【58号 フィンランド特集】
フィンランド人を知る映画10選
by 森百合子さん

Cinema - 2022.12.26
保守的?それとも革新的? フィンランド人の細部を知りたいなら、映画のなかに生きる彼らに会いにいくのもひとつの手。
フィンランド人を知るための映画10作品を、4つのキーワード「Spirit」「Women」「Unknown」「Pride」をもとに選定。北欧のライフスタイルを中心に執筆活動を行う森百合子さんに選んでいただきました。

text=YURIKO MORI



#Spirit/これぞ、フィンランド人!

忍耐強い。愛想笑いをしない。お酒が好き。サウナが好き。ユーモアを愛する(笑わないけれど)。フィンランド人の印象を簡潔にあげていくとしたら、こんな表現が妥当だろうか。そうしたフィンランド人らしさを煮詰めて、詩的、寓話的に描きあげているのがアキ・カウリスマキ監督の作品だ。ヨーナス・バリヘル、ミカ・ホタカイネン監督の『サウナのあるところ』で映し出される、サウナで泣き笑いする不器用な男たちの姿もこの国らしい。

1.『愛しのタチアナ』(1994)

アキ・カウリスマキ監督
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配給:ユーロスペース

カウリスマキ作品の常連俳優マッティ・ペロンパーが演じる、無口で冴えない中年男の恋物語。カウリスマキ節が炸裂。


2.『サウナのあるところ』(2010)

ヨーナス・バリヘル、ミカ・ホタカイネン監督
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©2010 Oktober Oy.

人生の喜びも悲しみも共有し、自分と向き合う場所とは。フィンランドで1年以上もロングラン上映されたドキュメンタリー。


#Women/女性たちの連帯

ジェンダー平等が進んだ国として知られるフィンランドだが、男女の権利がまだ対等ではなかった時代から、足跡を残してきた女性たちがいる。ムーミンや〈マリメッコ〉を生み出したのも女性たちであり、昨今はその人物像を深掘りする本や映画もつづいている。かつては隠されていた部分を描き、正しく評価されてこなかった才能を再発見する試みが増えているようだ。ここで紹介している作品は女性たちの連帯についても描かれている。ムーミンも児童文学も、かわいさだけを切り取るのはもったいない。その背景にある女性たちの人生も、ぜひ併せてのぞいてほしい。

3.『TOVE/トーベ』(2020)

ザイダ・バリルート監督
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『TOVE/トーベ』発売中/豪華版Blu-ray 6,380円、豪華版DVD 5,280円、通常版DVD 4,290円/販売元:ハピネット・メディアマーケティング/発売元:クロックワークス

ムーミンの作者として認められる前のトーベ・ヤンソンを中心に描く。物語の軸となるのは運命の女性、ヴィヴィカ・バンドラーとの恋。


4.『オンネリとアンネリのおうち』(2018)

サーラ・カンテル監督
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©Zodiak Finland Oy 2014. All rights reserved.
『オンネリとアンネリのおうち』発売中/Blu-ray 5,170円、DVD 4,180円/販売元:TCエンタテインメント/発売元:アット エンタテインメント

1960年代から読まれている児童文学の映像化。居場所のない少女たちと奇妙な隣人たちとのシスターフッドの物語でもある。


5.『ファブリックの女王』(2015)

ヨールン・ドンネル監督
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©Bufo Ltd 2015

〈マリメッコ〉の創始者アルミ・ラティアの人生を劇中劇のスタイルで描く。ラティアを演じる俳優の俯瞰的視点で世相をあぶり出す。


#Unknown/じつはこんな顔、あります

「かわいい、ほっこり」イメージのフィンランドだが、そのことにいちばん驚いているのはほかならぬフィンランド人かもしれない。絶叫するヘヴィメタルや哀愁漂うタンゴを抜きにこの国は語れないし、泥臭くて垢抜けない、変な人たちもまたこの国の一面だ。『アンノウン・ソルジャー』が描く、無名の兵士たちによる孤独な戦いは、大国に翻弄されてきたフィンランド自身の姿とも重なる。独立100周年に公開された作品だが、いま観ることでこの国のおかれた厳しく複雑な環境と、生き抜いてきた彼らのしたたかさをより理解できるだろう。

6.『白夜のタンゴ』(2014)

ヴィヴィアン・ブルーメンシェイン監督
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タンゴはじつはフィンランド生まれ⁉︎そんな謎説の根拠を探るべく、アルゼンチンのミュージシャンたちがフィンランドを旅する。


7.『ヘヴィトリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル』(2018)

ユッカ・ヴィドグレン、ユーソ・ラーティオ監督
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©Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018

人口比率で世界でもっとも多くのメタルバンドを抱えるといわれる、じつはメタル大国フィンランド。フィンランドから生まれた抱腹絶倒の音楽ロードムービー。


8.『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』(2017)

アク・ロウヒミエス監督
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© ELOKUVAOSAKEYHTIÖSUOMI 2017
『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場 オリジナル・ディレクターズ・カット版』発売中・デジタル配信中/Blu-ray 5,390円、DVD 4,400円/販売元:TCエンタテインメント/発売元:彩プロ

継続戦争を描いた作家ヴァイノ・リンナによる傑作『無名戦士』の3度目の映画化。フィンランド独立100周年に公開され100万人以上を動員。


Pride/幸せの国が向き合うもの

幸せの国は一日にしてならず。寛容で多様性を重んじる現在のフィンランドに辿り着くまでの道のりも、映画や本で追うことができる。映画『トム・オブ・フィンランド』の主人公は、かつては死を意識するほどの差別を受けていた。幸せの国というと明るいイメージが先行するが、差別への戦いを振り返り、変化していく価値観を捉える批評的な眼差しこそが、この国を幸せにしているのではと思う。『オリ・マキの人生で最も幸せな日』のボクサーは寡黙ながらストレートに幸せについて問いかける。彼らの視線は、より先の世界へと向かっている。

9.『トム・オブ・フィンランド』(2017)

ドメ・カルコスキ監督
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©Helsinki-filmi Oy, 2017

フレディ・マーキュリーにも影響を与えた、世界に知られるゲイポルノアーティスト。彼が生きた時代と苛烈な人生を描く。


10.『オリ・マキの人生で最も幸せな日』(2016)

ユホ・クオスマネン監督
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©2016 Aamu Film Company Ltd
『オリ・マキの人生で最も幸せな日』発売中/DVD 4,180円/販売元:ブロードウェイ

ヌーベルバーグ的な映像美とユーモアで描く、実在したボクサーの恋。幸せが測られる時代に、幸せとは何かを改めて問う。



■PROFIILE
森百合子(もり・ゆりこ)●北欧ジャーナリスト。執筆や、講演、メディア出演、イベント企画などを通じて北欧の魅力を伝えている。近著に『日本の住まいで楽しむ 北欧インテリアのベーシック』(パイ インターナショナル)など。

映画を通して、フィンランド人の精神や誇り、女性像や知られざる一面まで、さまざまな発見がきっとあるはず。本誌では、ここで紹介している巨匠アキ・カウリスマキへのインタビューもあります。彼が語る、町と映画、人と映画の話も必読ですよ。映画と雑誌と、合わせてお楽しみください!

TRANSIT58号『春夏秋冬フィンランドに恋して』

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