約70点の展示品からローマの歴史と芸術を学ぶ
『永遠の都ローマ展』〜12/10(日)
@東京都美術館

12月10日(日)まで東京都美術館にて開催されている『永遠の都ローマ展』。カピトリーノ美術館の所蔵品を中心に、建国から古代の栄光、教皇たちの時代から近代まで、約70点の彫刻、絵画、版画等を通じて、「永遠の都」と称されるローマの歴史と芸術を感じられる展示です。

20231117_Roma_1.jpg

1月5日(金)からは福岡市美術館にて開催される本展。イタリアの歴史とともに、その一部をご紹介します。



1.ローマの夜明け《カピトリーノの牝狼》

20231117_Roma_2.jpg

《カピトリーノの牝狼(複製)》
ローマ市庁舎蔵 ©Roma, Sovrintendenza Capitolina ai Beni Culturali / Archivio Fotografico dei Musei Capitolini

まずはローマ建国神話にまつわる作品を。

紀元前753年、狼に育てられたとされる双子の兄弟ロムルスとレムスの兄ロムルスが、エトルリアの植民地下にあったパラティーノの丘に都市国家ローマを建国します。国家体制が整ったローマは南イタリアのタレントゥムを制圧し、イタリア半島を統一しました。

ローマ建国神話は、ウェルギリウスの叙事詩 『アエネイス』 のなかで、ギリシアのトロイアを脱出し、苦難の末にイタリアに上陸したアイネイアスの子孫たちの歴史として語られており、軍神マルスと巫女レア・シルウィアの間に生まれた双子を育てる牝狼の物語はもっとも有名なエピソードです。

煌びやかな古代ローマに思いを馳せたのでしょうか。さまざまな時代の芸術家がこの神話にまつわる作品を世に残したといいます。


2.帝政ローマの時代

20231117_Roma_3.jpg
《イシスとして表わされたプトレマイオス朝皇妃の頭部》
前1世紀-後1世紀 バロス島産大理石
カピトリーノ美術館分館 モンテマルティーニ美術館蔵
©Roma, Sovrintendenza Capitolina ai Beni Culturali / Archivio Fotografico dei Musei Capitolini

イタリア半島を統一し、地中海を手に入れたローマは、ルキウス・ユニウス・ブルートゥスによって共和政へと移行します。しかし、領土拡大につれ、多くの奴隷と安価な作物が流入したことで中小農民が没落。国力は低下し、奴隷もたびたび反乱を起こしてローマ社会は存続の危機に陥ります。そこで登場したのが、英雄ユリウス・カエサル。彼は数々の内乱を平定し、帝政への下地を作りました。その遺志はオクタヴィアヌスによって引き継がれ、自身が初代皇帝アウグストゥスになって帝政ローマ時代が幕を開けます。

本展では歴代ローマ皇帝の肖像をはじめ、ローマ帝国ゆかりの女性たちの肖像など、それぞれの「時代の顔」を通じて栄光の時代をたどることができます。写真の頭部は、共和政ローマ末期、アクティウムの海戦に敗れたエジプト・プトレマイオス王朝最後の女王クレオパトラ。紀元前30年、彼女は毒蛇のコブラに自身をかませて自殺したとされています。


3.ルネサンスの誕生 

20231117_Roma_4.jpg
エティエンヌ・デュペラック《カンピドリオ広場の眺め》
1569年 エッチング
ローマ美術館蔵
©Roma, Sovrintendenza Capitolina ai Beni Culturali / Archivio Fotografico del Museo di Roma

1471年、時の教皇シクストゥス4世は、教皇宮殿前に置かれていた《カピトリーノの牝狼》や《コンスタンティヌス帝の巨像》を含む古代ブロンズ彫刻4点を、ローマ市民に返還するという名目で寄贈し、カピトリーノの丘の中庭に設置しました。 これが現在のカピトリーノ美術館コレクションの前身です。

20231117_Roma_5.jpg
トスカーナの画家(16世紀)《ミケランジェロ・ブオナローティの肖像画》
1535年以降 油彩、板
カピトリーノ美術館 絵画館蔵
©Roma, Sovrintendenza Capitolina ai Beni Culturali / Archivio Fotografico dei Musei Capitolini

この時期、詩人ペトラルカらによって、自由な人間性の回復と古代思想の復活を謳う人文主義思想がもたらされ、人びとは教会中心の思想から自由になっていきました。ルネサンスの誕生です。ルネサンスは15世紀に最盛期を迎え、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジャロ、ラファエロなどの巨匠を輩出します。

ミケランジェロは、16世紀にカピトリーノの丘の頂にカンピドリオ広場を建設するプロジェクトを手がけたことでも有名です。本展では、ミケランジェロの都市計画についても絵画、版画等を通して知ることができます。


4.公共美術館の先駆け「カピトリーノ美術館」のはじまり

20231117_Roma_6.jpg
ドメニコ・ティントレット《キリストの鞭打ち》
1590年代 油彩、カンヴァス
カピトリーノ美術館 絵画館蔵
©Roma, Sovrintendenza Capitolina ai Beni Culturali / Archivio Fotografico dei Musei Capitolini

1734年、教皇クレメンス12世により一般公開され、公共美術館としての歩みを始めたカピトリーノ美術館。教皇のコレクションを核に設立されたあと、1748年から1750年にかけて、教皇ベネディクトゥス14世の尽力により、サッケッティ家とピオ・ディ・サヴォイア家というイタリア名家旧蔵の絵画コレクションが収集されました。

当時の芸術のパトロンたちがどのような絵画を好み、収集していたのか。貴重なコレクションから当時の画題や表現について知ることができる展示となっています。


5.ナポレオンを虜にした《カピトリーノのヴィーナス》

20231117_Roma_7.jpg
《カピトリーノのヴィーナス》(右下は部分)
2世紀 大理石 カピトリーノ美術館蔵 ©Roma, Sovrintendenza Capitolina ai Beni Culturali / Archivio Fotografico dei Musei Capitolini ※東京会場限定展示

そして本展の目玉はこちら。かのナポレオンをも虜にしたといわれる古代ヴィーナス像の傑作《カピトリーノのヴィーナス》です。古代ギリシャの偉大な彫刻家、プラクシテレスの女神像(前4世紀)に基づく2世紀の作品で、典型的な恥じらいのポーズをとっています。ミロのヴィーナス、メディチのヴィーナスに並ぶヴィーナス像として知られている本作品は、カピトリーノ美術館以外では滅多に見ることができない門外不出の彫刻像。 同館の外に持ち出されること自体1752年以来で3回目のことで、本展が記念すべき初来日となりました。東京展のみの展示となりますが、ぜひこの機会に会いに行っていただきたい作品の一つです。

永遠の都で生み出された壮大なる美の歴史を感じられる本展。特設ショップでは古代ローマの温泉にちなみ、かわいいサウナハットやグッズを購入することができます。上野公園の紅葉を楽しみつつ、美術館にも足を運んでみてはいかがでしょう。東京展は土日・祝日のみ日時指定の予約制となるのでご注意ください。

TRANSIT最新号『いつだってイタリアが好き!』では、古代ローマから近代に至るまでイタリアの歴史について漫画で楽しく解説しています。展覧会でも本誌でも、イタリアの美と歴史の世界を堪能してみてくださいね。
INFORMATION

『永遠のローマ展』

会場・日程 : 東京都美術館 2023年9月16日(土)~12月10日(日)
開室時間 : 9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
休室日 : 月曜日、9月19日(火)、10月10日(火)
※ただし、9月18日(月・祝)、10月9日(月・祝)は開室
主催 : 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、 毎日新聞社、NHK、NHKプロモーション
共催 : ローマ市、ローマ市文化政策局、ローマ市文化財監督局
後援 : 駐日イタリア大使館
展覧会公式ホームページ : https://roma2023-24.jp
巡回展 : 福岡市美術館 2024年1月5日(金)~ 3月10日(日)

See Also

20231102_Matera_Abiko.jpg

私のイタリア原風景by 写真家・安彦幸枝さん断崖絶壁の上に佇む村 ...

20231013アルタムーラ道.jpg

絶品パンに新鮮な魚料理珠玉のグルメを味わう南イタリアの小さな村巡り

20231004_T61_pasta_20.jpg

団子形、蕎麦粉、クレープ状......その数500種類以上!イタリ...

ItarianComic20231020.jpg

イタリア・コミックの魅力を語るトークイベント開催@青山ブックセンタ...