入山杏奈の移住体験談 vol.2
メキシコ移住を決めた理由
「みえない道のほうがおもしろい」

まさかメキシコで暮らすことになるとはーーー。AKBとしてアイドル街道をひた走るなか、 あるとき仕事をきっかけにメキシコ行きを決めた入山杏奈さん。今では「ラテンの血が流れているのかも!」と笑う彼女に訊いた、メキシコ移住のススメ。

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photography=MASAFUMI SANAI
text= MAKI TSUGA(TRANSIT)





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近所の人で賑わうタコス屋さん〈Tacos Hola El Güero〉で。

―――知り合いがいるわけでもなく、語学ができるわけでもなく、突然メキシコに暮らし始めて、正直なところ「日本に帰りたい......」と思ったことは?

入山:それがまったくなかったんですよ! メキシコだったからかもしれません。人が優しくて、寂しいって思うことがなかったです。

―――ドラマの現場の人たちとの人間関係はどうでしたか?

入山:みんないつも気遣ってくれて、撮影が終わったら全然スペイン語がしゃべれないときから「ご飯行こうよ」って誘ってくれたし。ここでは挨拶がハグなので、人の温もりをつねに感じていたから寂しさを感じなかったのもあります。

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「Chorizo con Papa(チョリソーとジャガイモのタコス)」をスペイン語でオーダー。

―――スペイン語を勉強するコツは?

入山:とにかくしゃべること。インプットも大事だけど、アウトプットをすると早く覚えられる気がします。共演者の子たちが話しているのを聞いて、よく出てくる単語があるなと思ったら辞書で調べて自分でも使うとか。あとは家でもずっとスペイン語を聞いていました。音楽を聴くのも、ドラマを観るにもスペイン語で。最初の数カ月は日本の人ともほとんど連絡をとらずに、スペイン語まみれの生活をしていました。

実は、スペイン語を話せるようになった大きなきっかけがあるんです。メキシコのドラマで日本ロケがあって、最初は通訳をつけて日本をめぐるはずだったのに、急遽、通訳さんが来れなくなってしまって。「それならアンナが日本をガイドしてくれればいいじゃん!」という流れになって、ドラマの仲間たちを案内することになったんです。そこで日本の街の説明をしたり、食べ物の説明をしたり、スペイン語を話さざるをえなくて......。それまではスペイン語は聞き取るばかりだったんですが、そのときになってはじめて、意外とスペイン語が話せるようになっていたことに気がついたんですよね。

つい最近までメキシコ国立自治大学に行って勉強していました。日常生活に困らないくらいはスペイン語が話せるようになったんですが、このあたりで一度学校で学び直すのもいいかなと思って。大人になってから宿題のレポートに追われていて、大変だけどおもしろいですね。

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タコスを食べる姿まで美しい......!「手で口に持ってこうとするよりも、手に持ったタコスの位置は固定で、自分がタコスに向かっていくようにかぶりつくと、具をこぼしにくいんです。メキシコの友だちに教わりました(笑)」


移住して困ったことは......ない!?


―――単身でメキシコに来て、苦労したことはありましたか?

入山:それが、思い当たらないんですよね。ないわけないと思うんですが(笑)。メキシコで暮らすために準備したことはほとんどありませんが、周りの友人からは脅されていました。「高い腕時計を身につけていたら、腕ごともっていかれる」とか「ミニスカートをはいていたら娼婦に間違えられるから、露出は控えないとダメだよ」とか。実際に住んでみると、自分で注意しているというのもありますが、危険な目に遭ったことは1回もありません。

―――メキシコのいろんな場所を訪れていると思いますが、魅力的な街を5つ挙げるとしたらどこですか?

入山:「オアハカ」がすっごい好きです。あと「チアパス」。この2つはオーセンティックなメキシコがある。昔ながらの生活がまだあって「想像していたメキシコがそこにあった」という印象を受けるんじゃないかな。私はメキシコに来るとき、飛行機のなかで映画『リメンバー・ミー』を観たんですよ。あの映画の世界が目の前にあるという感じ。

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オアハカのモンテアルパン遺跡からオアハカを見下ろして。 ©ANNA IRIYAMA

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チアパスのスミデロ峡谷で。「人生で初めて『神様、この世に産み落としてくれてありがとう』と本気で思った場所!」(入山)。 ©ANNA IRIYAMA

あとは「カンクン」。メキシコが誇るビーチです。人生で一番きれいな海がカンクン。あまりふだんは泳ぐほうではないんですが、そこにいくと泳ぎます(笑)。あとはカンクンにはセノーテっていう泉があるので、ビーチもセノーテも両方ぜひ訪れてほしいです。

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仕事でカンクンのビーチを訪れたときの写真。 ©ANNA IRIYAMA

―――セノーテは隕石の痕跡だといわれていますよね。恐竜が絶滅するほどの小惑星ぐらいの隕石がメキシコのユカタン半島に落ちたとか......。メキシコって宇宙に近い場所のような気がしてきますよね。

入山:そうなんですか?初めて聞きました! たしかにメキシコでは宇宙人がよく見られてるから、そうかもしれないです(笑)。

あとはバハ・カリフォルニア半島にある、「エンセナダ」という街もすごく好きです。ワインも造られていて、シーフードがおいしかったり。

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エンセナーダの〈ラ・ゲレレンセ〉という有名なトスターダ屋さんのお母さんと。 ©ANNA IRIYAMA

あと1つは......やっぱり「メキシコシティ」ですね! 最初に住んだ場所で、いまもここに住んでいるので思い入れがあります。アンバランスな感じが好きなんですよね。都会になりきれていない都会というか。 ラテンアメリカでは一番大きな都市だけど、まだ路上で働いている人がいたり、信号待ちで大道芸をやる人がいたり、ストリートフードがおいしかったりとか。そういうところがすごく好きでいつまでも残っていてほしい。

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公園のスタンドでマンゴーを購入。20ペソ。「4、5月が旬なんですよ。地方に行くともっと安い」

―――メキシコの空気が肌にあっていそうですね。

入山:そうかもしれません。(サボテンを車の上に陳列する街角のおじさんを見て)あぁいうのも本当に好きなんですよね。愛しくないですか、メキシコって。ここにいると「できないことなんてない」って思えてくるんですよね。私はすごく完璧主義だったから、「やるなら100点取らなきゃ」みたいな気持ちだったのが、メキシコの人たちはあまり100点を求めないというか、「やろうとする気持ちが大事」くらいの考え方に変わりました。

私、メキシコ人の血が流れているんじゃないかとか、前世はメキシコ人だったんじゃないかなと思うくらい、メキシコの空気は居心地がよくて、楽なんですよね。みんなおおらかで、良くも悪くも堅苦しさがないところがいい。人との距離が近くて、初めて会った人ともすぐ友だちになれるんです。

きちんと言語化したことはないんですが、私は日本にいるときになんとなく違和感を抱いていたことがありました。たとえば、なんで人と仲よくなるのにこんなに時間かかるんだろうとか、私は結構ボディタッチをするほうで友だちにもすぐハグしたくなるけど、日本でいきなり人にハグをしたら、おかしいと思われてしまうとか。「近づきたいけど近づけない」ような感じがあったんです、ずっと。それがメキシコだと友だちとすぐハグできる。「これだ、私の求めていたものは!」という感じがありました。

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街角の花屋さんが車の上に鉢植えを並べているのを発見。車に乗せてもらって撮影。

―――日本で築いたものもあるなかで、その土地を離れるのは大きな決断だったかと思います。最後に海外移住を考えている人に向けてアドバイスをください。

入山:一歩踏み出すことって大事。私の場合は、自分の人生が止まっているように感じた時期があったんです。

たとえばアイドルとしてセンターになりたいという夢もなかったし、自分のなかで先がみえるような気がして。「ここで海外に行くのもありだな、先がみえない道のほうがおもしろいかもしれない」そんな気持ちだったんですよね。だからメキシコに来たら、恥ずかしいと思わずなんでも試して、当たって砕けようと思ってました。

海外に住みはじめたら、趣味をつくって外に出るのもいいと思います。仕事のコミュニティだけじゃなくて、地元の人と出会う機会が増えて刺激的だし、いろんな人とかかわることで人間として成長できる気がするから。ぜひ街に一歩踏み出してみてください!

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■PROFILE
入山杏奈(いりやま・あんな)●千葉生まれ。AKB48として活躍する最中、メキシコのTVドラマ『Like, La Leyenda』に出演するため、2018年に渡墨。2022年に AKBを卒業。現在はメキシコを拠点に活動。『ラジオまいにちスペイン語』(NHK)などに出演。

Instagram:@iamannairiyama
YouTube:@Annalamexicana

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TRANSIT本誌では、入山杏奈さんのメキシコ移住体験のほかにも、古代文明、食文化、アートといった、さまざまなメキシコを紹介しています。エネルギー渦巻くメキシコを知りたい方はこちら!

『TRANSIT60号 メキシコ マジカルな旅をしよう!』


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