海の向こうのローカル風土記 vol.4
韓国海苔
by 〈OVERSEAS〉

私たちが日常のなかで何気なく口にし、あるいは背伸びして食卓に取り入れる海外の食品たち。 海の向こうでは、唯一無二のおいしさを求めて生産者たちが愛情をそそぎ作っている。
第4回は、つい手が伸びてしまう韓国味付け海苔を紹介。

illustration= HITOSHI KUROKI
text= ALICE KAZAMA



t56_ovs_02_.jpg ソウル西側、チュンチョンナムド行政区の美しい海に面したソチョン。韓国3大河川のひとつ、クムガンの河口に位置し、海流の関係でミネラル豊富な海苔が採れる。そのため古くから海苔養殖を含めた漁業が盛んで、今でも韓国最大の海苔の生産地として知られる。


韓国味付け海苔は家庭の味。


一度パッケージを開けると、すべて食べ切るまで手を止められなくなってしまう魅惑の韓国海苔。ご飯のおともにはもちろん、ビールのアテにも、口寂しいときにはスナックとしても活躍するこの食材の原材料は、海苔と、塩と、ごま油やコーン油のみ。これほどシンプルにもかかわらず、なぜ多くの人を虜にするのだろう。

 海苔がよく採れる韓国では、日本と同様に海苔は昔から家庭で親しまれてきた。そして韓国独自の習慣として、いつの頃からか干した海苔にゴマ油を塗って火鉢で炙り、塩をかけて食べる文化が家庭で生まれた。キムチ、ナムル、豆料理、佃煮などたくさんの小鉢が並ぶ定番の韓国家庭料理のなかに、味付け海苔も名脇役として欠かせない存在に。ご飯にのせるのが主流だが、キムチなどほかのおかずを巻いて食べるのもおいしい。

本場韓国の味付け海苔専門企業、イップンシャのピョン・ジェヒョン氏にも当たり前に海苔がある食卓の思い出があった。「幼い頃、私も実家でよく食べていました。当時はまだ市販のものは一般的ではなく、各家庭で火鉢を使って味付け海苔を作っていたんです。大人が炙っているのを見て試しにやらせてもらったんですが、焦がしてしまい怒られました(笑)。実は味付け海苔は焼き加減が非常に重要なんですが、調整が難しいんです」

ピョン氏が語るように、韓国海苔の一番のポイントは焼き加減。サクッとしたスナックのように軽快な食感を出すには、薄くのばした海苔を、適切な温度でまんべんなく焼くことで叶う。味付け海苔を専門に扱うイップンシャにおいても、やはり"焼き"には特段、力を入れている。2回の焼きの工程を、家庭の火鉢よりもムラが出ない工場で、上下からの均一な加熱と厳正な温度管理のもと行うのだ。この企業努力こそが、やみつきになる韓国海苔のおいしさの秘密なのだ。

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ミネラルたっぷり海の恵み。


海苔の養殖は、韓国の水産業のなかでもっとも長い歴史をもっている。国内に産地は大きく2つあり、ソウル西側の港町ソチョンと、南側のタドヘだ。ソチョンの海は潮の干満差が大きく、風が強いため波が高くなりやすい。海流が発生し、掻き回されることで海水中のミネラルが豊富になり、海苔の味がより濃くなるという。海苔業に携わる人であればその微量な甘味も口に含むだけですぐに感じられるという。海苔加工歴12年のピョン氏にとってもこの味の違いは明白。味の濃さには個体差もあるため、イップンシャでは、この海苔の旨味を最大限に引き出せるように、海苔の個体差に合わせて味付けの分量も製造の過程のなかで束ごとに確認し変えている。国内のみならず世界に向けて安定した製品を届けられるよう、細部まで妥協をしないのだ。

家庭での伝統を継承し、世界に韓国のおいしさを広める「ソチョンの海苔」。しかし数十年後には消えてしまうこともあり得る......とピョン氏はいう。理由は温暖化。海苔は冷たい海で育つため、ほかのあらゆる海産物と同様、海水温上昇の影響を受けやすい。養殖場も毎年少しずつ北へと移動しつつあるという。ソチョン産の海苔を通して、地球についても改めて考えさせられるのだった。


t56_ovs_03.jpg 今回お話を聞いた人: ピョン・ジェヒョン氏
味付け海苔専門のプロフェッショナル企業、イップンシャに12年勤続するベテラン部長。おいしい加工方法や食べ方はもちろん、海苔の歴史にも精通。実はノーマルな海苔と岩のりが好物とか。


●THE LOCAL TIPS

韓国風スープの仕上げにパラパラと

スープにちぎった韓国海苔をトッピングするのがピョン氏おすすめの楽しみ方。たとえば滋養強壮に良いとされ、韓国ではとくに夏に食べる習慣がある参鶏湯(さむげたん)。手羽先または鶏もも肉、ニンニク、長ネギ、生姜、もち米を鍋に入れ、弱火でじっくり煮込んだら塩胡椒で味を調整。松の実やクコの実、なつめなどがあればより本格的な風味に。韓国海苔は料理の仕上げにのせるもよし、味変に使うもよし。ゴマ油と海苔の香ばしい香りと塩味が加わり、スープの深みがさらに増す。

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INFORMATION

ソチョン 韓国伝統味付のり

海苔の産地で有名なソチョンの海苔を使用し、シンプルな伝統の製法で加工。パリッと軽やかな食感と、適度な塩味、香り高いゴマ油がやみつきになる。おつまみやスナックとしても愛されている。

問い合わせ:オーバーシーズ
0120-522-582
https://overseas-inc.jp/ t56_ovs_05_.jpg


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