケーキが売られているパステレリアが併設の場合も。

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ガーリックトーストのおつまみは、ほんのりレモンの効いたペルーの代表的ドリンク・ピスコサワーとよく合います。

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アジューシャ ©︎IIdi Papp

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マラケタ ©︎michelepautasso


◆コロンビア 🇨🇴


コーヒーに合うパンが◎


コロンビアのパンといえば、パンデボーノというキャッサバを使ったもちもちのチーズパンや、アレパというトウモロコシ粉の丸パンに肉などを挟んだサンドウィッチがポピュラー。でも、印象的だったのはボゴダの新市街にある欧州系のブーランジェリー。バゲットなどフランス系のパンは日本や本場に引けを取らない本格派でした。あとはコーヒーの産地なので、コーヒーと一緒に食べるデニッシュもおいしかったです。

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パナデリアやカフェのデニッシュ系がさくさくでおいしい。コーヒー大国なだけある。

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ころんとした形のパンデボーノと、朝食などでもよく食べるアレパ。

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ハイクオリティなバゲットがあるパン店も多い。


◆メキシコ 🇲🇽


高水準なパン&トルティーヤ。


メキシコはとにかくレベルが高い。カリフォルニアの〈Tartine Bakery〉の流れを汲んだ店もおいしいし、街中のパナデリアも味が確立されていましたね。あとは、どの料理にも添えられているトルティーヤ。食べ比べると味や色、食感が店ごとに少しずつ違い、個性があることが発見でした。オアハカのベーカリーレストラン〈Masea Trigo y Maíz〉はいろんなトウモロコシでできたトルティーヤやパンが食べられるのでおすすめです!

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やはり外せないタコス。最近はメキシコ固有種のトウモロコシでつくられるトルティーヤも。

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街や市場のパンもおいしいお店が多かったメキシコ。

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オアハカの〈Masea Trigo y Maíz〉は店構えもおしゃれで味もよかったです。


PROFILE

TOLO PAN TOKYO(とろぱん とうきょう)

アメリカンガレージをイメージした人気のベーカリー。東京・青山の〈デュヌ・ラルテ〉で修業した田中真司さんらが2009年にオープン。ガチョウの油を使用した「世田谷バゲット」や超パリパリ食感の「パンオショコラ」をはじめ、独創的なパンが多数!

住所:東京都目黒区東山3丁目14-3
営業時間:8:00〜17:00
定休日:火・水曜
HP:https://www.tolotokyo.com/

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TRANSIT最新号『世界のパンをめぐる冒険』では、ここで紹介した国のほかにも、日本にはない個性的な世界各国のパンについて特集しています。また、パンの歴史や文化との関わりなど、盛りだくさんな一冊です。ぜひ本誌をお手に取ってみてください。

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