【58号 フィンランド特集】
へヴィメタル王国?
シャイで静寂を好む北欧人の音楽遍愛

どんな時代でもどんな場所でも、若者という存在は鬱屈と苛立ちを抱える。大人が用意した社会に馴染むように強制され、そこへの反抗心が芽生える。解消の仕方はそれぞれで、その姿勢が新しいムーブメントを生む。まさにロックンロールはそうやって生まれたのだが、いつだったか、ある北欧メタルバンドが「寒いし暗いし、地下室で音楽やるくらいしかなかったんだよね」と振り返っており、あたかも妥協案として音楽を始めたかのようなコメントに笑ってしまった。日照時間が少なく、外で遊び回れる気候ではない。閉じこもる時間が長いから、ヘヴィメタルでもやるかと決めたという述懐は大げさではないのだろう。


text=SATETSU TAKEDA, TRANSIT(caption)



フィンランドは、膨張していくヘヴィメタルの見本市。


1990年代半ばからヘヴィメタルを聴きつづけているが、その辺りから今に至るまでフィンランド、スウェーデン、ノルウェーなどの北欧諸国からは新しいバンドが豊富に生まれつづけている。長らく日本に在住している元MEGADETH(アメリカのヘヴィメタルバンド)のギタリスト、マーティ・フリードマンにインタビューした際に「演歌とヘヴィメタルには、歪んだギターが似合うという共通点がある」と述べていたが、北欧出身のメタルバンドにはメロディアスでありながら攻撃性をもつバンドが多く、日本市場との親和性が高かった。80年代から活躍するスウェーデンの速弾きギタリストのイングヴェイ・マルムスティーンは、かつてオリコンの(洋楽ではなく)総合チャートで1位を獲得したことさえある。

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©︎Mira Shemeikka

90 年代後半になると、スウェーデンからARCH ENEMYやIN FLAMESといったメロディック・デスメタルと呼ばれるジャンルのバンドが生まれる。歌詞を判別できないほどの咆哮で激しい音の渦を作り出していくデスメタルでありながら、従来のヘヴィメタルの特性でもあったギターの美旋律を混ぜ合わせるスタイルは、まず日本市場から火がついた。これらのバンドにつづくようにブレイクしたのが、フィンランドのChildren of Bodom。フロントマンのアレキシ・ライホは、いかにもマッチョな体格・風貌の多いメタルのバンドマンとは異なり、華奢な体で長髪を振り乱しながらギターを弾き、吐き捨てるように歌いつづけた。1枚選ぶとしたら2003年にリリースされた『HATE CREW DEATHROLL』だろう。

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Children of Bodom - 『HATE CREW DEATHROLL』
1993年にエスポーで学校の友人同士で結成されたChildrenof Bodomによる、2003年に発表された同バンド4作目のスタジオ・アルバム。フィンランドでアルバムチャート1位を獲得。

しかし、、どの作品でも徹頭徹尾、獰猛さのなかにポップなメロディラインを潜ませる作風に変化はない。2020年末、アレキシはわずか41歳で亡くなった。フィンランドのメタルシーンの現在と未来を支える存在が欠けてしまったのだ。

ジャンルとしてはパワーメタルやメロディック・スピードメタルとも呼ばれるHELLOWEENやBLIND GUARDIANといったドイツ出身のヘヴィメタルバンドは「ジャーマンメタル」と呼ばれてきたが、これらの音楽に影響を受けたフィンラン ドのSTRATOVARIUSはそのカテゴリのなかでも語られてきた。先日、7年ぶりの作品『SURVIVE』を出したばかりだが、本格的に日本進出を果たした1997年の『Visions』を薦めたい。

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STRATOVARIUS - 『Visions』
1984年に結成し、1989年にメジャーデビューしたパワーメタルバンド、STRATOVARIUSによるアルバム。表題作「Visions」は10分を超える大作。ヨーロッパ全土で大きな評価を得た。

ギタリストのティモ・トルキとキーボードのイェンス・ヨハンソンの緊迫感のある掛け合いが楽しめる。amorphisは、フィンランドで歌い継がれてきた民族叙事詩「カレワラ」に基づく作品を重ねてきた。攻撃性よりも哀感を重視した作風は2022年にリリースされた『HALO』で極まっている。

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amorphis - 『HALO』
1990年にデスメタルバンドとしてスタートしその後、フィンランドの民族音楽の要素をヘヴィメタルに取り入れたバンド、amorphis による、2022年2月にリリースされたアルバム。

チェリスト3名とドラマーという編成のバンドAPOCALYPTICAは、当初、METALLICAの楽曲をチェロで演奏するバンドとして話題になったが、オリジナル曲を作るようになり、多くのメタルミュージシャンとのコラボレーションを繰り返し、日本でも人気を博している。世界進出を果たした『WORLDS COLLIDE』から聴くのを薦めたい。

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APOCALYPTICA - 『WORLDS COLLIDE』
1993年にシベリウス音楽院の学生によって結成された、チェリストが主体で演奏する異色のヘヴィメタルバンド、APOCALYPTICAによる6枚目のアルバム。ゲストに布袋寅泰が参加。

変わり種としては、フォークメタルのKorpiklaani。民族音楽を基調にしながらもどこかコミカルな曲調、日本では『Spirit of the Forest』の邦題を『翔び出せ! コルピクラーニ』とし、曲のタイトルも「酒場で格闘ドンジャラホイ」「カラスと行こうよどこまでも」といったフザけたものを並べて話題となった。どこか空元気だが、ひたすら愉快なのだ。

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Korpiklaani - 『Spirit of the Forest』 ©Century Media Records
バイオリン奏者やアコーディオン奏者による、フォークメタルバンド、Korpikkaaniによる2003年にリリースされたアルバム。英語ではなくフィンランド語による楽曲も多い。

NIGHTWISHやBATTLE BEASTなど、女性ヴォーカリストを擁するバンドも増えてきている。ヘヴィメタルは、外から眺めていると単純で一緒くたに見えがちだが、フタを開けるとさまざまな音楽が多様なかたちでぶつかり合っている。フィンランドのメタルシーンは、膨張していくヘヴィメタルの見本市でありつづけているのだ。



■PROFILE
武田砂鉄(たけだ・さてつ)●1982年東京都生まれ。大学卒業後、時事問題・ノンフィクション本の編集を出版社にて担当し、その後2014年からフリーライターへ。雑誌の連載を多数もち、TBS『アシタノカレッジ』などでラジオパーソナリティーを務める。近書に『今日拾った言葉たち』(暮しの手帖社)など。

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TRANSIT58号『春夏秋冬フィンランドに恋して』

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