文明の十字路ジョージアで美食に出会う
シェフ直伝シュクメルリのレシピも!
#Travelogue by 森川幹人

Story - 2024.05.20
春の足音が聞こえてきた3月下旬、アジアとヨーロッパの交差点に位置するジョージアの首都トビリシを訪れた。さまざまな文化が混ざり合うジョージアは、ファッションやナイトクラブなど、カルチャー界隈でも知る人ぞ知るスイートスポット。食においても、ナチュラルワインや、伝統的な要素をベースに流行を取り入れた料理で注目を集める。日本でも、シュクメルリがファミリーマートや松屋が商品化されるなど知名度もアップ中。そんなジョージア料理の魅力を知るべく、現地のレストランを訪れた。

>>「ワイン発祥の地・ジョージアでナチュラルワインめぐり #Travelogue by 森川幹人」はこちら!

text=MIKITO MORIKAWA
special thanks=Georgian National Tourism Administration, Tomoya Takahashi



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「ジョージア人にとっては、No Wine, No Food, No Life. なのさ」。真夜中を過ぎて到着したトビリシ国際空港から市街地へ向かう途上。おしゃべりなタクシードライバーが運転そっちのけで、スマホに撮りためた家族や友人とのパーティーの写真を見せてくれる。そこには伝統料理やワインが並び、楽しそうに宴会を楽しむ人びとが写っていた。ジョージア人の人生観を知るには、料理とワインが欠かせないようだ。

3月下旬に訪れた首都トビリシは、季節の変わり目で雨が多い時期らしく、朝から雨模様だった。傘をさして歩き始めると、石畳が多い街中の通りはバリアフリーとはほど遠い。段差が多く、つまづきそうなトラップがあちらこちらに潜んでいる。雨水の処理も行き届いていないため、小さな"洪水"がそこかしこで発生していた。

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日産の名車、4代目フェアレディZが過去からタイムトリップしてきたような風貌で石畳の上に佇む。

この街を散策すると、時間の感覚が歪められるような不思議な体験をする。近未来的な巨大建築が街のところどころで存在感を放つ一方、築50年は経っていそうな朽ち果てた建物がいたるところにある。道路を走る車もちょっとしたズレをはらむ。道路を走る車は欧米や日本の中古車で、10年から20年落ちの懐かしいモデルが多い。反対に、若者のファッションや遊び方は、西欧の若者とさして変わらない。

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トビリシの真ん中を南北に流れるクラ川に掛かる橋で、歩行者専用路は報道写真を展示した"ストリートミュージアム"に。老婆を写した写真に、イタリア人建築家のミケーレ・デ・ルッキが設計した平和橋が映り込む。

異なる時間軸のものがごちゃまぜで存在するトビリシの不思議な感覚は、文明の十字路としてさまざまな文化が入り乱れたゆえに独自のカルチャーを育んできたジョージアの歴史と、通じる部分があるかもしれない。絶妙なセンスで新しいカルチャーと街の旧い遺産をミックスさせているトビリシには、ソ連時代からある建築をリノベした、NYのブルックリンやロンドンのハックニーにあっても違和感のないイケてる店も多い。

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©Tomoya Takahashi

新旧が混じり合うトビリシにあって、街を象徴するようなレストランがあると聞いて訪れたのが〈Poliphonia(ポリフォニア)〉だ。ここでは、ジョージアの伝統料理だけでなく、昔ながらの料理に海外のトレンドを取り入れた、新しい時代のジョージア料理も味わえる。また、料理ファンの間で人気を得ている世界中のナチュラルワインも取り揃えている。

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トビリシの中心部にあるジョージア国立博物館を通りすぎ、丘を登った先の閑静なエリアに〈Poliphonia〉はあった。店に到着するとシェフとして働く高橋朋也さんが出迎えてくれた。日本でソムリエ資格を取得後、東京の〈NONNA&SIDHI SHOP(ノンナ&シディ ショップ)〉でジョージアのナチュラルワインに出会い、「今までにない感覚をもった」という。旅行でジョージアを初めて訪ねた際には、ジョージア初のナチュラルワインバーである〈VINO UNDERGROUND(ヴィノアンダーグラウンド)〉に通い詰めた。

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トビリシ中心部の繁華街の一角に店を構える〈VINO UNDERGROUND〉。地下になったレストランには、ジョージアに加えて世界中のナチュラルワインがセレクトされている。訪れる客はナチュラルワインに目がない料理とワインの目利きが多いため、落ち着いた雰囲気のなかでゆっくり食事を楽しめる。

〈VINO UNDERGROUND〉では、たまたま隣に座ったおじさんが伝説的なワイン生産者だったり、知り合いと偶然に出会ったりということがあり、ナチュラルワインの密なコミュニティにも高橋さんは魅せられたという。近年は、外国人や女性のワイン生産者も増えるなど、ナチュラルワインの担い手がより多様になっており、高橋さんもトビリシ市内にある醸造所でワイン造りを始めたのだそう。今はジョージア料理をメインに仕事しながら、将来は日本でジョージアのワインと料理を供するレストラン&バーを開くことを目指している。

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〈VINO UNDERGROUND〉の壁には、ジョージアのナチュラルワインを支えてきたレジェンダリーな生産者たちの写真が掲げられている。

午後になって〈Poliphonia〉の厨房を切り盛りしている、ジョージア生まれのシェフのアナ・ショトニアシュヴィリがやって来た。彼女が料理に本格的に取り組むようになったきっけかも〈VINO UNDERGROUND〉だ。そこでアシスタントシェフとして働き始めたことで、ワインと料理の組み合わせの妙に魅せられたという。

夕方5時の開店を前にした午後のひととき、準備を進める高橋さんとアナの二人を追いかけて厨房にお邪魔する。アナは「この国の人にとっての料理とはホスピタリティなのよ」と言いながら、ジョージアの代表的な料理をつくってくれた。

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1皿目は、西北部のラチャ地方にあるシュクメリ村を由来とする「シュクメルリ」。鶏肉、ニンニク、サワークリームを主な食材とした一品は、松屋やファミリーマートが商品化したこともあり日本でもおなじみだ。「ジョージア料理は脂っこいものが多いけど、もう少しライトなものにレシピをアレンジしているの」とアナが説明しながら、塩、ニンニク、チリペッパーで味付けし一日寝かせた鶏肉を、フライパンの上で油をひいて焼いていく。〈Poliphonia〉では、ジョージア料理を海外の料理テクニックやトレンドを取り入れてつくっている。オーナーの一人でワインプロデューサーのジョン・ワーデマンが、ワインイベントなどで世界中を訪れ、アイデアを持ち帰ってくるのだという。シュクメルリも、最近の健康志向を反映した味つけになっているのだ。

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強火で鶏肉に焼色をつけた後、白ワインを注ぎ込むとブワッと炎が広がる。手間ひまかけて造ったナチュラインワインを豪快に使うのが〈Poliphonia〉流。ナチュラルワインが料理により深い香りをもたらすという。ワインと料理のペアリングは、テーブルの上だけでなく、厨房の中でも大切なのだ。鶏肉に蓋をしたら中火にして、しばらく煮込む。

間髪入れずソースづくりにとりかかる。ソースに使うのは、サワークリーム、鶏のスープストック、ニンニク、塩。厨房に入って圧倒されたのはスピード感。下準備が済んだ食材と料理器具がしかるべき場所に収まっているため動きに無駄がない。「料理は味がよく、適切な温度で、よい香りがしてこそのもの」。ベストなタイミングで、最良の状態で料理を出すためにも時間管理は欠かせない要素だ。「料理とはアートでありサイエンス。感じるもの、見るもの、創造するもの」だとアナは言う。

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鶏肉にソースを混ぜ合わせ、弱火で煮込んだらシュクメルリは完成だ。ジョージアの家庭で日常的に調理される一品。アナは、子どもの頃に見ていた祖母の料理を思い出し、彼女のレシピを見返すこともあるという。各家庭で受け継がれていく料理が、その土地の食文化を育んでいる。サワークリームとナチュラルワインが混ざり合い、濃厚な味わいを残しつつもさっぱりしていて、ほかの店の料理と比べると食べやすい。一晩かけてマリネードしただけあって、鶏肉の味つけも抜群だ。

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2皿目は、赤インゲン豆を使ったヘルシーな「プハロビオ」。豆の名前から「ロビオ」とも呼ばれている。ジョージア全土で食べられる伝統的なシチューなのだ。まずはコリアンダー、セイボリー(キダチハッカ)などをつぶして調味料をつくる。

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つづけて、強火でさきほどの調味料を炒る。ここにみじん切りにしたタマネギを加え、すりおろししたガーリックを足し、茹でたホウレン草など季節の青菜や野草を追加する。さらに白ワインを注ぎ込むのはシュクメルリと同じだ。

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最後に、一晩水につけてさらに煮ておいた赤インゲン豆をたっぷり加え、刻んだコリアンダーを投入したら完成だ。皿に移してから、太陽の滋養を含んで濃厚な香りがするヒマワリ油を追加して味を調整する。時間をかけて煮込んだ豆はやわらかく、いろいろな種類のスパイスが混ざりあったスープと合わさると、うまみたっぷりのやさしい味が口に広がった。

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〈Poliphonia〉は、コペンハーゲンにある世界的に名の知れた〈noma〉の元トップソムリエと協働したりするなど、海外とのコラボレーションにも積極的だ。2023年は日本と台湾で、24年には台湾でポップアップを開催した。この春にはオーストリアでポップアップを行ったという。一方、ジョージアで忘れられた料理のリニューアルもしている。バランス感覚を大切にしながら、ダイナミックに変わり続けるところが、ジョージア料理が欧州のみならず、遠く離れた日本でも脚光を浴びている理由かもしれない。


■レシピ


●シュクメルリ
1:鶏肉に塩、ニンニク、チリペッパーを混ぜ合わせて、マリネし、冷蔵庫で4、5時間ねかせる
2:フライパンに油を注ぎ、強火で鶏肉を焼き目がつくまで焼く。ワインなどアルコールを加えて飛ばし、鶏のスープストックを追加する
3:弱火にしてフライパンにふたをし、鶏肉に火を通す
4:サワークリーム、ニンニク、塩、チリペッパーを混ぜてソースをつくる
5:鶏肉にソースを混ぜて、弱火で少し煮込む

■材料(2人分)
鶏肉 250g
ニンニク 3g
チリペッパー 2g
白ワイン 30cc
鶏のスープストック 50cc
サワークリーム 50cc
塩 お好みで
油 適量
マリネ液
塩 3g
ニンニク 2片
チリペッパー 3g
ヴィネガー 10cc


●プハロビオ(ロビオ)
1:赤インゲン豆を一晩水につけて戻し、柔らかくなるまで2〜3時間煮る
2:コリアンダー、セイボリー、チリフレークをつぶして、強火で炒る
3:タマネギのみじん切り、ニンニクを加え、弱火で炒める
4:茹でたホウレン草(そのときどきで季節の青菜や野草を使用)をみじん切りにして加える
5:赤インゲン豆を加える。白ワインを加えてもよし
6:仕上げにヒマワリ油とスヴァネティアンソルト(スパイス入りの塩)を加える

■材料(2人分)
赤インゲン豆(ロビオ) 200g(茹でる前の重さ)
タマネギ 1個(中くらい)
コリアンダー 3g
セイボリー(キダチハッカ) 3g
チリフレーク 3g
ニンニク 2片
ホウレン草 200g(茹でる前の重さ)
白ワイン 50g
ヒマワリ油(カヘティアンオイル)  20g
スヴァネティアンソルト 2g
DATA

VINO UNDERGROUND

ADDRESS|15 Galaktion Tabidze St, Tbilisi, Georgia
IG|@vinounderground Georgia trip01_food_17.jpg

Poliphonia

ADDRESS|ჭონქაძის 29/29 Chonkadze str, Tbilisi, Georgia
IG|@poliphonia.tbilisi Georgia trip01_food_18.jpg

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