1989年、6カ国6名の冒険家たちが南極大陸を犬ぞりで横断するかつてない冒険がありました。氷点下50℃の地吹雪のなか、約6,040kmの道のりをゆく約7カ月間の旅。その冒険をいま改めて振り返り、当時のメッセージを次世代へ繋げるイベント「THINK SOUTH FOR THE NEXT 2022」が2022年12月に開催されました。主催は、当時の南極の冒険でギアを提供していた〈THE NORTH FACE〉を展開する株式会社ゴールドウインと株式会社DACホールディングス。

地球上で唯一国境をもたない南極大陸で、犬ぞりの横断に挑んだ6カ国6名の冒険家たち。彼らが抱いていた「チャレンジスピリット」「平和」「環境」の3つの精神に焦点を絞り、それぞれ異なるフィールドで活動している人たちを招いて、3部構成のトークイベントと1989年の南極旅のドキュメンタリー映画『Trans-Antarctica Expedition』の上映が行われました。

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「チャレンジスピリット編」では、情報学研究学者のドミニク・チェンさんと極地建築家の村上祐資さんが対談。ふたりが考える、チャレンジスピリットとはーーー? トークイベントの様子をお届けします。


ほかの対談はこちら
>>平和編/石川直樹×松村圭一郎
>>環境編/露木しいな×SHIMOKITA COLLEGE

photography=MOMOKA OMOTE
design=YUMA TOBISHIMA(ampersands)
illustration=ATSUYA YAMAZAKI
edit & text=MAKI TSUGA(TRANSIT)



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―――それぞれ自己紹介をしていただけますか?

ドミニク・チェン(以下、ドミニク) : ふだんは早稲田大学で教員をしていて、コミュニケーション全般について研究しています。もともとの専門はインターネットのコミュニケーションテクノロジーを開発してきました。

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DOMINIQUE CHEN(どみにく・ちぇん)●早稲田大学文学学術院教授。テクノロジーと人間と自然存在の関係を研究し、コミュニケーション、情報学、メディアアート、哲学といった分野を横断的に活動する。日仏英のトリリンガル。著書に『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために』など。

たとえば2020年に21_21 DESIGN SIGHTでディレクターを務めた「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」では、「翻訳」をテーマにグーグル翻訳をつくっているチームと一緒にインスタレーションをつくりました。マイクに向かって質問の答えを話すと、瞬時に23カ国語に翻訳され、音として言葉のシャワーを浴びるという作品です。

ひとつの言葉にも、それだけ多言語の広がりがあるというのを表したくてこういう作品をつくりました。逆説的ですが、翻訳できないことが世の中に溢れているというのを表したかったという思いもあります。ある言葉を翻訳しようと思えば、テクニカルにはできるけれど、それは意訳かもしれないし一語一語対応していないかもしれない。

一つの言語で自分の感情を言葉にする行為も翻訳と捉えることもできて、僕たちはうまく気持ちを翻訳できるときもあればできないときもある。正解がどこにもないくらい複雑な世界に生きているという感覚です。

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コロナ禍に入ってからは、体と体のコミュニケーションに興味をもちはじめて、そこを分断せずに繋げて考えられないかと思っています。

村上 : 僕は2008年に南極越冬隊として昭和基地に滞在しました。肩書きは「極地建築家」です。人が住めない場所に出かけていって、そこの住まいはどういうものなのかを考えつづけています。

ふだんの生活では、遊び相手、仕事相手、それぞれ分散していて、いいことや悪いことがおきても目をそらしたりできますが、極地はすべての相手が一緒。映画『Trans-Antarctica Expedition』でもそうでしたが、毎日のペースはほぼ変わらない。部屋も同じ。それが暮らしにも影響していく。僕はそうした極地や閉鎖状態に置かれたときに、人間はどういうところでコミュニケーションがとりにくくなるのかを考えます。

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村上祐資(むらかみ・ゆうすけ)●南極やヒマラヤ遠征隊など極地の生活を踏査する「極地建築家」。2008年に日本南極観測隊越冬隊員として地球物理観測に従事。2013〜2017年にかけて行なわれた模擬火星居住実験「The Mars 160 Mission」では副隊長を務める。計1000日を超える閉鎖隔離生活経験をもとに、極地の居住空間を考える。 http://www.fieldnote.net/

最近は宇宙の案件が増えてきました。国際宇宙ステーションの場合、40分で地球に降りてこれるほどの距離に、7名ほどのクルーが半年ほど滞在しています。火星の場合、火星も地球も太陽を周回しているので、もっとも接近したタイミングで出発したとしても火星に到達するまでに最低300日はかかる。国際宇宙ステーションでは、コックピットの延長線上で暮らしていたけれど、火星となるとそうはいかない。乗り物でなく基地が必要となります。地球上で火星の生活をする想定をして、課題を洗い出さないといけない。

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2017年に、2000人の応募者の中から7人に選ばれて、史上もっとも過酷で多様性のあるグループで火星生活の実験をするプロジェクト「Mars160」に参加しました。メンバーは、学者3人、アーティスト、軍人、エンジニア、ジャーナリストもいて、私は建築と極地の専門家として行きました。

場所は北極のデヴォン島。宇宙服を着て散策します。実験がはじまってみると、実際は暇でした。火星は地質や地形の測量や生物学的な探索のために2、3人がバディを組んで外に出るのですが、あとのメンバーは基地に残る。同じ風景を毎日見続ける。おもしろいのが、人によっては基地から見えるこの景色にすぐ飽きてしまうのですが、研究者タイプは窓の外を見ても「今日は風景のここが違う」と細かい変化を永遠と楽しむことができる。

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©YUSUKE MURAKAMI

―――村上さんは北極や南極での滞在経験があり、ドミニクさんはそうした極地へは行ったことがないかもしれませんが、おふたりはそれぞれに南極大陸犬ぞり横断のドキュメンタリー映画『Trans-Antarctica Expedition』をご覧になって、どのように受け止めましたか?

村上 : 僕も南極越冬隊員で昭和基地に1年半いて、現在は南極に犬は連れて行けないのですが、雪上車の2、3列編成で3週間くらいの遠征をしたときの風景を思い出していました。そのときに見える景色といったら、前の車の後ろ姿ばかり。だんだん体は慣れてくるんですけど頭は暇になってくる。そんな南極のことを思い出しながら観ていました。

ドミニク : 私は南極に行ったことはないのですが(笑)。モンゴルに1週間半ほど新婚旅行で訪れたことがあって、何もない大草原のなか、妻の乗っている馬の後ろ姿をひたすら追いかけていた。何もしない時間はそういうものなのかもしれないですね。映像だけ観るとチャレンジングな印象を受けますが、実際は何もしない時間もたくさんあって、そのなかで国籍の異なる人たちが過ごす。そこにコミュニケーションや連帯や衝突が生まれることを思うと、自分ごととして捉えながら観ることができますね。

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―――「エベレストに登る」「南極を横断する」というものではなく、ゴールがないものにチャレンジしているおふたりかと思います。「チャレンジ」に対してはどういう思いがありますか?

ドミニク : 打ち合わせをしていておもしろかったのが、ふたりともチャレンジはそんなに好きじゃないということ(笑)。プロセスを楽しむことはありますけど、苦しみや辛さそのものを楽しむわけではない。わかりやすい目標への成功・失敗の区分で自分の何かが変わるよりも、もっと地味で、自分では気づけないような変化のプロセスに身を委ねて、気がついたらものの見方や行動が変わっていたということはあるんじゃないかなと思います。

スポーツ的なチャレンジももちろんあると思いますが、もっと地味でカロリーが低くて長期的なチャレンジもある。チャレンジの通念を多様化していけるのではないかと思いますね。

村上 : 極地の滞在にも通じるところはありますね。基地に到達したらほぼ移動しない。無事に帰れるだけで御の字。そこで何かを達成するというのは+αなんですね。その達成に固執してしまうと帰ってこられない。観測隊では、「続けていくこと」「帰ってくること」がすごく大事。

毎日のように見たくない自分と見たくない景色を見続ける世界なんです。選考に通ってそこに立つ気持ちが強すぎる人は待つ力が弱い。こんなはずじゃなかった、と。見たくない自分とか起きてほしくない事態に抗うより、それを受け止めて待つ力ってすごく大切。待つ力がないとすぐ潰れてしまう。1つの目的に対して1つの答えや術しかもち合わせていない場合もすぐやられてしまう。1つの答えに固執しているチームはみんな顔が強張ってくるんですよね。2つ3つのチョイスを常にもてるように出発前から準備する。チャレンジは出発前に済んでいるともいえます。

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©YUSUKE MURAKAMI

ドミニク : すごく共感するのですが、根本ですごく後ろ向きにみえる(笑)。村上さんが南極での滞在に向けて準備していくモチベーションはなんですか?

村上 : ベースには建築があります。小さい頃は普通に都心の学校で育ったので、極地のことはまったく知らない。何も知らない人が厳しい環境に居住空間をつくろうと考えたときに、その時点で知識や経験が足りてない自分と向き合わなければならないわけです。それを補うために、極地で暮らしてみるしかない。でも恐怖や不安があるから、もうそこは腹を括って、事前にその土地について学んだり想像して準備せざるを得なかったっていうのが一つ。

もう一つ目的意識としていうならば、僕が家を建てるわけではなく、僕の次やその次の世代が建てるわけです。僕は建築家ではなく、モルモット。極地に行った僕が大丈夫だったことを後世の人が見て改良をしてくれればいい。なので、逆説的ですが僕にとってチャレンジは「個を出さない」。僕がやるっていうのを消すこと。

ドミニク : 村上さんは社会学者や人類学者と近いことを言っているなと感じますね。対象物を観察するまなざしに、人類学が培ってきた知恵や技法に通じるものがあります。

人類学はもともと、文明化されている国から未開とされる土地を訪れて、上から目線で観察するようなかたちではじまったのだけれど、そのやり方が批判されて、次の段階として、フラットかつ透明な存在として集団に居続けようとしていくようになった。ただそのこと自体、ある種の矛盾を抱えてはいるのですが、自分だからその答えが出てきたという属人的な結論ではないところを目指そうとしてきたんです。村上さんも研究者肌なのですね。

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村上 : そうですね、知りたいと思って参加するので。人類学とちょっと違うなと思うのは、未開の地に行ってもすでに「見る対象」は存在してますよね。そこに確立した文化があって、どんなに自分が望んでも現地の人たちの一員にはなれないとか。

ただ火星には何もない。自分含めてゼロからの観察対象です。そこがちょっと違う。どちらかというとチャレンジというよりかは、当事者と観察者の狭間でフラットでいることに必死だったと思います。

ドミニク : 嫌な自分を毎日見なくてはいけないという話を聞いたときに、「Negative Capability(ネガティブ・ケイパビリティ)」という言葉を思い出しました。嫌なことや辛いことに耐える能力を指す言葉なのですが、そこでもある種のチャレンジスピリットがある気がします。

コロナ禍に入ってコミュニケーションの研究をしていると、コミュニケーションに悩んでいる会社組織やコミュニティから相談を受けることが増えました。私は極地には行ったことがありませんが、極限状況を生きている人はたくさんいると思います。そのなかでどう生き抜くかという知恵と極地の生き抜く知恵は、いろんなヒントを与えてくれるように聞こえました。

地味なチャレンジは、動きたくなってしまうときにあえて放置しておく勇気でもあるかもしれません。先日、いろんな職種の方たちと、自分たちのなかの微生物的な思考のプロセスが勝手に発酵してくれるのをひたすら待つというワークショップを行ったんですね。僕たちの体の中にも微生物はたくさんいるわけですが、メタファーとして、思考も発酵するというマインドセットを取り込んでみたんです。

心の動きも「寝かせる」というように、無理くり完成させてもおもしろいことにならない。あえて何もしないことって、実は企業のビジネスパーソンが苦手とすることなんです。アクションしないと何もしていないように思ってしまうんですね。放置することで相対化できて冷静になるという効果があったり、もしくはそのときの狭い視野に入っていなかった要素が入ってくることもあったり、そういうのもチャレンジだなと思うんです。とても地味な作用なのですが。

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村上 : たいてい地味だけど小さなことの積み重ねなんです。ドキュメンタリーでも、外から見たら「この人、登場シーンが少なくて、全然名前が出てこないな」とか思うのですが、中で見てるとまた違う印象をもつことがあって。目立つクルーのほうが良くなかったっていうケースが多々ある。ここは勝負どころというところで、10のところ12の力でやると、その力は一瞬しか出せない。でも極地の生活は長丁場なので、波ができるとほかのメンバーが振り回されてやりづらい。

地味でも6、7割の力をずっとキープできる人は信頼性が高かったりするんです。地味なチャレンジはあまり評価されないのですが、その重要性は常に意識する必要がある。求められるがままにいろんなことをやると、他者のペースで潰れていくので難しい。

ドミニク : 性格もありますよね。もともと波がある人もいれば、ずっとフラットでいても苦しくない人だっている。いろんな人が共同生活するときにどっちが正解か一概にいえないですよね。

村上 : いえないですね。今日はDay offだから楽しもうよというときには、感情がフラットな人よりも喜びを外に出しやすい人がいると、喜ばせ甲斐があるというか。シチュエーションによって変わってきますね。結論は、いろんな人がいたほうがいいということですが、極地では最低限の独自力も必要な世界です。依存しなければ、強さも弱さも多様なほうがいい。依存が発生するくらい偏ってくると、フォローする人の時間がとられて全体のバランスが悪くなる。

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ドミニク : 最近、影の立役者に関する研究も出てきています。たとえば輝かしい研究成果を残している研究チームたちを調査した人がいて、だいたいそういう研究チームには「スーパー縁の下の力持ち」がいるというのがわかった。緊急医療の世界でも、医師と看護師の間を行き来できる中間看護師が能力を発揮すると、すべてがうまく回る。メディアで目立って輝いている人にはそれを支えるチームが不可欠ですが、これからは縁の下の力持ちの貢献が可視化され、評価される時代がくるのではないかなと思います。

発酵微生物の研究でも、微生物はめちゃくちゃ縁の下の力持ちなんですよね。人間の体の中には細胞の数より多くの微生物が生きている。そして地球上の99%の微生物が未発見状態です。微生物が人間にどういう働きをしているのかというと、脳腸相関といって、たとえば僕の腸内フローラを村上さんに移植すると村上さんの性格がちょっと僕っぽくなるとか体格が変わるという研究がある。

僕はこの不可視のレイヤーにすごく興味がある。僕たち人間がいかに外側の存在や世界に支えられているのかと、微生物学から心理学まで、今まで目をむけてこなかった部分が解き明かされているのがすごくワクワクします。

なぜかっていうと、生きやすくなりたいからなんですよね。生きづらい状況を緩和する研究がしたい。根本はめんどくさがり屋で困難に立ち向かうのもできればしたくないけど、気付いたら仕方なくチャレンジしている感じがして。それもいろんなレイヤーがあると思っていて。周囲の人とのコミュニケーションが弾まないというケースでも、すごく軽い場合もあれば深刻な場合もある。そのときにどうやってまわりと生きやすく共生できるのか考えていきたいんですよね。

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村上 : 生きやすいという話でいうと、翻訳のプロジェクトもすごく大事なテーマのように思います。極地では「存在感ゼロ」というツールが一番頼りになるんです。この防寒ウェアみたいに当たり前にありすぎて、着てることを忘れるくらいベースを底上げしてくれるツールが手放せない。

そういう意味ではドミニクさんの翻訳の研究に興味があります。極地のミッションでは「英語」というどうしても使わないといけないツールがある。僕もその現場では英語で会話するんですが、いつも課題として感じているのは性格が変わってしまうということ。英語でしゃべると性格も世界の映り方も少し変わるんです。

SVOCがはっきりするから、課題解決と責任の所在がはっきりする。それ自体はいい。でもチームが不穏な雰囲気になってきたときに、英語の会話が苦しく感じるんですね。日本語が結構いいなと思うのは「この後、飲みに行く?」とか聞くと「or」で答えられるけど、英語はだいたい「Yes」か「No」になってしまう。

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ドミニク : やっぱりツールが多くあるほうがつぶれないっていうのは、僕もずっと感じてきました。僕は東京で生まれ育って、フランス人学校に通っていたので、子どもの頃は学校の中でフランス語で会話していて、一歩外へ出ると日本語に切り替わる。

それで周りの保護者たちは50カ国語以上の言語でしゃべっていて、そうなると言葉は本当にただのツールなのだと実感しました。ある一つのことを言い当てるのに適している言語があるんですが、その一つの言語がすべてを賄うことは到底できないという思いが出てくるんですね。

そのうえで、言語によって特徴が異なるのがおもしろい。たとえば日本語は主語を抜かせる。日本語では「こう思うんだけど」と主語がなくてもいいですが、英語では「I think」など、主語をはっきりしないといけない。どっちがいい悪いではないんですね。日本で生活していると、もっとはっきり話してほしいと思うこともある。

逆にヨーロッパから日本に帰ってくると、曖昧な感じが気持ちいいって思うこともある。熱い温泉とぬるま湯のどっちもコンテクストによってはいいと思える瞬間がある。原理主義者にならなければよいなと思います。

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―――イベントに参加している皆さんのなかで、質問がある方はいませんか?

参加者 : 私は建築の設計の仕事をしているのですが、極地での人とモノ、建築の関係性をどう考えていらっしゃいますか?

村上 : 今日お話したことのポイントは、狭い空間では人間同士の異物感が出てしまうということ。それは避けられない。建築もそうで、空間のなかではどうしても異物感が生まれます。衣食住というツールで、その異物感とどう向き合うか。食は異物を取り込む。衣は異物の境界を示す。住は異物を祓う。そんな役割があると僕は思っています。

たとえば、食はテーブルを囲んで、食材にしても食文化にしても、知らないものを一緒に取り込む場。衣は、時間や役割を切り分けられる装置で、ユニフォームって結構大事なんです。たとえば、なにかお願いしたい作業があったとして、パジャマを着ている人には仕事を頼みにくい。言葉でなくても、この人はリラックスモードなのか、仕事モードなのかが示されて、異物感の境界を示す機能を担ってくれる。

住でいうと、異物感を祓うという機能があると思います。たとえば今日はあの人が腹立たしかったけれど、明日起きたら初めて会った人みたいに心の切り替えを感じるのは、衣食住では空間の体験といえます。

ただ極地だと狭いので、空間的に気分を切り替えることが難しくなってくる。食卓と会議のテーブルが一緒だったりするので、ご飯を食べていると会議のときのモヤモヤを持ち込むんです。それをどう解決していくかというのが課題。人間も空間も時間も、「間」という字が入る。間合いをつくるのが大事なんですよね。それがなくなってくると、窮屈になってくる。リアリティが感じられなくなって、よくない意味で感情的になってしまったりする。

ドミニク : コロナ禍で宇宙基地みたいに閉鎖的な環境で生活をする人が増えて、狭い空間でずっと他者と一緒にいることで互いに異物感を抱くことが本当に増えたと思います。だから宇宙や南極といった極地の経験を、日常の平地の暮らしとつなげて考えることもできそうですね。

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「THINK SOUTH FOR THE NEXT」プロジェクトと連動して発売されたプロダクト。
*在庫状況によっては売り切れの場合があります。ご了承ください。



■PROFILE transit_thinksouth_a_16-min.png 村上祐資(むらかみ・ゆうすけ)●南極やヒマラヤ遠征隊など極地の生活を踏査する「極地建築家」。2008年に日本南極観測隊越冬隊員として地球物理観測に従事。2013〜2017年にかけて行なわれた模擬火星居住実験「The Mars 160 Mission」では副隊長を務める。計1000日を超える閉鎖隔離生活経験をもとに、極地の居住空間を考える。(写真左)
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DOMINIQUE CHEN(どみにく・ちぇん)●早稲田大学文学学術院教授。テクノロジーと人間と自然存在の関係を研究し、コミュニケーション、情報学、メディアアート、哲学といった分野を横断的に活動する。日仏英のトリリンガル。著書に『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために』など。(写真右)


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