「メキシコ映画」と聞いてピンとこなかった人でも、これまで観たことのある映画をつくっていたのが実はメキシコ人監督だったーーーということもあるかもしれない。
ハリウッドとの距離の近さから、世界で活躍する監督を多く輩出していたり、昔から映像製作が盛んだったメキシコ。三大監督のギレルモ・デル・トロ、アルフォンソ・クアロン、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥを筆頭に、ここでは新旧のメキシコ人監督と代表作品をみていこう!
text=MIHO NAGAYA
● Guillermo del Toro(ギレルモ・デル・トロ)
1964年生まれ。グアダラハラ出身。1990年代から米国拠点。作品の舞台はほぼ外国だが、メキシコで活躍した英国の画家レオノーラ・キャリントンをはじめ、メキシコのシュールレアリスムや民俗学の影響が色濃い。『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)でアカデミー賞作品賞、監督賞等、4冠に輝く。
©︎GuillemMedina
▶︎代表作
『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』 (2022)
|製作国:アメリカ、フランス、メキシコ/Netflix独占配信中
完成に15年をかけたストップモーション・アニメ。メキシコのチームが動画製作を担い、主人公の人形に使われた木もメキシコ産にしたという、母国愛あふれる裏話も。
©︎Netflix
● Alejandro González Iñárritu(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ)
1963年生まれ。メキシコシティ出身。LA在住。ラジオ局のディレクターや音楽ビデオ制作に従事後、愛と暴力の群像劇『アモーレス・ペロス』(2000)で映画の道へ。『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)でアカデミー賞作品賞、監督賞を含む、4つの賞を獲得した。
©︎Georges Biard
▶︎代表作
『バルド、偽りの記録と一握りの真実』 (2022)
|製作国:メキシコ/Netflix独占配信中
『アモーレス・ペロス』から約20年ぶりに故郷メキシコシティで撮影。米国で成功したメキシコ人ジャーナリストが主人公。彼の帰郷を軸に、家族や友人たちとの複雑な関係を交えたストーリーだが、監督の私小説のようにも映る。主人公の不穏な精神世界を映し出したカメラワークが秀逸。
©︎Netflix
● Alfonso Cuarón Orozco(アルフォンソ・クアロン)
1961年生まれ。メキシコシティ出身。メキシコ国立自治大学で映画を学ぶ。恋愛コメディ『Sólo con tu pareja』(1991)で映画デビュー。『ゼロ・グラビティ』 (2013)ではアカデミー賞7部門を受賞、ラテンアメリカ人として初の監督賞を獲得した。弟カルロスも映画監督で、共同製作をすることも。
©️Gage Skidmore
▶︎代表作
『ROMA/ローマ』 (2018)
|製作国:アメリカ、メキシコ/Netflix配信中
監督が幼少期を過ごした首都ローマ地区を舞台にした半自伝的作品。家族の問題や、家政婦の先住民女性に起こった不幸を乗り越えることによって生まれたつながり描く。
©︎Netflix
● Luis Buñuel(ルイス・ブニュエル)
1900年生まれ。スペイン出身。シュールレアリスム映画『アンダルシアの犬』 (1929)でデビュー。1946年、スペイン内戦時にメキシコへ亡命後、帰化。コメディやメロドラマを手がけても、挑戦的姿勢の作風を貫く。
©︎Emmanuel Radnitzky
▶︎代表作
『忘れられた人々』 (1950)
製作国:メキシコ/発売元:アイ・ヴィー・シー、Blu-ray¥5,280
犯罪に手を染めながら貧困を生き抜くメキシコシティの若者たちを主人公にした、社会派レアリスムの傑作。製作から70年以がたつが、不平等な社会の状況は変わっていない。だからこそいま観ても生々しく心に響き、世に問いかけつづける。
©︎FilmSans Frontieres
● María Novaro(マリア・ノバロ)
1951年生まれ。メキシコシティ出身。監督、脚本家、プロデューサーで、2018年より文化庁映画部門のディレクターも務める。監督作品は20作超、いずれも女性と社会に向き合い、優しい眼差しでとらえた映画だ。
©︎Itzel Gonzalez
▶︎代表作
『グッド・ハーブ』(2010)
|製作国:メキシコ/発売・販売元:TOPブックス、DVD¥5,280
メキシコシティを舞台に、リベラルなシングルマザーの娘が、病気の発覚した植物学者である母と向き合う物語。重い介護の合間に、先スペイン期から伝わる薬草のエピソードや、変わり者の登場人物たちとのあたたかな交流が幻想的に描かれる。
©︎Action Inc.
● Fernanda Valadez(フェルナンダ・バラデス)
1981年生まれ。メキシコの映画学校CCCを2010年に修。デビュー作『息子の面影』が、サンダンスをはじめ国内外の映画祭で評価される。同作の撮影の多くは、監督の出身地グアナファト州で行われた。
▶︎代表作
『息子の面影』(2020)
|製作国:メキシコ・スペイン/日本配給:イオンエンターテイメント
過疎化するメキシコの村から、出稼ぎのために米国へ向かった息子とその友人が音信不通に。彼らの行方を追い、国境へ向けて旅する母親の視点から、失踪者の増加や犯罪組織の暴力といった社会問題に迫る。詩的な映像が残酷なまでに美しい。
個性豊かなメキシコ映画監督たちと、その作品の数々を紹介しました。
メキシコ映画界から今後もどんな才能が現れるのか楽しみです!
*2023年6月時点の情報です。
TRANSIT本誌ではここで紹介したメキシコの基礎情報のみならず、マヤやアステカといった数多の古代文明の秘密、タコスやメスカルなどの魅惑の食文化、独自の死生観や信仰心が込められたフィエスタなど、メキシカンカルチャーを大特集。つづきは
こちらから!
『TRANSIT60号 メキシコ マジカルな旅をしよう!』