海の向こうのローカル風土記 vol.5
フランスのパレ＆ガレット
by 〈OVERSEAS〉
私たちが日常のなかで何気なく口にし、あるいは背伸びして食卓に取り入れる海外の食品たち。 海の向こうでは、唯一無二のおいしさを求めて生産者たちが愛情をそそぎ作っている。
第５回は、フランスで長く愛されてきた、バターたっぷりビスケットを紹介。
illustration= HITOSHI KUROKI
フランス北西部の半島、ブルターニュ地方の小さな村、ポン＝タヴェンは、豊かな緑を活かした農業や酪農が盛んな土地。昔ながらの音楽や踊り、食文化が色濃く残る。ポール・ゴーギャンをはじめ数多くの画家が滞在したことから"画家の村"としても名高い。
一口頬張ればふわっと香り広がるバターたっぷりのクッキーは、フランスの人びとの生活の一部。子どもたちは小さい頃からおやつとして与えられ、学校から帰宅したらまず１枚。大人は朝のコーヒーのおともやお昼後のティータイムに１枚。今も昔も変わりなく、みんなを笑顔にする日常のスナックとして愛されてきた。フランスでは、ひとつの地域に３〜４種ものクッキーが存在し、車で小１時間走ればまた違ったクッキーに出合える。
フレンチクッキーのおいしさの秘密は、バターの質にあるといっても過言ではない。バター消費量世界一のフランスだが、とりわけブルターニュは酪農に適した気候に助けられ、良質なバターの産地として名高い。クレープ、ガレット、魚や肉料理など、多くの郷土料理にバターを使用し、もちろんクッキー文化にも直結している。また、ブルターニュ地方沿岸部は潮の満ち引きが大きいおかげで食塩も特産品とあって、ヨーロッパで一般的な無塩バターよりも有塩バターが定番。お菓子作りにも有塩バターが使われることが多く、日本でもお馴染みとなった"塩スイーツ"ブームのきっかけともいわれている。
「バターの絶妙な塩っけがクッキーに特別なおいしさを与えるんです」。そう教えてくれたのは、ブルターニュを代表するクッキーブランド、トロウマッドに勤めるヴィンセント氏。南ブルターニュ出身の彼もまた、トロウマッドのおいしいクッキーとともに育った。
トロウマッドブランドがスタートしたのは1920年に遡る。ブルターニュ地方の小さな村、ポン＝タヴェンでベーカリーを営んでいた女性アレクシス・ル・ヴィランの作る分厚いクッキー（パレ）が「おいしすぎる」と評判になったのがきっかけだった。のちに娘のマーガレットが薄くて食べやすいクッキー（ガレット）を開発。そこから100年以上もの間、厳選されたブルターニュ産の食材とシンプルで伝統的な製法で、2つのタイプのクッキーを作りつづけている。ハンドメイドだから、品質は保ちながらも２枚として同じものはないという。
ちなみにトロウマッドのパッケージに描かれているのは、ポン＝タヴェンで夏に行われるお祭りで白黒の伝統衣装を着て踊る女性たち。この地で多くの作品を生み出したポール・ゴーギャンが1888年に描いた『ブルターニュの踊る少女たち、ポン=タヴェン』を参考にしたものだ。ポン＝タヴェンの人びとの素朴な幸せと郷土愛を目に映るがまま絵筆にのせたゴーギャン。この情景もまた、今もほとんど変わっていない。
クッキー大国フランス全体からみると、トロウマッドのクッキーはポン＝タヴェンという小さな村のニッチな文化にすぎない。しかし、この遺産を後世に残すことがミッションだとヴィンセント氏らは考えている。ニッチだからこそ、尊くてエレガントなのだと。"トロウマッド"はブルターニュ語で"いいもの"という意味。長く人びとを楽しませてきた菓子に対する、最上級の賛美の言葉だ。
今回お話を聞いた人：Mr. Vincent Levy
クッキーは家族の思い出という、生粋の南ブルターニュローカル。トロウマッドを扱うロックマリア社には勤続５年半。マネージングディレクターとして香港を拠点にアジアの市場を担当。
第５回は、フランスで長く愛されてきた、バターたっぷりビスケットを紹介。
illustration= HITOSHI KUROKI
text= ALICE KAZAMA
recipe=ELODIE LENEVEU
フランス北西部の半島、ブルターニュ地方の小さな村、ポン＝タヴェンは、豊かな緑を活かした農業や酪農が盛んな土地。昔ながらの音楽や踊り、食文化が色濃く残る。ポール・ゴーギャンをはじめ数多くの画家が滞在したことから"画家の村"としても名高い。
バターと塩が生む極上クッキー。
一口頬張ればふわっと香り広がるバターたっぷりのクッキーは、フランスの人びとの生活の一部。子どもたちは小さい頃からおやつとして与えられ、学校から帰宅したらまず１枚。大人は朝のコーヒーのおともやお昼後のティータイムに１枚。今も昔も変わりなく、みんなを笑顔にする日常のスナックとして愛されてきた。フランスでは、ひとつの地域に３〜４種ものクッキーが存在し、車で小１時間走ればまた違ったクッキーに出合える。
フレンチクッキーのおいしさの秘密は、バターの質にあるといっても過言ではない。バター消費量世界一のフランスだが、とりわけブルターニュは酪農に適した気候に助けられ、良質なバターの産地として名高い。クレープ、ガレット、魚や肉料理など、多くの郷土料理にバターを使用し、もちろんクッキー文化にも直結している。また、ブルターニュ地方沿岸部は潮の満ち引きが大きいおかげで食塩も特産品とあって、ヨーロッパで一般的な無塩バターよりも有塩バターが定番。お菓子作りにも有塩バターが使われることが多く、日本でもお馴染みとなった"塩スイーツ"ブームのきっかけともいわれている。
「バターの絶妙な塩っけがクッキーに特別なおいしさを与えるんです」。そう教えてくれたのは、ブルターニュを代表するクッキーブランド、トロウマッドに勤めるヴィンセント氏。南ブルターニュ出身の彼もまた、トロウマッドのおいしいクッキーとともに育った。
ブルターニュのニッチな遺産。
トロウマッドブランドがスタートしたのは1920年に遡る。ブルターニュ地方の小さな村、ポン＝タヴェンでベーカリーを営んでいた女性アレクシス・ル・ヴィランの作る分厚いクッキー（パレ）が「おいしすぎる」と評判になったのがきっかけだった。のちに娘のマーガレットが薄くて食べやすいクッキー（ガレット）を開発。そこから100年以上もの間、厳選されたブルターニュ産の食材とシンプルで伝統的な製法で、2つのタイプのクッキーを作りつづけている。ハンドメイドだから、品質は保ちながらも２枚として同じものはないという。
ちなみにトロウマッドのパッケージに描かれているのは、ポン＝タヴェンで夏に行われるお祭りで白黒の伝統衣装を着て踊る女性たち。この地で多くの作品を生み出したポール・ゴーギャンが1888年に描いた『ブルターニュの踊る少女たち、ポン=タヴェン』を参考にしたものだ。ポン＝タヴェンの人びとの素朴な幸せと郷土愛を目に映るがまま絵筆にのせたゴーギャン。この情景もまた、今もほとんど変わっていない。
クッキー大国フランス全体からみると、トロウマッドのクッキーはポン＝タヴェンという小さな村のニッチな文化にすぎない。しかし、この遺産を後世に残すことがミッションだとヴィンセント氏らは考えている。ニッチだからこそ、尊くてエレガントなのだと。"トロウマッド"はブルターニュ語で"いいもの"という意味。長く人びとを楽しませてきた菓子に対する、最上級の賛美の言葉だ。
今回お話を聞いた人：Mr. Vincent Levyクッキーは家族の思い出という、生粋の南ブルターニュローカル。トロウマッドを扱うロックマリア社には勤続５年半。マネージングディレクターとして香港を拠点にアジアの市場を担当。
●THE LOCAL TIPS
サクサク香ばしい塩バターキャラメルパフェ
粉砂糖100gと水少々を中火にかけ琥珀色になったら火を止め、砂糖が完全に溶けるまでかき混ぜる。温めた生クリーム150mlを静かに注ぎ、有塩バター50gを加え、泡立て器で混ぜる。鍋を弱火に戻し、泡立て器でなめらかにして冷やせば、ブルターニュ風の塩バターキャラメルソースが完成。デザートグラスに砕いたトロウマッド ガレットを敷く。その上にバニラアイス1玉とキャラメルアイス2玉、ソースを少量加え、ホイップクリームとガレットで飾り付けしてできあがり。
INFORMATION
トロウマッド パレ＆ガレット
ブルターニュ産のフレッシュバター、卵、小麦粉など、創業当時からこだわりのシンプルな材料と製法で作られる伝統的なクッキー。パレは分厚く満足感たっぷり、ガレットは薄く手軽に食べられる。
問い合わせ：オーバーシーズ
0120-522-582
https://overseas-inc.jp/
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