2024年3月に発売した
『TRANSIT 63号 熱狂アジアの秘境へ』では、経済もカルチャーも成長目覚ましいインドネシア・マレーシア・シンガポールの熱を伝えています。そのカルチャー企画のなかでもとくに注目していたのが、女性映画監督たちの活躍ぶり。
2023年に映画『タイガー・ストライプス』でカンヌ国際映画祭の批評家週間グランプリを受賞した1985年生まれ・マレーシア出身のアマンダ・ネル・ユー監督や、2023年東京国際映画祭黒澤明賞を受賞した1980年生まれ・インドネシア出身のモーリー・スリヤ監督など、若い才能が次々と生まれています。
『タレンタイム〜優しい歌』より
そんな女性監督たちに先駆けて2000年代に世界から注目を集めていたのが、"マレーシア映画の母"ともよばれるヤスミン・アフマド監督でした。
2003年に『ラブン』で映画監督デビュー。その後、実妹と同じ名前でヤスミン自身を投影した主人公オーキッドが登場する三部作、『細い目』(2004年)、『グブラ』(2005年)、『ムクシン』(2006年)を発表。国内外の映画賞を次々と受賞します。
ヤスミン・アフマド監督(1958-2009)
2009年7月25日、ヤスミン監督は『タレンタイム〜優しい歌』の公開直後に脳出血により亡くなりました。日本人の祖母をもつ自身のルーツをたどる作品の製作途中だったといわれています。映画監督としての活動期間は6年、長編作品は6作と、これからの活躍に期待されていたなかでの突然の出来事でした。
2009年にヤスミン・アフマド監督が51歳の若さで急逝してから15年。今なお色褪せないヤスミンの作品が、2024年7月20日からシアター・イメージフォーラムを皮切りに日本全国で上映されます。
『タレンタイム〜優しい歌』より
ヤスミン監督の6つの長編作品に共通するのは、いずれも多民族国家マレーシアを映しだしていること。マレー語・中国語・タミル語など言語も複数使われ、民族や宗教が異なる人びとが登場します。さまざまな人びとが混在する世界をそのまま肯定し、民族や宗教の壁を越えたつながりを描きだしてきました。彼女の作品が、社会の複雑さを扱っていながらも心に届くやさしい光をもっているのは、チャールズ・チャップリンの映画『街の灯』に影響を受けているためともいわれています。
今回のヤスミン・アフマド没後15年記念上映では、そのなかでも代表作『タレンタイム〜優しい歌』と『細い目』の二作品が上映されます。
© Primeworks Studios Sdn Bhd
『タレンタイム〜優しい歌』(2009年)
監督・脚本|ヤスミン・アフマド
配給|ムヴィオラ
ピアノの上手なムルーは、耳の聞こえないマヘシュと恋に落ちる。二胡を演奏する優等生カーホウはギターがうまい転入生ハフィズに嫉妬する。たくさんの民族が暮らす街で、音楽コンクール"タレンタイム"に挑戦する高校生たちのかけがえのない青春とその家族を描く。
笑いあり涙あり、人々の心に希望をもたらす温かい作品ながら、その背景には民族や宗教の違いによる葛藤を通して、多民族国家であるマレーシア社会の複雑さを映し出す。青春をとりまく様々な葛藤、そして成長を美しい音楽とともに描き、マレーシア社会のこれからをやさしく見つめています。
マレーシア・アカデミー賞最優秀監督賞含む主要4賞を獲得した作品。シネマニラ国際映画祭においても最優秀東南アジア映画賞を受賞。
『細い目』(2004年)
監督・脚本|ヤスミン・アフマド
配給|ムヴィオラ
遺作『タレンタイム〜優しい歌』が伝説と呼ばれるなか、ヤスミン監督のもうひとつの傑作となるのが『細い目』。監督自身の妹から名づけられたヒロイン「オーキッド」の初恋を描いた作品。香港の映画スター(金城武)が大好きなマレー系少女オーキッドは、露店で海賊版の香港映画ビデオを売る中国系の少年ジェイソンと出会い恋に落ちる。細い目とは、中国系の目が細いことをからかうマレーシアの言い方。民族的出自も生活環境も異なる彼らの恋が、文化や言葉を越えたかけがえのない心のつながりを教えてくれます。
『細い目』より
東京での上映初日となる7月20日(土)には、今回の上映に寄せたキャストたちのメッセージ動画を上映、京都大学准教授で混成アジア映画研究会代表・山本博之さんによる解説もあります。(そのほかの地域での映画館でのメッセージ動画&作品解説は
公式サイトでご確認を)
また同日には、スペシャルイベント『多文化・多言語の物語世界 ヤスミン・ワールドを語るクロストーク』も開催。前出の山本博之さん、作家の温又柔さん、映画監督のエドモンド・ヨウさんによる鼎談が行われます(要予約)。
ヤスミン・アフマド監督が最後の作品『タレンタイム〜優しい歌』を発表してから15年。彼女の描くその映画世界は、多様な文化が行き交う今、さらにその重要性を増しています。ヤスミン監督の日本上映・配信権は2024年9月までなので、ぜひこの機会に映画館に足を運んでヤスミン監督の世界に触れてみてください。
『細い目』より
PROFILE
Yasumin Ahmad(ヤスミン・アフマド)●1958年生まれ。日本人の祖母をもつ。ニューカッスル大学で心理学を専攻。帰国後はCMディレクターとして活躍。2003年に『ラブン』で映画監督デビューし、『細い目』、『グブラ』、『ムクシン』、『ムアラフ』を発表。東京国際映画祭最優秀アジア映画賞、ベルリン国際映画賞などに輝き、国内外で注目を集める。6作目の『タレンタイム~優しい歌』(2009年)が遺作となる。
INFORMATION
ヤスミン・アフマド没後15年記念
アンコール上映『タレンタイム〜優しい歌』
特別上映『細い目』
日時|2024年7月20日(土)〜8月2日(金)
場所|
シアター・イメージフォーラム
住所|
東京都渋谷区渋谷2-10-2
ほか、群馬・シネマテークたかさき、大阪・シネマート心斎橋、京都・出町座、兵庫・神戸元町映画館等、全国映画館でも順次上映。
●EVENT
「キャストからのメッセージ動画上映+
京都大学准教授、混成アジア映画研究会代表・山本博之さんの作品解説」
日時|2024年7月20日(土)11:00〜上映後、13:30〜上映後
場所|シアター・イメージフォーラム
「多文化・多言語の物語世界 ヤスミン・ワールドを語るクロストーク
温又柔(作家)×エドモンド・ヨウ(映画監督)×山本博之」
日時|2024年7月20日(土)16:00〜17:30 *開場15:45〜/トークは90分を予定
場所|イメージフォーラム・シネマテーク(シアター・イメージフォーラム3階)
入場料|1500円
予約|こちらから事前にお申し込みください。
https://peatix.com/event/4044532
EVENT HP|
https://www.imageforum.co.jp/theatre/news/7606/