TRANSIT編集部日誌
ライ麦とスパイス香るフィンランドパン
〈ライ麦ハウスベーカリー〉@鎌倉

2022年12月発売号はフィンランド特集! ということで、フィンランドにまつわる情報をお届けしていきます。

日本人にとってのお米のようにフィンランド人はライ麦パンが欠かせないという。しかもライ麦は栄養が豊富なうえに、消化がしやすく体にやさしいのだとか。日本でもフィンランドのパンが食べられるお店が鎌倉にあると聞いて、お店に向かうことに。フィンランドのパンのお話を聞いてきました。

text & photography=MAKI TSUGA(TRANSIT)



賑やかな小町通りをすり抜けて鎌倉駅から歩くこと5分。住宅街の小道からふわりと芳しい匂いが溢れるパン屋さんが。「シナモンロールに使っているカルダモンの香りですよ」 と出迎えてくれたのは、〈ライ麦ハウス ベーカリー〉のラッパライネン・アキさんと奥さんの優子さん。開店と同時にちょうど焼きたてのシナモンロールが並んだところだった。

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10時の開店に合わせて、毎朝4時から準備。シナモンロールをつくっているところを見せてくれた。カルダモンを練り込んだ小麦粉の生地にシナモンをまぶして丸太のように丸めてカット。ぎゅっと潰してアーモンドダイスと砂糖をまぶす。この日は150個のシナモンロールを焼き上げた。

フィンランド出身のアキさんは、アメリカやオーストラリアなど海外で暮らしていた時期も長く、その間に自分の国のいいものを伝えたいという思いをあたためていたそう。「フィンランドといったら、サウナ、デザインが有名です。でもそれと同じくらいフィンランド人が大好きなのがライ麦パン! 国を離れるとなかなか故郷で食べていたようなフィンランドのパンが食べられなくて、それで自分でつくろうと思ったんです」とアキさん。

オーストラリアで出会った奥さんの優子さんと一緒にフィンランドで暮らしていたときに、パン屋で働きながら専門学校でパンづくりを学びはじめ、日本のパン屋でも働いた後、2017年に〈ライ麦ハウス ベーカリー〉を開いた。お店の名前にもあるように、「ライ麦」はフィンランドのパンに欠かせない存在だという。

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パンをつくるラッパライネン・アキさん。フィンランド南部のラハティ出身。フィンランドではシナモンロールのような菓子パンは小麦粉を使うが、食事に合わせるパンはライ麦が多い。

アキさん:フィンランドの食卓に並ぶのは、ライ麦を使ったパン。ドイツや北欧はライ麦パンをよく食べますね。小麦よりも寒さに強いライ麦、オートミール、大麦を使ったパンを昔から食べてきたんです。

優子さん:フィンランドにいたときに、地元の人たちは朝食、10時の軽食、ランチ、夕飯、夜の軽食といった感じで、1日に4、5回ごはんを食べていたんですが、テーブルの上には必ずライ麦パンがあって、お肉や魚やスープと合わせてパンを食べていたんですね。それに10時と夜食にはライ麦パンのサンドイッチを食べたりしていましたね。フィンランド人は「ライ麦パンを食べないと強くなれないよ」と子どもに言うんですよ。

アキさん:ライ麦パンは体にもいい。ビタミンB類、ミネラル、食物繊維が小麦よりもたくさん含まれているんです。ただいくら栄養があってもライ麦をそのまま食べたら消化不良になる。だから発酵させてパンにするんだけど、ライ麦パンはイーストではなくてサワー種で発酵させるから、消化しやすいんです。お店では自家製のサワー種を使っています。

サワー種(サワードゥ)というのは、ライ麦や小麦粉と水でつくった発酵種のこと。ライ麦は小麦と違ってグルテンを少ししか含んでいないため、イーストを混ぜても発酵が進みにくい。そのためライ麦パンをつくるときには、サワー種を混ぜて発酵させるのが基本なのだ。

サワー種には乳酸菌や酢酸菌が含まれているので、ライ麦パンには特有の酸味がある。それがライ麦パンならではの旨みでもある。サワードゥは、消化がしやすく、低GIで、カビが生えにくく保存が効くというメリットがたくさんある。ライ麦パンを中心に〈ライ麦ハウス ベーカリー〉で食べられるフィンランドのパンを見ていこう。


●どんなパンがある?


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・型焼きライ麦プレーン、ミューズリー/各¥450

今も昔もフィンランドでよく食べられているパン。口に含むと独特の爽やかな酸味があって香りがいい。みっちりと生地が詰まっていて食べ応えがある。ミューズリーはライ麦プレーンにオートミール、ひまわりの種を混ぜたもの。雑穀の風味と食感が増してこちらも美味。1cmほどの厚みでスライスするのがおすすめ。お店では希望の厚みでカットしてくれる。そのまま食べても、バターやチーズを載せたり、サンドイッチのようにして食べても、お好みでトーストしても◎。ライ麦100%。自家製天然酵母サワー種使用。小麦、卵、牛乳不使用。 8_20221113_fin_23.JPG


・溶岩直焼きレイカレイパ/¥650

ドーナツのように真ん中に穴が空いたパン。生地を薄くして焼くので硬く焼き上がって保存が効きやすい。昔は棒にパンの穴を引っ掛けて保存食にしていた。日本は湿気が多いので4日ほどで食べたほうがよいけれど、フィンランドでは1週間以上もつそう。区切りごとに縦に切って、さらに横に1/2で切ってバターやチーズを塗って食べる。ライ麦100%。自家製天然酵母サワー種使用。小麦、卵、牛乳不使用。 9_20221113_fin_24.JPG


・リエスカ(3枚入り)/¥330

フォッカッチャのようなややドライで柔らかい口当たり。ジャガイモの芳ばしい香りがする。横に1/2スライスしてサンドイッチのようにチーズや野菜などの具を挟んで食べるのがおすすめ。ライ麦20%、小麦80%の生地にジャガイモを混ぜたパン。卵不使用。 10_20221113_fin_26.JPG


・ペルナリンプ/¥430

縦にスライスして食事パンに。「リンプ」は、アキさんの地元ラハティではこういった丸みのあるパンを意味する。ライ麦20%、小麦80%の生地にジャガイモを混ぜたパン。卵不使用。 11_20221113_fin_25.JPG


・ヨウルリンプ/¥270

「ヨウル」はクリスマスを指していて、クリスマスシーズンによく食べられるパン。フェンネルを含んでいて香りがよく、むっちりしていてほのかに甘い。そのまま食べても、バターを塗って食べてもいい。ライ麦50%、小麦50%。 12_20221113_fin_19.JPG


・カルヤランピーラッカ/¥240

「カレリアのパイ」という意味で、もとはフィンランド南東部のカレリア地方でよく食べられていたパイ。今ではフィンランドの国民食になっている。ライ麦と小麦を混ぜた薄い生地にミルク粥が載っている。甘さはなく塩気も控えめでライ麦の風味が感じられる。現地ではそのまま食べたり、サーモンやゆで卵を載せて食べる。 13_20221113_fin_18.JPG


・シナモンロール/¥270

もっちりした生地を頬張ると、カルダモンの香りとほのかな甘味が広がる。素朴な味わいで癖になる。アイシングが載ったアメリカンスタイルのシナモンロールとは違った、フィンランドの素朴なシナモンロール。 14_20221113_fin_31.JPG


・星のタルト/¥265

小麦粉のパイ生地に手作りプルーンジャムを入れて焼き上げた。クリスマスが近づくとフィンランドでよく見かけるようになる、定番のパイ。砂糖不使用の生地にプルーンのほどよい甘酸っぱさが引き立つ。 15_20221113_fin_17.JPG


・ビルベリークリームパン/¥270

小麦、オートミールの生地にフィンランド産のビルベリーのクリームを載せたパン。ビルベリーはフィンランドでよく食べられているベリー。ブルーベリーヨーグルトのような酸味と甘さがある。アキさんのオリジナルのパン。 16_20221113_fin_28.JPG
*すべて税込価格。



●ライ麦パンの食べ方は?


酸味があってみっちりと生地が詰まったライ麦パン。よく日本で食べられている小麦パンとはまた違った味わいだけど、どうやって食べるのがいいのだろう?

アキさん:フィンランドではそのままスライスして、食事と合わせて食べることが多い。フランスやイタリアの食卓にパンが載っているのと同じような感覚です。バターやチーズを塗って食べることが多いですね。チーズはブルーチーズみたいな香りの強いものより、チェダーチーズやエダムチーズが合います。バターとチーズの上にキュウリを載せて食べるのもシンプルだけどおいしい。カフェだったらそこにサーモン、茹で卵を載せて食べることもありますね。パンに酸味があるので塩気のあるものが合うと思いますが、甘いものだったらハチミツを塗ってもいいです。

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●鎌倉でお店を開いた理由は?


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奥さんの優子さんと日本に帰国して、鎌倉でお店を開こうと思ったのは、街と自然が近いことが決め手だったそう。

アキさん:海も緑もすぐそばにあって、鎌倉はフィンランドに似ていると思ったんです。首都ヘルシンキでだいたい人口60万人、この藤沢市で40万人。東京はもっと人が多いですからね(笑)。ヘルシンキは15〜30分歩くと森にぶつかるくらい自然がすぐ側にある。私の地元のラハティという街はもっとのんびりしていて、家から高校に通うまでに10の湖を通り過ぎるような場所。小さい頃はよく森でキノコやベリーを摘んで遊んでいました。

優子さん:主人はもともとスケボーをやっていて、いまは海が近いからよくサーフィンをしていますね。それもあって鎌倉にしたんだと思います(笑)。最近は友人からテントサウナを譲ってもらって、近所の海岸でサウナをするのが楽しみになっています。

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パンをつくる工房と売り場が隣り合わせているので、アキさんや優子さんと話していくお客さんの姿も。お店には娘さんが描いた絵も。

アキさん:食はその国らしさがよく伝わる部分。フィンランドはライ麦を使ったパンが多いというのもそうだし、菓子パンは昔は貴重だったカルダモン、シナモン、フェンネルといったスパイスを使っています。寒い地域で食べ物が限られているから、食材を無駄にしないようにという工夫もある。

たとえば余ったマッシュポテトをパンの生地に混ぜて焼いたり、めでたい日には寒冷地では貴重なお米を使ってポーリッジ(お粥)をつくったりしていたんだけど、余ったらそれもパイにして焼いたり。今のフィンランドでおいしいパンに出会いたかったら街のベーカリーや都市部だとスーパーでも十分おいしいパンが買えるけど、昔は各家庭でパン生地をつくって、村の共同の窯でパンを焼いていたんですよ。

今も昔もフィンランドの食卓には欠かせないライ麦パン。しかも体にもいいなんて。フィンランドの味に出会いに、鎌倉の〈ライ麦ハウスベーカリー〉を訪ねてみてください!

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ラッパライネン・アキさんと奥さんの優子さん。



■Shop Data
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〈ライ麦ハウスベーカリー〉

住所:神奈川県鎌倉市小町2-8-23
営業:10:00〜17:30
休み:日曜、月曜
電話:0467-24-0229
Instagram:@raimugi_house
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