#NIPPONの国立公園
大山隠岐国立公園(前編)
火山の鼓動が刻まれた島

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海士町にある明屋海岸。海上にそびえ立つのは、約280万年前の噴火によってできたハート岩と呼ばれる岩だ。

島根県の北方に浮かぶ隠岐諸島。複雑な成り立ちの末にできた島々には、今でも大陸の名残や火山が噴火した痕跡をありありと感じることができます。火山、海、風、そして生きものたちが作り上げた、島の風景。ここでは、そんな大山隠岐国立公園を巡った旅を、前編「火山の鼓動が刻まれた島」、後編「火山の土地で暮らす人びとの知恵」に分けてお届けします。


「大山隠岐国立公園(後編)/火山の土地で暮らす人びとの知恵」はこちら

photography= MINA SOMA
text= YUE MOROZUMI(TRANSIT)
cooperation= OKI ISLANDS UNESCO GLOBAL GEOPARK



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海士町の高台から見晴らす島前カルデラ。

プロペラ飛行機のなかから見えた島のかたちは、 こんこんと水が湧き出る泉みたいだと思った。環状に島々が連なっていて、その内側に海が、さらに中心に山が鎮座している。そのまるく円を描くような地形が、湧き上がる水によってゆったりと波打つ水面によく似ている気がしたのだ。だが、実際は水ではなくて、灼熱のマグマが溢れんばかりに噴き出したんだっけ。持参したガイドブックを開きながら、来る前に調べたことを思い返す。

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左/真ん中に走るねずみ色の地層は、もともと堆積していた地層の隙間に溶岩が入り込んでできたもの。右/西ノ島で放牧されていた美しい馬。切り立った崖を背景に、悠々と過ごしていた。

東京から約4時間。飛行機を乗り継いでやってきた島根県・隠岐諸島は、火山活動によって誕生した島だ。隠岐を大まかに分けると、隠岐の島町がある「島後」と、西ノ島町(西ノ島)、海士町(中ノ島)、知夫村(知夫里島)からなる「島前」から構成されている。とくに島前は、内海を囲むように島々が位置しており、これは噴火によってできた凹地であるカルデラのかたちそのもの。

隠岐にはカルデラをはじめ、火山活動や地殻変動の謎を解明するうえで重要なスポットが多くあるとされている。そのため、国立公園として指定さるのみならず、優れた地質的資源をもつ地域としてユネスコ世界ジオパークにも認定されているのだ。そんな地球の営みが残した大地の姿を確かめに、まずは4島のうちの1つ、西ノ島へ向かった。


日本海の浸食が作り出した、自然の造形。


道を降りていくと、波の音が少しずつ聞こえてくる。波が寄せるゆったりとした音と、壁にぶつかって水しぶきが跳ねる、軽やかな音。西ノ島のフェリーターミナルから車を走らせること15分、見晴らしのよい丘に車を止め、海上にある通天橋へと続く遊歩道を歩いていた。

通天橋は、西ノ島北西部の海岸沿いにある、巨大な奇岩。空港で出会った女性に、「隠岐が誇るダイナミックな地形が見られる場所ですよ」とすすめられ、まずはこの通天橋を訪れてみることにしたのだ。勾配の急な遊歩道を抜けると、足下は草地へと変わってゆく。波の音がさっきより大きく聞こえてくる気がして顔を上げると、視線の先に大胆にせり出した架け橋が見えた。天空へとつながっているかのような美しいアーチを描く通天橋は、岩石が日本海の厳しい海風にさらされ、その浸食作用によってできた天然の彫刻だ。

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知夫村にある赤壁。マグマがしぶき状になって噴出し、空気中で冷え固まるときに酸化したため赤い色になった。

今でも通天橋は波風による浸食を受けており、時々岩が崩落してくるんです。50年前まではアーチの中を船がくぐることができたのに、今は落ちてきた岩が積み重なって水深が浅くなり、船が通るのは難しくなりました」。通天橋は今も少しずつ、そのかたちを変えているのだと、ガイドさんは話す。

通天橋の周囲にはごつごつとした岩石がいくつも海上に顔を出しているが、これらもかつて島の一部であった岩々が、浸食や崩落によって離れ岩となったのだという。今立っている場所も、もしかしたら崩落するのかもしれない。そう思うと、自分の重みすら崩落に影響してしまいそうで恐ろしくなり、一刻も早くその場を立ち去りたい気持ちになる。そんな思いとはうらはらに、眼前に広がる雄大な景色から、目を離せずにいた。

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荒々しい岩と、ブルーに透き通った海のコントラストが美しい。

その風景を見ていると、切り立った岩間に透き通るエメラルドブルーの海が見えたり、崖の上に草原が広がっていたり__その姿は、日本というよりヨーロッパの海岸や高原みたいだな、と感じる。そう話すと、ガイドさんは「初めて隠岐に来る方は、外国に来たみたい、なんて感想をもつ人も多いんですよ」と教えてくれた。このちょっと独特な隠岐の景色は、隠岐の複雑な成り立ちに由来しているのだという。

大昔、ユーラシア大陸の一部だった隠岐は、日本列島とともに大陸から離れると、本州とくっついたり離れたりを繰り返していた。その間に、火山による噴火が起こり、日本海の波風による浸食を受け......とさまざまな自然現象が組み合わさった。そのため、通天橋のように不思議でダイナミックな景観ができあがったのだ。

「大山隠岐国立公園(後編)/火山の土地で暮らす人びとの知恵」はこちら

本記事はTRANSIT56号より再編集してお届けしました。

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