パリの独壇場だったファッション業界に革命を起こし、世界を魅了したイタリアのファッション(モーダ・イタリアーナ)。
その歩みを見ていこう。
text=AKIO LORENZO OYA
◆1950年代
映画をきっかけに注目を集める。
左/サンダルにおけるクリエイティビティの領域を広げた〈フェラガモ〉の靴。1953年。
右/〈エミリオ・プッチ〉のスーツ。あえて平面的に見えるところが特色。
イタリアン・ファッションが幸運をつかんだきっかけのひとつは、ローマのチネチッタで作られる映画だった。サルト(仕立て職人)たちが手がけた衣装がスクリーンを通じて世界の人びとの目にとまったのだ。ヴァカンスに訪れた際、イタリア人デザイナーのセンスに魅了された米国のセレブリティらによって、広く紹介されたことも追い風に。スキー選手から転身したエミリオ・プッチ、靴職人から身を起こしたサルヴァトーレ・フェラガモなどは、多くのセレブリティ御用達となった。当時ファッションの中心地はフィレンツェ。1951年に開かれたイタリアで初のファッションショーも、中心部にあるトリジャーニ宮で開催された。
◆1960〜70年代
「プレタポルテ」がイタリアン・ファッション隆盛の追い風に。
左/ジャンニ・ヴェルサーチの仕事から。1978年撮影。ジャンフランコ・フェレ、ジョルジオ・アルマーニとともに「ミラノの3G」と呼ばれた。
中/70年代、モーダの舞台はミラノへ。同時にカジュアル志向に火がついた。
右/アルビーニの仕事は、プレタポルテの新たな世界を拓いた。1972年。
経済復興とベビーブーマーの台頭は、一般人のファッションへの関心を促した。そうしたなか、主役はアルタモーダ(オートクチュール)から、プレタポルテ(高級既製服)へと移ってゆく。その旗手はウォルター・アルビーニ。〈クリツィア〉のデザイナーも経験した彼は、イタリア各地の優れた工房に着目し、それまでフランス系ブランドの服を作っていた職人に生産を依頼。下請けから脱皮する原動力を与えた。1970年代になると、モードの中心地は商業都市ミラノへ。この時期、〈フィオルッチ〉が同地のショップで展開したTシャツや"セイフティ・ジーンズ" と名づけられたボトムスは、当時のカジュアル志向を象徴するひとつだ。
◆1980年代〜90年代
新しい発想を取り入れるイタリアン・ブランド。
左/〈モスキーノ〉による94年春夏。創業者の没後クリエイティブ・ディレクターとなったR.ジャルディーニの時代である。
中/まずバッグで知名度を獲得した〈プラダ〉は80年代末、アパレルに進出した。93~94年秋冬コレクションから。
右/〈ジョルジオ・アルマーニ〉のスーツは、紳士服の世界に革命を起こした。 1981年。
80~90年代を一言で表すなら"ボーダーレス"だ。〈ジョルジオ・アルマーニ〉は婦人向けのソフトな生地を使ってメンズ用スーツを製作し一世を風靡。同時に男性的なフォルムのジャケットをレディスに投入した。さらなる革新的な試みとしては、〈ミッソーニ〉がジャケットのような質感のカーディガンを生みニットの可能性を開拓。〈クリツィア〉はエスニックなカラーリングを強調した。また、〈ヴェルサーチ〉はメタリックな素材使いを取り入れた。90年代になると、〈モスキーノ〉が60年代の反戦運動で使われたピースマークや、あえてStop the fashion systemのスローガンを用いるなど、過激ともいえるテーマで注目を集めた。
◆2000年代以降
グローバルからグローカルへ。
左/〈ブルネロ クチネリ〉の2024年春夏は、ブルゾンなどを通じて70年代のイメージを再現した。
中/1964年に創業した工房をルーツとする、〈トンボリーニ〉。2022年春夏の「ゼロ・グラヴィティ」は、その軽量性で注目を集めている。
右/〈ボッテガ・ヴェネタ〉22~23年秋冬コレクションより。同ブランドはイタリアをはじめ世界の工房を支援する活動も行う。
ファストファッションの台頭は危機と思われたが、逆に高品質・高付加価値へのシフトを促した。同時に、アヴァンギャルドだった80~90年代と対照的にレガシーを再評価し、デザインに反映する動きも盛んに。加えて、世界的ブランドがあえて故郷を強調するムーブメントも生まれた。〈ブルネロ クチネリ〉は、妻の故郷ソロメオ村に本社を置き、高級カシミヤ衣料で村の雇用や経済復興にも貢献。グローバル+ローカル=グローカルを実現し、共感する顧客との絆を強固にした。かくもモーダ・イタリアーナの成功は、ときに時代の波に乗り、ときに疑問を投げかけ、ときには歴史を振り返る、変幻自在というべき才能に裏づけられてきたのだ。
TRANSIT本誌では、ここで紹介したイタリアのファッション以外にもロマンあふれるイタリアの風景や歴史をお届けしています。イタリアが大好きな人はもちろん、そうでない人もイタリアに行きたくなること間違いなし!な一冊です。ぜひ読んでみてください。