日本とアゼルバイジャンの間に結ばれている、意外な架け橋。それは昨今、世界で流行をみせている総合格闘技の舞台だった。2023年7月には日本で、11月にはアゼルバイジャンで大会が行われ、繰り広げられた両国選手たちの熱い戦いは、人びとを熱狂させた。
photography&text=KENJI SATO
左からトフィック・ムサエフ選手、トゥラル・ラギモフ選手、ヴガール・ケラモフ選手、メイマン・マメドフ選手。
バクー旧市街に集まってくれた4人のアゼルバイジャン選手たち。全員、日本のRIZINに出場経験がある。とくにケラモフ選手とムサエフ選手はRIZINでベルトも獲得しておりその勇猛な戦いぶりから日本にもファンが多い。
―――それぞれ皆さんの出身地と、どんなきっかけで格闘技をはじめたか教えてください。
トフィック・ムサエフ選手(以下T):僕はバクー出身で、子どもの頃からいろんなスポーツをやってきた。最初は空手で、そのあとはボクシング。大学を卒業する頃に今のMMA(Mixed Martial Arts/総合格闘技)をはじめたんだ。
ヴガール・ケラモフ選手(以下K):僕はバクーから200kmくらい離れたハチマス県。子どもの頃からとにかく喧嘩ばかりやってた(笑)。ちゃんと格闘技をはじめたのは9歳の頃かな。
メイマン・マメドフ選手(以下M):僕も9歳からかな。でも僕はヴガールみたいな手に負えない子じゃなかったと思うよ(笑)
―――アゼルバイジャンでは子どもがスポーツとして格闘技をはじめるのは一般的なことなんですか?
M:僕たちが子どもの頃はそこまで一般的じゃなかった。でも最近は人気がでてきて、スポーツとしてはじめる子も増えてきているね。
―――日本では今年、RIZIN(日本の総合格闘技団体)という舞台でアゼルバイジャンの選手たちが席巻しましたが、日本を訪れてみての感想はいかがですか。
T:2018年に初めて日本に行って、それからもう7、8回は行ってるよ。2019年にRIZINでライト級王座になって一気に有名になったと思う。だから日本人は多分アゼルバイジャン人よりも、僕たちのことをよく知っているかもしれない(笑)。空港からホテルに行くまでの間もサインを求められたりするし。日本人は選手のことをすごくよく理解してサポートしてくれるし、リスペクトもしてくれる。だから僕も日本のことは大好きだし、実はキャリアの最後は日本で試合をしたいと思っているんだ。
K:僕ももう6回くらい日本に行っていて、いつもとてもいい影響を受けている。自分たちが今みたいに活動できているのは日本のおかげだと思う。日本で試合をしてからアゼルバイジャンでも知られるようになったからね。自分が子どもの頃はお父さんが格闘技の番組ばかり見ていた。でもUFC(米国の総合格闘技団体)はまだその頃なくて、日本の格闘技イベントなんかも見ていた。お父さんにいつかこういう舞台におまえも出られたらいいな、と言われていて、今その夢が叶っていることが信じられないよ。
まるで大学生のように仲が良い4人。インタビュー中もお互いの発言をいじり合い、終始笑いが絶えなかった。
―――アゼルバイジャンの選手はよく日本人やほかの国の選手たちと比べると、もともと体幹が強いといわれています。それはなぜだと思いますか。
K:それはよく言われることだけど、多分、理由は二つある。まず、体の強さは先祖から受け継いだものだと思う。もう一つは僕は田舎の出身で、子どもの頃はいつも厳しい自然のなかで遊んでいた。そういう環境で育ったことが大きいんじゃないかな。
―――アゼルバイジャンでは格闘技が国技のように扱われ、政府が大きなサポートをしているという話を聞きました。たとえば先日のRIZINの前には国のサポートのもと、アメリカ遠征合宿が行われたそうですね。
トゥラル・ラギモフ選手(以下R):国のスポーツ省にサポートしてもらって、合宿には行ったよ。でも僕たちのやっているMMAはオリンピック競技ではないから、まだそこまで国からの支援はないのが現実だね。オリンピック競技になると大きなサポートがつくんだけどね。
T:たとえば日本では格闘技の選手にスポンサーがつくからそれで生活や練習ができると思う。自分が知っている話では、日本ではスポーツ選手へのスポンサーが(税制上)広告費の扱いになるから、多くの企業が出資しやすい環境が整っていると聞いた。だけどアゼルバイジャンではまだそういうシステムがないから、企業が僕たちのような選手をスポンサードするという仕組みはほとんどない。
―――アゼルバイジャンではスポーツ全体で格闘技はどのくらい人気があるんですか。
K:MMA以外の空手とかボクシングのような格闘技ではアゼルバイジャンの選手は結構有名で、旧ソ連の国々では人気があるね。
M:最近はアゼルバイジャンでもMMAは人気が出てきているよ。今の世界の流行をみていると、アゼルバイジャンでもこれからもっと盛り上がっていけば、支援の体制も整っていくと思うけどね。
―――最後に、みなさんのおすすめのアゼルバイジャンのスポットや文化を教えてください。
R:アゼルバイジャンはヨーロッパとアジアの中間で、だからこそ国のなかにどちらの要素ももっている。それはバクーを見てもわかると思う。あとアゼルバイジャン人は、日本人と同じで旅人をもてなす文化がある。自然も豊富だし、料理もおいしいからぜひ試してほしいな。
T:アゼルバイジャンには歴史的な場所がたくさんある。地方によって料理もさまざまだし、芸術も深い歴史があるし、ムガムという伝統的な音楽なんかも素敵だと思う。
K:僕は地方がおもしろいと思う。地方に行けばまだタンドリーでパンを焼いたり、チャイをつくったり、伝統的な習慣や生活が残っている。僕は(キナルグ村の近くの)グリーズという村の出身なんだけど、あのあたりは自然が美しいし、僕がどういう環境で育ってきたかがわかると思うよ。
M:バクーならやっぱり旧市街かな。バクーは新しい街でとても発展しているけど、ここにはバクーのもともとの文化や街の姿がまだ残っているから、ぜひ訪れてみてほしい。
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バクー旧市街 ©︎Francisco Anzola
PROFILE
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トフィック・ムサエフ(Tofiq Musayev)●ロシアや中国の大会で勝ち星をあげ、19年、日本のRIZINでライト級王座獲得。現在は同国選手として唯一、米国のベラトールとも契約している。
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トゥラル・ラギモフ(Tural Ragimov)●空手やコマンドサンボを体得し、数々のアマチュア大会で勝利。11月にはアゼルバイジャンで行われたRIZINにも出場したが、惜しくも敗退。
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ヴガール・ケラモフ(Vugar Karamov)●ロシアでプロデビュー。22年にはRIZINで衝撃的な一本勝ちを上げてフェザー級王座を獲得。23年11月に防衛に失敗し、王座再挑戦が期待される。
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メイマン・マメドフ(Mehman Mamedov)●中央アジアやアゼルバイジャンの大会で活躍。22年にRIZINに初出場。23年も来日してTKO勝利、アゼルバイジャン大会では判定勝利を収めた。
アゼルバイジャンの格闘家たちのインタビューの完全版は、TRANSIT62号本誌をご覧ください。
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