#Travelog
コルカタ〜ダージリン珍道中
東インド・バングラデシュ紀行

*2024年3月25日〜4月14日の間、TRANSIT STOREで、TRANSIT59号 東インド・バングラデシュ特集やBENGAL Tシャツがお得になる「東インド・バングラデシュ月間」を開催!ウェブサイトでは、59号制作時期に編集部が綴ったトラベログを掲載します。


TRANSIT編集部の小さな旅の記録を、徒然なるままに写真と言葉で綴った「Travelog」。旅の途中でノートの隅に走り書きした電車の時刻、街角で耳にした音楽、コーヒースタンドで済ませた朝食、現地の人と交わしたいくつかの言葉......そんな他愛もない旅の断片たちを集めた。

TRANSIT59号『東インド・バングラデシュ』の取材企画「ベンガルという名のインドに呼ばれて」より、誌面には収録できなかったエピソードをお届け。第2回はコルカタから夜行列車に乗って向かったダージリンの旅の裏話を紹介します。


【ROUTE】東インド・コルカタ〜ダージリン

photography & text=KEIKO SATO(TRANSIT)



紅茶の産地としてあまりにも有名なダージリン。標高2000mに位置する街はインドを代表する避暑地でもあり、人気の観光地の一つです。

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タイガーヒルから見える朝焼けのヒマラヤ山脈。

西ベンガル州の州都であるコルカタからは、インド各地へ向かう列車が発着。600km離れたダージリンへは、まず街中にあるシアルダー駅から、北部への起点となるニュー・ジャルパーイーグリー駅を夜行列車で目指します。

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平日18時頃のシアルダー駅構内。日本の連休初日のような混み具合。

電車は意外にも定刻通り、19:40に出発。インドの列車が2〜3時間遅れるというのは途中駅でのことなのでしょうか。駅の混雑は街中の雑踏に劣らず凄まじく、通勤ラッシュの新宿駅の倍ほどの人が行き来しています。20ほどあるプラットホームの中から電車を見つけるのも一苦労でした。

チケットオフィスで言われるがままに購入したS3という等級の寝台列車は、3段ベッドが向かい合わせになったコンパートメントと、それと垂直になるかたちで通路側に2段ベットが配置されたエアコンなしの車両。もちろん扉や仕切りなどはなく、まずは見知らぬインド人家族と対面しながら座ることに。

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夜行列車の乗車券。

コルカタの街中でもそうでしたが、日本人が相当に珍しいらしく、方々から視線を感じます。お向かいの4人家族も最初は宇宙人を見るような目でよそよそしくしていたものの、小学生と赤ん坊の2人兄弟の兄が話しかけてくれ、とつとつと会話が生まれていきました。


砂糖多用国家の洗礼。


20時を過ぎた頃、それぞれがもち込んでいた食べ物を広げ出し、車内にはさまざまな匂いが充満し始めました。切符を購入する際「Veg」(おそらくVegetableの意)という項目にチェックを入れる箇所があったので、車内で食事が出ると思っていたのに一向にその気配はなく、こちらは何ももち合わせていない状態。16両編成の新幹線の倍ほどもある長い列車の中から車掌を見つけ出すのもほぼ不可能なので、お向かいの家族の美味しそうなチキンカレーを指をくわえて見ているしかありません。

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罰ゲームのように目の前からいい匂いを漂わせるカレー。

そんな私たちを見かねたお母さんが、どこに隠していたのか大きな鍋を取り出し、さつま揚げやがんもさながらの練り物を3つほど取り分けてくれました。

口にした瞬間、その脳天を突くような甘さに思わず眩暈が。あまりにもおでんと瓜二つだったので、出汁の沁みたあの味が勝手に脳内で先行してしまったことも衝撃を倍増させたのかもしれません。砂糖をたっぷり含んだ生地からは、さつま揚げから出汁が染み出す要領で甘〜い汁が溢れてきます。さらに中には、コンデンスミルクで味つけしたようなココナッツのタネがたっぷり。

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どう見てもはんぺん、ちくわ、さつま揚げの様相。

先ほど家族が食べていたチキンカレーに憧憬の念を抱きながら、半ば苦行のようにその3つをなんとか飲み込みました。それを見届け、お母さんがうれしそうに「テイスティ?」と聞いてきたので、満面の笑みでイエスと答えます。出発前、売店で迷った末にポテトチップスを買わなかった自分を心底恨みました。


真冬の隙間風。


日中は半袖でも過ごせるほど温暖な気候だったコルカタ。しかし車内の人びとは、ダウンやセーターを着込み、しっかり厚着をしています。22時を過ぎると、これまたどこに収納していたのか、それぞれが厚手の毛布を取り出し就寝の準備を始めました。これも、切符を買う際「sleeping bag」という項目があったので、てっきり寝袋付きだと思い込んでいましたが、さきほどの食事の経験からしてその可能性もゼロに等しく、諦めて持っていた布類をありったけ着込みます。

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どこからか毛布を出し始める乗客たち。

出発地のコルカタは半袖でも暑いくらいだったのに、なぜ乗客がみな厚着をしていたのか、北部へ近づくほどに身に染みてわかりました。車両は隙間風が通り放題で、とりわけ入り口に近い私たちは、猛スピードで飛ばす列車の風をまともに受けていました。外気はもはや日本の冬と大して変わらず、真冬に冷房を「強」にして寝るような苦行を強いられます。ダージリンで使おうと思っていたホッカイロを2つも消費してしまいました。


車内トラブルが起きたら?


ホッカイロが効果を発揮しはじめ、ようやくウトウトしかけていると、突然車内に激しい怒号と叫び声が響き渡り、思わず目を覚まします。車両の奥の方で何やら取っ組み合いの喧嘩が始まったようですが、お向かいの家族や周囲の乗客は、極めてつまらない理由で起こされたとでもいうような面持ちで寝返りを打つ程度。少しのことでは動じない人びとのその精神に感動し、こちらもそれ以降は安心して眠ることができました。

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電車の窓から見た日の出。


命綱なしアトラクション。


乗車から約12時間後の朝7:30、予定より1時間遅れでニュー・ジャルパーイーグリー駅に到着。ここからは乗り合いジープで70km先のダージリンを目指します。ジープは1人300ルピー。以前の相場は200〜250ルピーと聞いていたので、ほかの同乗者にも聞いてみましたが、やはり一律で300ルピーのようでした。

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駅前で待機する無数のジープと客引きたち。

ジープの定員は10名ですが、定員がいっぱいになるまで出発しません。座席は助手席に2名、2列ある後部座席にはそれぞれ4名ずつが座り、隣の人とほぼ重なり合う格好です。猛スピードで走るジープは対向車線にはみ出しながら、次々と前の車をごぼう抜きにしていきます。谷側のガードレールはタイヤの半分くらいの高さのもので、その向こうには断崖絶壁がつづいていました。そして前の車を視界に捉えると、抜かすまで永遠にクラクションで威嚇。あおり運転に罰則のある日本ではまず見られない光景です。

断崖絶壁のカーブを猛スピードで曲がるジープ。

そんなスリル満点のアトラクションに揺られること約3時間、無事(?)ダージリンの街に到着。気温はコルカタより20度近くも下がり、昨日まで半袖を着ていたのが嘘のようです。


のどかな集落での珍事。


山の斜面にへばりつくように街が広がるダージリンは、思っていたよりずっとチベット仏教の色濃い土地でした。そんなタルチョが旗めく縦長の集落で撮影していると、真っ青な壁がひと際目を引く家の窓から何やら手招きする人が。

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集落でひと際映える家の窓からふと視線を感じ......。

近づいていくと、その家の主であるお父さんが、見ず知らずの私たちを家の中に招き入れます。そして「どこから来たんだ」「何をしているんだ」「明日はどこへいくんだ」などの職務質問を片言の英語で受けながら、優雅にダージリンティーをいただきました。

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どこを撮っても絵になるお家。娘さんのブームはBTS。

聞けばお父さんはネパールの出身。若い頃はネパールの軍隊に所属し、引退後は静かな暮らしを求めて家族でこの地に移住してきたんだそう。そんな身の上話を聞いていると、どこからかお母さんが顔を出し、「あら、来てたの」くらいのテンションでこの状況を受け入れていました。

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絵本に出てくるようなキッチン。

そして何やらいい匂いが漂い出し、これもごく自然にお母さんが「できたわよ」とでもいうような笑顔で私たちを台所へと招きます。用意されていたのはカレーラーメン。スープとチャルメラのようなちぢれ麺だけという、朝ごはんの理想系のような料理が出てきました。数十分前に出会ったばかりの外国人に、なぜここまで親切なのでしょうか。「自分の満足する状態を知っている人は他人に分け与えることができる」というタイの山奥で聞いたお坊さんの説法を思い出します。

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記念撮影中のお父さんとお母さん。

ダージリン観光のメインコンテンツといえば、夜明けのヒマラヤ鑑賞や通称トイ・トレインの名で知られるダージリン・ヒマラヤ鉄道が定番ですが、それ以上に印象に残ったのはそこに暮らす人びとでした。

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途中で動かなくなったトイ・トレイン。機関士が必死に石炭をくべている。

土産物店が軒を連ねる観光地はほんの一部で、一本路地を入れば地元向けのマーケットがあり、中心部から少し離れれば、山間の村に生きる人びとの暮らしや、僧坊で修行に励むチベット仏教僧たちの姿が見えてきます。

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右も左も野菜だらけのマーケット。

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上 / まるでパン屋の食パンのように堂々と置かれている二羽の鶏。 中 / 高地ながら脂ののった魚も豊富。下 / 商店をのぞくチベット僧の少年たち。

そして観光地ながらいい意味で外国人慣れしていない人が多く、どのお店でも往年の友人に接するかのような温かい接客を受けました(客でも知り合いでもない一般家庭での外国人のもてなしは先述の通り)。

また、ダージリン駅からひと駅先のグーム駅近くには、チベット料理の代表格、蒸し餃子の「モモ」専門店や地元価格で絶品カレーを出すお店もちらほらあり、観光地らしからぬ価格でローカルフードが楽しめました。

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右 / グーム駅前のお店で食べたモモ。あつあつの肉汁が溢れ出す瞬間は最高。左 / トイ・トレインの撮影スポット「バタジア・ループ」近くにある〈Lodge Veg Non Veg Bangali Khabar〉。3種の惣菜とダール、カレー、ライスがついて230ルピー。おかわりは自動で注がれる。

厳しい寒さに見舞われる冬のダージリンでは、より一層人びとの温もりや熱々のモモが身に沁みます。そんなオフシーズンにあえて訪れるなら、防寒対策はくれぐれも入念に行いましょう。

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霧に包まれたチベット仏教寺院のゴンパ。寒くとも幻想的。

喧騒のコルカタと極寒のダージリン。なかなかハードな旅にもかかわらず、帰国後すぐに戻りたくなってしまうほど、ベンガルは引力の強い土地でした。その最大の要因は、やはりその地に住む人びとなのかもしれません。

そんな人びとの素顔に触れた今回の旅。デリーもバラナシもラージャスターンも経験済みなら、次のインドはベンガルの地でいかがでしょう。





TRANSIT本誌では、この記事で紹介したコルカタやダージリンの情報のみならず、ダイナミックかつ神秘的な自然や文化、混沌とした街や社会問題など、まだ見ぬベンガルを知ることのできる企画が満載です。

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INFORMATION

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